人気ドラマ『SHERLOCK/シャーロック』(2010年)のホームズ役で一躍人気俳優になったベネディクト・カンバーバッチ。危うい変人ながら鋭い頭のキレを持つシャーロック・ホームズの演技に痺れる人が続出しました。マーベル映画『ドクター・ストレンジ』では主人公を演じ世界的に有名になり、Netflix映画『パワー・オブ・ドッグ』では葛藤を抱える牧場主を演じアカデミー主演男優賞にノミネートされました。見るからに頭が良さそうで紳士的ながら、同時に強靭な肉体を使ったアクションもできる。次に何をするのか分からない緊張感もあるし、それでいて人間の弱さも透けて見える複雑な演技もできる。ベネディクト・カンバーバッチの出演が決まると「この作品ではどんな役で来るのだろう?」と、期待して追ってしまう存在です。
この記事ではベネディクト・カンバーバッチのプロフィールと俳優としての魅力を深掘りしつつ、現在Netflixで観られる出演作品のうち4本を紹介します。
ベネディクト・カンバーバッチのプロフィール
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俳優ベネディクト・カンバーバッチは1976年7月19日、イギリス・ロンドン生まれ。両親ともに俳優という環境に生まれ、名門パブリックスクール「ハーロー校」在学中に演劇の世界へ。リチャード3世の遠縁という事実が後に判明し、リチャード3世の遺骨が大聖堂に埋葬される際はリチャード王に詩の朗読を行いました。
大学入学前には、インド・ダージリンのチベット僧院で英語を教えるというユニークな経験を積んでいます。マンチェスター大学で演劇を学んだ後、ロンドン音楽演劇アカデミー(LAMDA)で古典演技の修士号を取得。舞台俳優として経験を積んだのち、2004年にBBCのテレビドラマ『ホーキング』でスティーブン・ホーキング博士を演じ、初主演ということもあり大きな注目を集めます。
2010年にBBCドラマ『SHERLOCK/シャーロック』に主演し、世界的な知名度を獲得。2014年には映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、2021年の映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』では2度目のノミネートを果たします。
演技への貢献が認められ、2015年にはエリザベス女王より大英帝国勲章(CBE)を授与。舞台でも2011年のナショナル・シアター公演『フランケンシュタイン』でローレンス・オリヴィエ賞主演男優賞を受賞しています。2014年には『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出されるなど、英国文化を代表するアイコン的存在となっています。
俳優ベネディクト・カンバーバッチの魅力。知性・フィジカル・演技の幅
1. 「頭脳派」の役を体で演じる
シャーロック・ホームズ、アラン・チューリング、ドクター・ストレンジ……カンバーバッチが選ぶ役には、「圧倒的な知性を持つ人物」が多く並びます。しかしその知性を台詞の言い回しだけでなく、姿勢・視線・呼吸のテンポで表現するのが彼の真骨頂です。
たとえば『SHERLOCK/シャーロック』では、見ているだけで”思考の高速回転”が伝わってくる身体表現を見せます。台詞を発する前の一瞬の間、鋭く動く目。「天才を演じる」のではなく「天才が動く様子を再現する」ことへのこだわりが、あの圧倒的なホームズ像を生み出しました。
2. 悪役からヒーローまで。フィジカルな役もこなす幅広さ
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カンバーバッチはフィジカル(肉体)的に屈強な役も高い完成度でこなします。マーベル映画『ドクター・ストレンジ』では本格的なアクションシーンをこなし、Netflixオリジナル映画『モーグリ ジャングルの伝説』では凶暴なトラ「シア・カーン」の声とモーションキャプチャーを担当。声と身体全体で怪物の威圧感を表現しました。
「細身で知的な英国人俳優」というイメージを軽々と超えて、怪物や悪役としても説得力を持つ、そこにベネディクト・カンバーバッチの俳優としての懐の深さがあるように思います。
3. 人物を演じるときの「解像度」の高さ
アラン・チューリング(『イミテーション・ゲーム』)、フィル・バーバンク(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)のように、実在の人物や複雑な内面を持つ役を演じるとき、カンバーバッチの演技はひとつ上の次元へ入ります。
『イミテーション・ゲーム』では、チューリングの入れ歯から作った義歯を着用したそう。AI(人工知能)について語るときよく引用される「チューリング・テスト」の考案者であり天才数学者ながら、同性愛者で孤独を抱え続けたチューリングに深く没入して演じきりました。
カンバーバッチのアプローチは演じる人物が抱えている矛盾や痛みを、表情の奥に宿らせるようで、観客が「なぜこの人はこんな行動を取るのか」と問いながら目を離せなくなるのは、その”内側からにじみ出るもの”があるからでないでしょうか。
ベネディクト・カンバーバッチの出演のNetflixオリジナル作品
1. ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語(2023年)

ウェス・アンダーソン監督×ロアルド・ダール原作×カンバーバッチ主演の短編集。第96回アカデミー賞の短編実写映画賞を受賞したNetflixオリジナル短編映画(約40分)です。
裕福な遊び人ヘンリー・シュガーは、ある日「目を使わずに見る能力」を持つ人物の記録を読み、その力を習得しようとする。やがてカード賭博で無双する男の物語が、メタ的な語りの入れ子構造で展開していきます。
ウェス・アンダーソン監督特有の左右対称の画面構成と独白劇のような演出の中で、カンバーバッチは「自分が演じていることを自覚したまま演じる(!)」高度な役を演じています。美意識の高いウェス監督の世界観の中で躍動するカンバーバッチの魅力をぜひ堪能してください!
・関連記事:Netflixで視聴できるウェス·アンダーソン作品。強烈ファンを生む唯一無二の世界観とは?
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2. パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年)

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は『ピアノ・レッスン』で知られる、ジェーン・カンピオン監督の傑作西部劇。1920年代のモンタナ州の牧場を舞台に、カリスマ的存在として周囲から恐れられる牧場主フィル・バーバンクをカンバーバッチが演じます。第94回アカデミー賞で12部門ノミネート(監督賞受賞)という評価を受けた1本です。
弟(ジェシー・プレモンズ)が連れてきた妻(キルスティン・ダンスト)とその息子ピーター(コディ・スミット=マクフィー)に対し、執拗な嫌がらせを続けるフィル。強さと残酷さの裏に隠された、長年の孤独と秘密が浮かび上がっていきます。
典型的なホモソーシャル(男社会)だったカウボーイの世界に生きるフィルにとって、権力的な男性性への憧れと同性愛的志向は曖昧に混在している。
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は旧約聖書の詩篇22の20「私の魂を剣から救い、犬の力から助け出してください」から来ているそう。犬はフィルの憧れの存在やピーターにも繋がるモチーフであり、人の根源にある強さ・恐怖や悪のようなイメージとして扱われます。
イギリス英語を封印し、アメリカなまりの英語を駆使し、さらには小綺麗より粗野を好むフィルを演じるために数週間お風呂に入らなかったというカンバーバッチの怪演をぜひ楽しんでください! ゆっくりとした展開が好みの方、心理的なドラマに食らいつける方にぜひ。
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3. エリック(2024年)

『エリック』はカンバーバッチが久々に長編ドラマシリーズの主役を張り、製作総指揮も務めたNetflixシリーズ(全6話)です。
退廃的な色合いの1980年代のニューヨークが舞台で、子ども向けテレビ番組のカリスマ人形使いヴィンセントが主人公。70年代に一斉風靡した番組「おはよう お日さま」だが、いまは落ち目にある。ヴィンセントは感情や欲求のコントロールがうまくいかず、妻のキャシーとの関係もうまくいかない。
ある朝、9歳の息子エドガーが通学途中に突然失踪。後悔と罪悪感に打ちのめされたヴィンセントは、息子が描いた青いモンスター「エリック」を人形として作りテレビに出演させれば息子が帰ってくると信じ込み……次第に現実と妄想の境界が溶けていきます。
才能はあるが徹底的にダメ男なヴィンセントを観ていると憎たらしいのですが、そのダメさに引かれていく。それこそがカンバーバッチの演技力の賜物(たまもの)なのでしょう。
お子さんのいる方は「巣立ち」と親離れ・子離れについて深く考えさせられるはず。サスペンス・スリラーとしても非常に面白いです。
・関連記事:息子の失踪と対峙する父親の物語 Netflixシリーズ『エリック』が教えてくれる人生の真理
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4. モーグリ ジャングルの伝説(2018年)

アンディ・サーキス監督によるNetflix配信版『ジャングル・ブック』。カンバーバッチはモーションキャプチャーで凶暴なトラ・シア・カーンを演じています。共演はクリスチャン・ベール(黒ヒョウのバギーラ)、ケイト・ブランシェット(蛇のカー)、アンディ・サーキス(クマのバルー)と、英国の実力派俳優が勢揃いです。
オオカミに育てられた少年モーグリが、ジャングルと人間社会の間で自分のアイデンティティを模索する物語。ディズニーの明るい実写版とは異なり、こちらはより原作小説に近いダークなトーンで描かれています。
カンバーバッチが演じるシア・カーンは、ただ強いだけではなく威圧的な知性を感じさせるのが特徴。「俳優が声と動きだけでここまで存在感を出せるのか」という発見があるはずです。
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まとめ
知的な紳士から粗野なカウボーイにダメ男、実在の人物から怪物まで。ベネディクト・カンバーバッチという俳優は、「型にはまらない」ことそのものが武器かのようです。
Netflixで観られる作品だけ見ても、短編の実験的な映画(『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』)、重厚な心理西部劇(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)、狂気と哀愁が滲むサスペンスドラマ(『エリック』)、ダークなファミリー・アドベンチャー(『モーグリ ジャングルの伝説』)と、まったく異なる顔を見せてくれます。
「どれから観ればいいか」と迷うなら、まず『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』が40分と短くおすすめ。ウェス・アンダーソンの世界観ごと楽しめる、入門にも最適な1本です。ぜひチェックしてみてください!
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