9歳で俳優デビュー。『寝ても覚めても』『榎田貿易港』『ボクたちはみんな大人になれなかった』『ホテルローヤル』など多くの作品で賞を受賞し、2024年にはNHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』のヒロインとして絶大なる支持を集める。2025年は主演映画『風のマジム』に続き、日本最大級のミステリーランキング2冠の小説『爆弾』にも出演。毎日CMでも見ない日はない――。

伊藤沙莉さんってどんなキャリアの方? と聞かれたら、きっとすぐに上記のような言葉が出てくる。ではそんな伊藤さんはどのように俳優として前に進んできたのだろうか。

伊藤沙莉さん出演の映画『爆弾』(10月31日公開)は、取調室の中での駆け引きと心理戦、そして派手なアクションが繰り広げられる手に汗握る映画だ。同時に「善悪とはなにか」「人の価値とは何か」「家族の存在とは」についても深く考えさせられる作品だ。

(C)呉勝浩/講談社 (C)2025映画『爆弾』製作委員会イメージギャラリーで見る呉勝浩さんによる原作小説は2023年に刊行され、「このミステリーがすごい!2023年版」「ミステリが読みたい!2023年版」2冠を達成した

伊藤さんにインタビューする前編では、『爆弾』の物語を通して、伊藤さんが多くの人から信頼される背景を聞いた。

後編では「俳優の伊藤さんと素の伊藤さん」の違いから、「家族の存在」について掘り下げていく。

「令和の北島マヤ」

「大先輩にこんなこと言うのもあれですけど、技術の面でもすごいなと間近で見ててかなり思いました」

伊藤さんは「『爆弾』で共演した相手で影響を受けた人は?」という質問に、上記のように答えて夏川結衣さんの名を挙げた。夏川さんのすごさも本当に素晴らしいが、伊藤さん自身が俳優の仲間からも「すごいな」と思われている。

たとえば、2024年9月放送の「あさイチ」プレミアムトークに伊藤沙莉さんが出演した際、『虎に翼』で共演した、仲野太賀さんはこのように語っていた。

「天才だなって思いますね。ユーモアだったりシリアスだったりあらゆる表現がすごく的確で、それをぜんぶひっくるめて愛おしさがお芝居のうまさの上に乗っかってくる感じ」

その言葉にうなずく人は多いだろう。

『爆弾』では沼袋警察署の巡査・倖田紗良を演じる。紗良は坂東龍汰さんが演じる先輩の巡査長・矢吹とコンビを組む。「伊藤沙莉さんだけれど倖田紗良として生きている」ような「なりきる」演技はどうして生まれるのだろう。

「もう私がなりきるというよりは、全部作ってもらっているんです。メイクをして、衣装着て、現場に立って、演出をつけてもらって、いろんなスタッフの方に支えられてやっと立っていられるので、私が家から持ってきたんじゃないんですよ。だから、私が『役になりきる作業』をたくさんやったかと言われると、難しいですね。    

ただコンビ役が坂東くんだったこともあって、矢吹との会話のテンポ感とか、呼吸の合い方とか、空気の合い方とか、そういうところが紗良と矢吹につながれば、自然的に紗良の形を作っていけると思いました。だからどっちかというと関係性を大切にしましたね」

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今回のインタビューの前、伊藤さんは坂東さんとの対談をしていた。仲良くジョークを飛ばし合い、信頼し合っていることが伝わってくる。「カラオケ行こうね!バイバイ!」と対談を終えた伊藤さんに「矢吹と倖田そのまんまな関係ですね」と伝えると、「それより子供っぽいですね、お互いだけど」と笑っていた。

(C)呉勝浩/講談社 (C)2025映画『爆弾』製作委員会イメージギャラリーで見る

そういえば伊藤さんのことを「令和の北島マヤ」と呼ぶコメントも見かける。『ガラスの仮面』のマヤは天才的な演技で、役に入り込んでしまうこともある。と思えばさっきまで色っぽかったのにケロッと朴訥な少女に戻ることもある。伊藤さんはどうなのだろう。

「カットが上がったら伊藤です(笑)。集中力がそんなに続かないんです。映画とか舞台とか見るときに2、3時間座ってるじゃないですか。あれがギリギリ。だから撮影が終わっても、ずっとその役でいるのは難しいですね」

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