千葉翔也が声優として目指す「自分にしかできないこと」の日々

10年後、20年後にもその作品を思い出してもらえるような声優でいたい
声優 千葉 翔也(ちば・しょうや)

戸山キャンパス33号館前にて

『アオのハコ』(猪股大喜役)、『ようこそ実力至上主義の教室へ』(綾小路清隆役)、『青のオーケストラ』(青野一役)など、いくつもの「青春アニメ作品」で主人公役を演じる声優・千葉翔也さん。主人公に限らず、さまざまな作品で「青春の声」を演じる本人が青春時代を過ごしたのは、早稲田大学文化構想学部だった。在学中から声優として活躍し、サークル活動にも奮闘した千葉さん自身の青春物語と、声優としての矜持を聞いた。

学生らしい日々の中で…。“声優・千葉翔也”を育んだ早稲田時代

子役として活動し、幼少期から「演じること」が身近だった千葉さん。そのキャリアは中学生で一度ピリオドを打ったものの、「自分にしかできない仕事は何か」と考え、高校生から目指したのが声優という職業だった。

「高校2年生の頃から声優養成所に通い始めました。ちょうど大学進学を目指すタイミングでもあり、声優にとって身近なメディアや演劇、文学のことを学びたいと考え、早稲田大学の文化構想学部を志望しました」

入学後、大学1年時から声優としてのキャリアもスタートさせた千葉さん。学生と声優の両方に取り組むからこそ得られるものは何かを模索した。

「実際に大学生活を過ごした事実は、大学生役を演じたり、大学を経験したキャラクターを演じたりする際につながるはず。だから、仕事以外の時間で周りの友人とどんな経験を送るか。ちゃんと学生らしいことを満喫したいと思って日々を過ごしていましたね」

その一つがサークルでのバンド活動。先輩や仲間たちとの交流を振り返り、「自分でも『青春したなぁ』と思います」と当時を懐かしむ。

「仲のいい先輩の卒業で熱い涙を流し、学生のあの瞬間にしかないテンションを味わえたのはかけがえのない時間でしたね。声優の仕事では、部活動や卒業に向けて何かを頑張る役柄を演じることが多いので、間違いなく学生時代の経験は血肉になっています」

卒業ぶりに訪れた学生会館(戸山キャンパス30号館)で。学生の時はよく訪れていたという

また、早稲田祭のステージで演奏した経験から、声優としての表現とはまた違う刺激を受けることができた。

「声優や舞台でキャラクターを演じる際は、“役を立てる”のが基本。自分自身で何かを主体的に発信するわけではないので、バンドのステージで自分自身をどう表現するかを考えること、実際にお客さんを前に演奏できたことは“エンタメ”というものを考える上でも貴重な体験でしたね」

こうした経験も糧に、初めての主人公役を射止めたのは大学2年の時。高校ラグビーを題材にした作品『ALL OUT!!』の小柄なラガーマン・祇園健次役 だった。

「ちょうど学部のゼミが始まったタイミングで、そのゼミの時間と『ALL OUT!!』の収録時間がほぼ一緒。八方ふさがりになりかけましたが、ゼミの先生が非常に理解のある方で、なんとか両立することができました」

さらに、ほぼ同じタイミングで『月がきれい』でも小説家志望の主人公・安曇小太郎役を射止めた。

「放映時期はずれているのですが、収録は『ALL OUT!!』とほぼ同じ時期でした。片や、スポーツもので声量が求められる熱血漢の主人公。片や、アニメだけれど実写のような作品で、声以外での演技で内面性も表現したい内気な主人公。両極端のキャラクターを同時期に経験できたことで、芝居というものを考える時間も増えました。この時期があったおかげで“声優・千葉翔也”が形作られたのは間違いないですね」

「この人だからこうなった」という違いをいかに生み出すか

学生と声優、二刀流で過ごした早稲田時代を経て、卒業後はいよいよ“声優・千葉翔也”としての一本立ちが始まる。すでに主人公役を経験しているといっても、厳しい競争社会の声優業界。千葉さんであっても、安穏とはできない日々がしばらく続いたという。

「それまでは仕事の現場で最年少のことが多く、周りの皆さんからは『大学生なんだ。若いねぇ』という反応でした。でも、学生という肩書がなくなり、他の声優と同じ条件になったことでよりシビアな世界であることを痛感したというか。何より、仕事のない時間に何をすればいいのか。大学の同期のみんなは朝から晩まで働いているのに自分は何をしているんだろう…という焦燥感は大きかったです」

それでも、一つ一つの作品やキャラクターと向き合い、制作スタッフと向き合うことで実績と信頼を積み重ねていった。

「自分が納得いかない場合は、仮にOKが出たとしても、再度提案させていただく。また、声優と制作スタッフさんとは立ち位置が分かれやすいので、どうすれば心が通い合えるかを考える。当たり前のことかもしれないけど、日々違う現場に立つからこそしっかり意識しようと心掛けています」

卒業して8年、今年30歳を迎える千葉さんは、これからのキャリアをどのように考えているのか?

「主人公役をやり続けたいし、主人公以外の役柄も任せてもらえるように、常にあらゆる可能性を模索していきたい。そのためにも、人間としてもしっかり年を重ねていきたいです。先輩方を見ていると、年齢などの巡り合わせで射止めた配役もあれば、仮に20年後にオーディションしてもこの人だ、という配役もあると感じます。自分も、『千葉翔也だからこそ』というポジションを確立することは、長い目で積み上げていきたいテーマです」

その先に見据えるのは、多くの人に影響を与えられるような国民的な作品に携わることだ。

「国民的、というとざっくりとしたくくりですが、見た人がその業界を目指したくなる作品、実際にその作品のテーマに挑戦したくなるようなアニメに携わりたい。そして、 10年後、20年後にもその作品を思い出してもらえるような声優でいたいと思っています」

「自分にしかできない仕事は何か」と模索してたどり着いた声優という職種で、自分だけの役作りにまい進し続ける千葉さん。誰もが憧れる「自分にしかできないこと」の大願成就は難しい挑戦のように思えるが、発想の転換で見えてくるものが変わる、と千葉さんはアドバイスする。

「声優で主人公を目指すように、『自分にしかできないこと』と聞くと職種や役職といった“ポジション”で考えがち。でも、本当に大事なことは、誰でもできるような仕事で『この人だからこうなった』という違いを生み出すこと。それもまた、『自分にしかできないこと』ですよね。何に成るか、以上に、何をするか。任されたことをちゃんとやるのは当たり前。それ以外の部分で“自分らしさ”が出てくるんじゃないでしょうか」

そのためにも、自分の「可能性の幅」を広げる意識を持って日々を過ごすことが大事、と話を続けた。

「キャンパス内でも、自分がよくいる場所って限定されがちですよね。でも、階数が変わるだけで出会える人も経験もガラリと変わる。それが大学の良さです。社会人になると気付くのですが、大学ほど“自分と違う趣向の人”に出会える場所はありません。その価値をぜひ、皆さんも最大限に利用してください」

取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒業)
撮影:番正 しおり

1995年、東京都出身。2018年早稲田大学文化構想学部卒業。在学中から声優として活躍し、『ALL OUT!!』(祇園健次役)、『月がきれい』(安曇小太郎役)などの主人公役を演じ、その後も数多くの話題作、人気作のキャラクターを演じる。声優以外でも、ラジオパーソナリティーやソロアーティストとして2024年に1st EP「Blessing」をリリースするなど、活動の幅は多岐にわたる。好きなワセメシは武道家と麺爺。故源貴志教授(文学学術院)にはゼミでお世話になった。

X:@Shoya_Chiba
Instagram:shoya_chiba_official
公式Webサイト:https://www.toysfactory.co.jp/artist/shoyachiba/

【早稲田ウィークリー】紹介動画

2025年4月にリニューアルした『早稲田ウィークリー』紹介動画のナレーションを千葉さんに務めていただきました。学内サイネージでも放映しているので、ぜひチェックしてください!

千葉さんのXアカウントで紹介いただきました

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