ルオハン・ニー
海外ファッション・ウイークを現地取材するWWDJAPANは毎シーズン、今後が楽しみな若手デザイナーに出会う。本連載では毎回、まだベールに包まれた新たな才能1組にフォーカス。10の質問を通して、ブランド設立の背景やクリエイションに対する考えから生い立ち、ファッションに目覚めたきっかけ、現在のライフスタイルといったパーソナルな部分までを掘り下げる。
今回はピックアップする中国人デザイナーのルオハン・ニー(Ruohan Nie)は、2020年にパーソンズ美術大学を卒業後、21年3月に自身のブランド「ルオハン(RUOHAN)」を立ち上げた。在学中に「ザ・ロウ(THE ROW)」などでインターンシップで経験を積んだ彼女は、ミニマルながら繊細なディテールや構築的なデザインが強み。22年9月からパリ・ファッション・ウイークの公式スケジュールでコレクションを発表している。
24年、フランス国立モード芸術開発協会が主催する「ANDAMファッション・アワード」のファイナリストに選出されたほか、25年に初開催された上海ファッションデザイン協会と上海のエージェンシーYehyehyehによるアジア全域を対象としたサステナブル・ファッションアワード「Sustasia Fashion Prize」を受賞するなど、国際的な評価を高めている。日本では、24年秋冬シーズンから伊勢丹やユナイテッドアローズなどで取り扱われている。
1:出身は?どんな幼少期や学生時代を過ごしましたか?
私は中国の天津で育ちました。幼少期はさまざまな「練習」に集中していました。4歳からピアノ、8歳からフルート、12歳からチェロを習い、放課後は毎日、楽器の練習に励んでいました。当時の目標は、オーケストラでソロを取ることでした。音楽以外では、典型的なアジア人の学生らしく、良い成績を取り、良い学校に進学するために、一生懸命勉強していました。両親は多忙で不在がちだったため、12歳から大学入学までは寄宿学校で過ごし、幼い頃から一人の時間を楽しむ術を身につけていました。
2:ファッションに関心をもった原体験やデザイナーを志したきっかけは?
小さい頃から美しいものが好きで、いつも母のクローゼットに夢中でした。特に音楽の発表会は絶好の言い訳でした。本格的にファッションに興味を持ったのは、大学進学の時。進路を決めるのにとても苦労したんです。音楽を練習してきたものの、美術史にも強い関心がありました。特に記憶に残っているのは、2015年頃、中国の著名な画家・陳丹青が中国絵画の歴史やルネサンスのフレスコ画などについて語るアート番組を見たことです。大学出願を控えた夏、初めてその番組を見て、アートの世界に恋をしました。それはまるで遠い別世界のようでありながら、少し理解し始めるととても近く感じられるものでした。そこから、「美術を学び、オークショニア(競売人)になりたい」と思うようになったのです。
その後、パリの大学に進学しました。ファッションの世界に向かったのは偶然でした。パリにいながらファッションの存在を避けることは不可能ですから。デザイナーになると明確に決めたのは、あらゆる芸術が相互に結びついていることに気づいた時です。建築、家具、絵画、ファッション──それらはすべて独自の論理を構築し、実践する手段なのだと理解しました。中でもファッションは、ある種の型が明確に存在する、とても具体的な実践の手段だと感じました。
3:自分のブランドを立ち上げようと決めた理由は?
自分のブランドを始められたことは、本当に幸運でした。そもそも、キャリア初期に重要なメンターたちと出会えたことが大きな転機で、彼らの指導のもと自分でブランドを手掛ける自信を得ることができました。大学卒業後1年働き、上海ファッションウィークの出場権を懸けた賞を獲得して、ブランドを立ち上げました。
4:学生時代から過去に働いたブランドまで、これまでの経験で一番心に残っている教えや今に生かされている学びは?
常に好奇心を持ち、新しいことを学び続けること。
5:デザイナーとしての自分の強みや、クリエイションにおいて大切にしていることは?
一番の強みは、一貫性です。ドローイング、建築、ビジュアル、何においても、常に一貫したビジョンを心がけています。ここ数年で、私はこの“連続性“という感覚を大切にするようになりました。それは、自分自身が何者であるかを反映し、つながりや意図を感じられる作品を生み出すことです。デザインとは、媒体を問わず、孤立したアウトプットではなく、真の言語とアイデンティティーを築くことだと思っています。
6:活動拠点として、今暮らしている街は?その中でお気に入りのスポットは?
現在は上海に住んでおり、ブランドもここを拠点にしています。お気に入りは永嘉路にある「voyage coffee」。光の入り方がなんとも言えず、心を落ち着かせたい時に行きたくなる場所です。
7:ファッション以外で興味のあることや趣味は?
読書です。テーマにかかわらず、読書中は別の自分に出会える気がします。また、油絵もよく描きます。私にとっては、瞑想のようなものです。1色から始め、少しずつ茶、青、黄、白を混ぜて日常では見られない色を作り、パレットの調和を楽しむのが大好きです。
8:理想の休日の過ごし方は?
テラスで読書からスタートし、時間を気にせず感覚を研ぎ澄ませる。彼氏と犬と散歩し、部屋を片付け、夕食を作る。そんな日が理想です。長い休暇の場合は、美術館や建築が豊富な場所に出かけること。インプットを大事にします。
9:自分にとっての1番の宝物は?
高価なものや特別な意味を持つモノは、実はありません。服を作ってはいますが、自分のワードローブは非常にシンプルです。もし何かを挙げるなら、「創作への情熱」でしょう。毎年誕生日には、この情熱を失わないよう祈っています。
10:これから叶えたい夢は?
少し気恥ずかしいですが、将来的に国際的に高く評価される初の中国人デザイナーになりたいと思っています。生涯を通じて、自身のブランドか否かを問わず、コレクションを作り続けることが夢です。