『3分読んだら明日が変わる 恐怖へのトビラ』は大好評発売中!
『3分読んだら明日が変わる 恐怖へのトビラ』は大好評発売中!
この記事の写真をすべて見る

 たった3分で、あなたの日常が『ゾッとする世界』に変わります――。


 過去や未来、異世界へとつながる「トビラ」がカギを握るショートストーリー集『3分読んだら明日が変わる 恐怖へのトビラ』。開かずの間や保健室のドア、はたまたエレベーターの扉。その先で主人公たちを待ち受ける運命とは? ホラーをテーマにした本作の一部を「AERA Books」で限定公開する。

きれいになりたい

 リコの日課はSNSのチェックだ。かわいいアイドルやきれいなモデル、それに美容インフルエンサーを何人もフォローして最新情報に目を通す。なかでもとくに人気が高いインフルエンサーの投稿は、リコのような少女たちのコメントでいっぱいだ。

《めちゃめちゃかわいい! きれいでうっとりしちゃう! 美しくてうらやましい!》

「あーあ。あたしもこんなにきれいに生まれてたらなー。きっとめっちゃ幸せだよね」

 鏡に映る自分を見て、リコは深いため息をついた。理想とはほど遠い自分のルックス。

 目も鼻も唇も、肌も髪も体形も気に入らない。ぜんぶ修正できたらいいのに。

 母に「そのままでじゅうぶんかわいいわよ」と言われるとムッとしてしまう。

「お母さんとちがって、あたしは美意識が高いの!」とリコは口をとがらせた。

 その日、SNSでは、人気アイドルの整形疑惑が話題になっていた。体調不良で休養後、目を見張るほど美しくなって復帰したからだ。体形まで変わったように見える。

《ぜったい整形じゃん! まるで別人笑 でも、たった一週間でここまで変われる?》

「美容整形だとしたらすごすぎる。こんなにきれいになるにはいくらかかるんだろう」

 そんなことばかり考えてSNSを見ているから、リコのスマホには美容関係の広告が多く表示される。広告の中には無料モニターを募集しているクリニックもあるが、まだ十四歳のリコは当然対象外だ。親に頼んでもどうせ無理だろう。

「はー。きれいになりたいなぁ……」

 連休明けに登校すると、クラスの女子たちがざわついている。同じクラスのマナが突然美しくなって登校したからだ。別人のようになったというわけではない。たとえるなら、写真アプリの美顔加工フィルターをかけたような変化だ。顔も体も、すべてのパーツが完璧に修正されているように見えた。リコはマナの変化に呆然とした。

「そんなに変わった? 高熱を出したら食欲が落ちてさ、やせちゃったんだよね」

 マナの言葉を、リコは信じなかった。連休中に整形したにちがいないが、マナの顔には腫れも傷もない。ただやせたというより、スタイルがよくなっている。

 これほどすごい美容整形を受けたなら、かなりの費用がかかるだろう。

 同じ中学生なのにと思うと、くやしくてたまらない。

「何か秘密があるはず」リコはマナを注意深く観察した。

 一か月ほど経ったある日の放課後。

 リコはマナがあわてて下校するのを見た。マフラーで顔を隠すようにしているところがあやしい。リコはそっとマナのあとをつけた。

 街中にある古いオフィスビルに、マナは駆けこんでいく。ホールにはだれもいない。

 マナはエレベーターの前で、必死に何かを捜していた。持っていたカバンや制服のポ

ケットをひっくり返している。後ろ姿しか見えないが、マナはひどくうろたえていた。

「どうしよう。カードがない……! お願い、開けて! ここを開けて!」

 エレベーターのドアをドンドンと激しく叩き、マナが叫ぶ。開かないドアの前で、マナはわっと泣き崩れた。「嫌だ、助けて」とすすり泣いている。

 会社員風の男性が一人ホールに入ってくると、マナはよろめきながらも顔を隠して立ち去った。男性

は昇降ボタンを押し、開いた扉の中に入ると上の階へ上がっていく。

「なんでマナはエレベーターの扉を開けられなかったんだろう?」

 リコはホールに入り、エレベーターのドアを見た。十階までのボタンが表示された普通のエレベーターだ。さっきの男性のように、昇降ボタンを押せばいいだけなのに。

「カードがないとか言ってたな……。どういう意味なんだろ」

 考えながらホールを出る。ビルから出て数歩のところで、リコは足もとに落ちているカードを見つけた。プリズムのように光るカードを拾うと、ロゴが浮き出て見える。

「未来整形病院・お直しカード……?」

 カードのロゴには見覚えがある。何度もスマホの広告に表示されていたからだ。

『百年先の技術で完璧な美を。無料モニター募集中。年齢性別不問』

 さすがにあやしいと思い申しこまなかったが、これがマナのカードだとしたら。

「マナが急にきれいになった秘密はこれかもしれない」

 リコはカードを持って引き返した。マナのように、エレベーターの前に立つ。

 すると不思議なことが起こった。古びたドアが、まばゆく発光しながら開いたのだ。中からは光があふれ、やわらかな女性の声でアナウンスが聞こえてくる。

『百階、未来整形病院・モニタールーム直通です。お乗りになりますか?』

「百階……? このビル十階建てなのに、どういうこと?」

 ためらいはあったが、チャンスをのがしたくないという気持ちのほうが強かった。

 リコは光るエレベーターの中へ乗りこんだ。ドアが閉まる。

 奇妙な浮遊感。ものすごいスピードで上昇していくのがわかる。

 やがて「百階です」というアナウンスとともにドアが開いた。

 プリズムのように光るクリニック。なめらかな曲線を描いた壁や備品は、リコが知っている建物とはまったくちがう。未来の世界に足を踏み入れたように思えた。

「モニターさまですか? ご案内します。こちらへどうぞ」

 人形のように美しい受付スタッフが、とまどうリコに完璧な笑顔を向けた。

 その日の夕方。

 リコがいつもより遅く家へ帰ると、出迎えた母がおどろき、言葉を失った。

「どうしたの? リコ。本当にリコよね? なんだかちがう人みたい……」

「何言ってんの? あたしに決まってんじゃん!」

 自分の部屋へ入ると、リコは改めて大きな鏡に自分を映した。

「ふふ。完璧! さすが、未来整形病院。ぜんぶバージョンアップした感じ!」

 顔立ちだけではない。肌、髪、手足。全身すべてがリコの理想どおりになっている。

 リコが突然美しくなった理由は、だれにもわからないだろう。学校は一日も休んでい

ない。下校後の数時間で容姿がこんなに変わることなど、普通はあり得ないのだから。

「現代じゃ無理だよね。未来へ行かなくちゃ!」

 リコは鏡の中の自分に見とれて笑う。百年先の技術が、リコを劇的に変えたのだ。

 あのエレベーターはタイムマシンだった。特別なカードをかざすことにより、百年先の美容整形クリニックへ行くことができる。リコは未来整形病院で最先端の美容整形手術を受けて二週間入院したが、戻ってきたら一時間しか経っていなかった。

「費用はぜんぜんかからなかったし。モニターになれて超超ラッキー!」

 だが、まったく不安がないわけではない。

 リコは未来整形病院で担当医師から受けた説明を思い出していた。

「──過去百年間で、美容整形の技術は飛躍的に進歩しました。理想の美しさを求める人がいる限

り、新しい技術は開発され続けるでしょう。ただし」医師は続けた。

「現在は人体実験が法律で禁止されているのです。残酷だという理由で動物実験も禁止されました。完全なデータを得るため、過去からモニターを募集しているというわけです。AIが、未来に大きな影

えい響を及ぼさない人間を選別して広告を表示しています」

「なぜ過去の人間ならモニターになれるんですか? 違法じゃないんですか?」

「法律が定められたのは九十九年前なので、それより前の人間に現在の法の規制は及ばないというのが私どもの考え方です。動物は意思表示できませんが、人間は嫌なら嫌と言えますからね。もちろん、無

理強はしていませんよ。あなたも、すべて自己責任であるという項目をチェックしましたよね?」

 医師は淡々と説明し、リコに光るカードを渡して言った。

「あなたに施したのは、いわば『理想の型』に溶かした体を流しこんで固めるような、最先端の美容技

術です。もちろん、現段階での安全性は確認していますが、生物は予期せぬ副反応を起こすことがあるのでね。お直しは一回のみお請けします」

 ──それから三か月が経った。リコは以前と変わらず学校へ通っている。

 女子たちがリコをあこがれの目で見ながらささやく声が聞こえる。

「はー。いいなぁ……。モデルみたい。リコちゃんみたいにきれいになりたい」

 だがリコの表情は暗い。

 教室で、ずっと空いていたままのマナの席に目をやる。

 マナはあれから登校していない。そういえば、急に美しくなったあのアイドルも、二度目の療養後に突然引退してしまった。

 なぜためらいもせず整形手術を受けたのだろうと、リコは何度も考える。

 なぜあんなに自分の容姿を変えたいと思ったのか。SNSなど見なければ──。

『お直しカード』を使ったのは、手術からたった一か月後だった。自分の部屋にいたとき、突然、顔の片側がズルリと垂れ下がってきたのだ。あのときのショックと恐怖。

 もしまた同じことが起こったら。いや、もっとひどいことが起こる可能性だってある。今の技術ではぜったいに修復することはできないし、あのエレベーターは二度とリコを未来へ連れていってくれない。不安のあまり泣き叫びそうになる。

 悪夢のような現実。鏡を見ることが恐ろしいが、確かめずにはいられない。

 ひとりになると、震える手で手鏡を取り出す。

「まだひどく崩れてないよね。まだ……」

 リコは鏡に映る自分を見た。

「きゃぁああああーーーっ……!」

 喉から恐怖の悲鳴が漏れ、手鏡が落ちてこなごなに割れた。

(著・桐谷 直)

「トビラ」の先で“恐怖”があなたを待ち受ける――


短くて読みやすい18のお話が楽しめるショートストーリー集

小・中学生の「朝読」にもピッタリ!


〈こんな方にオススメ〉

・読書が苦手な小・中学生(各話が短いので読みやすい!)

・「朝読」で読むものを探している人

・ホラーが好きな人


『3分読んだら明日が変わる 恐怖へのトビラ』 大好評発売中!

Share.

Comments are closed.