『3分読んだら明日が変わる 恐怖へのトビラ』AERA Books試し読みを公開!
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たった3分で、あなたの日常が『ゾッとする世界』に変わります――。
過去や未来、異世界へとつながる「トビラ」がカギを握るショートストーリー集『3分読んだら明日が変わる 恐怖へのトビラ』。開かずの間や保健室のドア、はたまたエレベーターの扉。その先で主人公たちを待ち受ける運命とは? ホラーをテーマにした本作の一部を「AERA Books」で限定公開する。
あかず女(め)
小さな駅舎を出ると、夏の日差しがまぶしかった。わたしは手でひさしをつくり、目を細める。電車内は涼しかったのに、早くも汗が噴き出てくる。
「ミチルちゃーん。こっちこっち」
セミの大合唱の中、声がしたほうへ目を向けると、祖母が右手をあげていた。隣に祖父も立っていて、その後ろには白い軽乗用車がある。
「おばあちゃん! おじいちゃん! 久しぶり!」
ずいぶん前から、ひとりで父方の祖父母の家に遊びにいく計画を立てていた。
夏休みに入って、やっと実行に移せたのだ。
「大きくなったなあ、ミチル。もう五年生だもんなあ」
祖父は運転席に座り、祖母は助手席へ。
わたしはリュックを後部座席に押しこんで、その隣に腰をおろした。
「ミチル、シートベルトは締めたな?」と祖父。
「よし、それじゃあ出発だ」
「おっじゃましまーす」
田んぼや畑に囲まれた祖父母の家は、昔ながらの日本家屋だ。敷地も建物も大きくて、隣の家まで五十メートル以上、離れている。
「うわ、外は暑いのに、家の中だと涼しー」
冷房を使っていないのに、空気もべたべたしていなくてさわやかだった。
わたしに用意されたのは広々とした客間で、ほかにも使っていない部屋がたくさんある。
夕飯はちらしずしと天ぷらとから揚げが大皿で出てきて、すごく豪勢だった。
こんなに入らないよー、と言いつつ、デザートにスイカも食べた。大満足だ。
お風呂に入ってさっぱりし、今日はもう寝るかな、というときになって、ふと気づく。うす暗い廊下の奥に、立派な木の箱が置いてあった。
「前に来たときはなかったよね?」
近づいてみると、それは木製の古いタンスだった。その向こうにドアが見える。
これではタンスがじゃまで、中に入れない。開かずの間状態だ。
そのとき、ドアの奥から妙な音が聞こえてきた。
カリカリ。カリカリ。カリカリ。
床や壁を引っかくような音だった。なんだろう? ネズミでもいるのだろうか?
「あ、だから、ふさいでるのかな。てか、ネズミとか普通に無理なんだけど」
わたしは、さっさと客間に戻って、その日はぐっすりと眠った。
翌日は、宿題の風景画をかくため、画板とえんぴつ、水筒を持って近所を散策した。
お昼はおそばを食べ、夕飯は炊きこみごはんとすき焼きで、二日目も大満足だ。
お風呂で一日の疲れを洗い流してさっぱり。部屋に戻ろうとしたところで、ふいにまた、例のタンスが気になった。タンスというか、その向こうにある、開かずの間が。
わたしはタンスの前で足を止め、耳を澄ました。
カリカリという音は……聞こえない。
よく見たら、ドアのノブに縄が巻きつけられている。縄の一端は、タンスに結びつけられていた。
「なんなんだろ、この部屋」
つぶやいた、そのとき。
……ス……テ……。
人の声のようなものが聞こえ、ぞわっ、と鳥肌が立った。
「え、なに今の? ……助けてって言ってなかった?」
この家で暮らしているのは祖父母だけだ。今はわたしも含めて三人。
ほかに人がいるなんて聞いていない。
ねえ、だれかいるの? ドアの向こうに声をかけようとして、でも、できなかった。
だって、もし返事があったら……?
祖父母がここにだれかを閉じこめてるってこと?
怖くなったわたしは、急いで客間に戻って、ふとんにもぐりこんだ。
なかなか寝つけなかったけど、それでもいつの間にか眠っていたみたいで、気づくと窓の外は明るくなっていた。
洗面所で顔を洗ってから食堂へ行くと、祖父が先に食卓についていた。
祖母はもう食べ終わったみたいで、食器を片づけている。
わたしは意を決して、ゆうべのことをふたりに話した。
すると祖父母は顔を見合わせ、にっこり笑った。
「ミチルを怖がらせちゃったみたいだな。あれはネズミじゃなくて、イタチなんだ」
「イ、イタチ?」
「よく出入りして困ってるんだ。人の声に聞こえたのも、その鳴き声だろう」
「かまれてもいけないから、近づかないでね、ミチルちゃん」
なーんだ。怖がってソンした。
その日はあいにくの天気で、スケッチの続きには行けなかった。
祖母は車で出かけ、祖父は近所の会合に向かう。
留守番のわたしは、算数のプリントにとりかかった。
そうやって、雨音以外静かな家の中で問題を解いている──と。
……ざり……ざり……カチャン……。
妙な音が聞こえてきた。何かを引きずる音。それと金属音。
「おじいちゃん? おばあちゃん? 帰ってきたの?」
部屋を出て声をかけてみたけど、返事はない。
チャリン……ざり……しゅ、しゅ……。
わたしは音がするほうへ向かった。それは例の開かずの間から聞こえてくる。
またイタチのしわざだろうか? でも、なんだかもっと大きいもののような……。
「よ、よし! 中を確かめてやる!」
これもひと夏の冒険ってやつだ。祖父母が帰ってくるまでに戻しておけばいい。
わたしは力をこめて、タンスを押した。
かなり重いけど、少しずつ動いて、わたしが通れるくらいのすきまができた。
固く結ばれた縄を、苦労してほどく。
ドアノブに手をかけ、ごくりとつばを飲みこんだ。それから一気に押し開ける。
ぎぃぃいいい。
室内は暗かった。窓がないらしい。
それでも、奥に何かうずくまっているのがわかった。
それは──人間だった。
「え? ちょ、大丈夫!?」
ぼさぼさの髪をした女の子がぐったりしている。近づくと、すっぱいにおいがした。
女の子には首輪がはめられ、そこからのびた鎖が、壁の金具に固定されていた。
監禁という言葉が思い浮かんで、背筋が冷たくなる。
「い、今、助けるから!」
首輪をはずそうと手をのばした瞬間、がしっと手首をつかまれた。
顔を上げた女の子の丸い瞳が、わたしを見据える。
かわいてひび割れた唇が、生臭い息を吐いた。
「っと……まっ、て、……チ、ル」
ずっと待ってた、ミチル。そう聞こえた──。
気づくと、あたりは真っ暗だった。気を失っていたみたい。
立ち上がろうとして、チャリンと金属音が聞こえる。首に何かが巻きついている。手でさわって確かめると、それは首輪だった。
「え、ちょっと。どうなってるのこれ? ねえ! だれか! だれか!」
大声を出しても返事はなかった。
わたしは真っ暗な中、必死に首輪をはずそうとした。だけど、びくともしない。鎖につながれているせいで、自由に動けるのは数メートルだけ。
「だ、大丈夫。おじいちゃんかおばあちゃんが帰ってくれば、出してくれるし」
そう思った。そう、思ったのに……。
いったい、どれだけの時間が過ぎたのだろう。
大声で呼んでも祖父母が助けにきてくれることはなく、わたしは暗闇に閉じこめられ続けていた。
泣き叫びすぎて、喉が痛い。
なんで、わたしがこんな目に? この部屋はなんなんだろう?
どうして、だれも助けにきてくれないの?
閉じこめられていたあの子は、だれだったの? あの子は今どこにいるの?
ひとつもわからない。頭がぼーっとする。何もまともに考えられない。
「おっじゃましまーす」
そのとき、場違いなほど明るく、朗らかな声が聞こえてきた。
それは、わたしの声だった。どういうこと? わたしはここにいるのに。
今のは幻聴? わたしはおかしくなってしまったの?
「うわ、外は暑いのに、家の中だと涼しー」
どたどたと足音がする。
これって……。これってこれってこれってこれって!
ああ。ああ。ああああああああ! そうか。そうかそうかそうかそうか! そういうことなんだ! この部屋の外は過去なんだ! だとしたら。だとしたら。
「わ、たし……ここ、か、ら、出られ、る……」
あと三日。そう、あと三日だけ、もちこたえればいい。
何も知らないわたし(あの子)が、この開かずの間を開くそのときに──。
(著・にかいどう青)
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