累計900万部を突破した「わたしの幸せな結婚」の著者・顎木あくみさんによる人気シリーズ第2巻『人魚のあわ恋 秘めた想い、二つ』(文春文庫)に、ライターの嵯峨景子さんが寄せてくださった書評を公開します!
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『人魚のあわ恋 秘めた想い、二つ』(文春文庫)
和洋の文化が溶け合った華やかな帝都を舞台に、不幸な少女が幸せをつかむシンデレラストーリー『わたしの幸せな結婚』で人気を博す作家の顎木あくみ。和風恋愛ファンタジーを牽引する作者が手掛ける『人魚のあわ恋』は、人魚伝説を下敷きに運命の恋を描く、もう一つの帝都の物語だ。『わた婚』の醍醐味である甘いロマンス要素を引き継ぎつつ、耽美かつダークなテイストを織り込んだ本作の見どころを、最新刊『人魚のあわ恋 秘めた想い、二つ』を中心に紹介したい。
王道のロマンス×和風人魚譚
16歳の天水朝名(あまみず・あさな)は8年前、手首に鱗のような赤い痣が現れて以来、人間扱いをされず家族から虐げられて生きている。薬問屋を営む天水家には代々「人魚の血」をもつ特別な娘が生まれ、彼らは娘の特殊な能力を利用して莫大な財産を得る一方で、その存在を忌むべきものとして疎んできた。当代の「人魚の血の娘」である朝名もまた、父と兄からは化け物と呼ばれて商売道具にされ、娘を受け入れられない母からは存在を忘却されるなど、希望のない毎日を過ごしている。
ある日、朝名のもとに縁談が舞い込んだ。相手は、朝名が通う女学校に新しく赴任した国語教師の時雨咲弥(しぐれ・さくや)。彼は名門華族である時雨家の次男、かつ庶子という立場にあった。咲弥は覚えていなかったが、彼は幼い朝名に唯一優しく接し、心を救った命の恩人なのである。莫大な持参金を提示し、天水家に婿入りするという咲弥は、娘を家に縛り付けて搾取しようと企む朝名の父にとっては都合のよい結婚相手だった。化け物である自分と結婚すれば、大切な恩人を不幸にしてしまう。そう思いつめる朝名は懸命に縁談を断ろうとするも、とある事情を抱えた咲弥は、この結婚を押し進めようとするのだった――。
『人魚のあわ恋』第1巻(文春文庫)
第1巻では少しずつ距離が近づく朝名と咲弥の関係を中心に、互いの家庭の事情、そして二人の身体の秘密が描かれた。生家で虐げられている不幸なヒロインと、名門の血をひくイケメンヒーローの、政略結婚から始まる恋物語。『人魚のあわ恋』は王道のロマンスの中に、人魚にまつわる血なまぐさい要素を取り入れ、ほの暗さが漂う独自の世界を生み出している。血と毒をモチーフにした物語は、耽美かつ背徳的で、和風人魚譚にふさわしい陰鬱な美しさがえもいわれぬ魅力を放つ。
大きな満足感をもたらす第2巻
ロマンティックな設定に心を惹かれつつも、朝名を取り巻く状況があまりにも過酷で、読んでいてつらいと感じてしまった読者も中にはいただろう。そんな人は、ぜひ安心して第2巻の『人魚のあわ恋 秘めた想い、二つ』を手に取ってほしい。前作の残酷さはよい意味で後景化し、運命をともにする覚悟を決めた二人の奮闘と仲睦まじい姿が、甘やかなタッチで綴られる。「もっとヒロインに幸せになってほしい」と願う読者の期待に存分に応える展開は、大きな満足感をもたらすはずだ。
『人魚のあわ恋 秘めた想い、二つ』の朝名は、父と兄の支配下から一時的に逃れ、婚約者である咲弥の家に身を寄せている。だが彼らは商売のために娘を取り戻そうと画策し、朝名を守りたい咲弥は天水家に対抗するため、水面下で密かに動いていた。ある日、朝名は咲弥から〈――君は、家族を傷つける覚悟はある?〉と問いかけられる。この言葉をきっかけに、彼女は家族の問題に対峙する決意を固めるのだが……。
天水家という檻から一時的に解放された朝名は、自由と希望を手に入れた。だが同時に、俯瞰的な視点を得たことで、これまで「人魚の血の娘」としてたくさんの人を不幸にしてきた事実を突き付けられることになる。どうすれば自分の罪を償い、家族との因縁にも決着をつけられるのか。咲弥の言葉に励まされつつ、自分なりの贖罪のやり方を探して行動する朝名は、絶望して何もかもを諦めていたかつてのひ弱な少女ではない。咲弥という心から信頼できる相手と巡り合い、どんどんと強さを獲得して自らの手で未来を切り拓く朝名の姿に、熱い気持ちがこみ上げた。
本作は、女学校を舞台にした青春学園小説としての一面もあり、今は恋敵となってしまったかつての友人・杏子や、朝名を「お姉さま」と呼び熱烈に慕う下級生の智乃、凛とした性格の一匹狼だがなぜか朝名に声をかけてきた同級生のマキなど、個性的なキャラクターたちが物語を彩っていく。秘密を共有できる仲間を得た朝名の成長や、天水家の問題に向き合う朝名を援護射撃する女学生たちの大胆な作戦も、本作の大きな見どころだ。
高まりゆく互いへの恋心と、優しいふれあいを描いたロマンスパートはなんとも甘酸っぱく、くすぐったくも幸せな読後感を残す。これまでの咲弥は、どこまでも紳士的な好青年として朝名に接してきた。だが彼女への想いが深まるにつれて余裕を失い、嫉妬心など以前ならば決して表に出さなかったどす黒い感情も垣間見せていく。思いがけないかたちで露呈する咲弥の一面や独占欲も、二人の関係性が進展していることをうかがわせるものだ。
愛する人や、大切に思う人たちの存在に支えられた朝名は、彼女を閉じ込める鳥籠を自らの手で壊し、大きく羽ばたいた。強さと輝きを増した朝名はどこまで羽化するのか、そして咲弥との関係にはどんな波乱が待ち受けるのか。二人の姿と尊い絆をこれからもこの目で見届けていきたい。
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『人魚のあわ恋 秘めた想い、二つ』(文春文庫)の冒頭を読むにはこちら。

