台湾出身の俳優、グイ・ルンメイ。『藍色夏恋』(02)での鮮烈なデビューから、現在はベルリン映画祭グランプリ受賞作品『薄氷の殺人』(14)や、カンヌで絶賛された『鵞鳥湖の夜』(19)などで国際的に注目を浴びている存在だ。最新作『Dear Stranger ディア・ストレンジャー』は、『宮本から君へ』(19)などで知られる真利子哲也監督が全編ニューヨークで撮影したヒューマンサスペンスで、ある秘密を抱える妻であり母であるジェーンを繊細に演じている。彼女は人形劇の演出家であり、夫・賢治役の西島秀俊は廃墟研究家という設定で、2人の緊迫した関係が見どころだ。彼女の言葉からは、演じるキャラクターへの深い洞察力が伝わってきた。

©Roji Films,TOEI COMPANY,LTD.
この記事の画像(20枚)
◆◆◆
脚本の全部が好きだったから、出演に迷いはなかった
――この映画への出演を決めた一番の理由を教えてください。
グイ・ルンメイ 出演のオファーを受けるかどうか、実はほとんど迷いはありませんでした。脚本を受け取って読んでみたら、すぐにこの作品をすごく好きになったからです。この脚本には人間と人間の関係が描かれていますが、私の周囲を見渡してみても似たような人間関係はあるし、日常生活の中で人と人とのコミュニケーションがうまく取れないというのは、とても現代的な社会現象ですよね。
真利子監督の脚本の中で好きな点は、人形劇と廃墟を、ある種のメタファーにしていること。つまり人間関係の問題や、人は心の中では何を思っているのかが見えないということを、これらを通して表現しようとしているんですね。
そして、言語というものを捉えようとしているのも好きな点です。たとえ同じ言語を話していても、伝え切れないものはありますよね。言葉は直接的でもあり、非常に曖昧でもある。本当はこう言いたいのに、でもなかなか言えない、ということが描かれている。そういったことを含め、全部が好きで、それでオファーを引き受けました。

撮影:佐藤亘
――言語といえば、グイ・ルンメイさんは中国語と英語と、さらにフランス語も話すことができるそうですが、この映画の中でもジェーンは中国語と英語を使い分けます。ジェーンのように話している言語の違いによって、少しずつ感情がずれる感じは、ルンメイさん自身もありますか?
