土井コマキのアジア音楽探訪 Vol.19
ここ数年、「インドネシアがとにかく元気」と聞いていたので、ずっと行ってみたかったんですが、ついに念願叶って首都ジャカルタで開催されたフェスに行ってきました。結論から言うと、3日間で75,000人が入場した、まさに「とにかく元気」の渦中に放り込まれて驚愕しました。
私が参加したのは8月22日から24日まで開催された『LaLaLa Festival 2025』。ジャカルタ最大級のコンベンションセンター・JIEXPOが会場です。ここはジャカルタの北部にあって、現地の人にとってもわざわざ行くような場所で、生活圏内ではないよう。そんな場所にこの3日間だけ誕生する音楽のパラダイス。2016年にスタートした時はジャカルタではなくバンドン(音楽とカフェが溢れるヤングカルチャーの街だと聞いています)で、自然の中に音楽を持ち込むスタイルだったようです。そんなこともあり、屋外に設営された3つのステージを含め、会場中に森や花園を思わせるロマンチックなデコレーションがありました。
マーケティング担当のインタン(Intan Dhenisya)に尋ねてみると、「自然は常に『LaLaLa Festival』の心のなかにあり、森から街に会場が移った後も、有機的な美しさを持ち込みたいと考えました。植物やツタ、自然の形を取り入れることで『コンクリートの真ん中でも、音楽が庭を咲かせることができる』というメッセージを込めています。デザインコンセプトは『ファンタジーと生態系の融合』。ステージがまるで生きていて、観客の周りで成長していくように感じられることを目指しました」とのこと。確かにステージ自体がエネルギーに満ち、まるで生きているようでした。素敵だった。インタンが中心になって、多くのインドネシアの舞台美術家、建築家、ビジュアルアーティストと協力して制作されたそうで、『LaLaLa Festival』はインドネシアのクリエイティブ産業にとっても大切なイベントのひとつなんだと思います。
敷地内の池の噴水に、幻想的なビジュアル動画が投影されていました、これだけで有料レベル。凄すぎ
実はこれ登れるんですよ
入場ゲートから会場内へ続く通路の壁画には、ポップなストリートアートが
協賛企業のポップアップストアも、もはや建物レベル。美容サプリや生理用品などの女性をターゲットにしている出店が目立ちました。老若男女がいるこういうオープンな場所でバンバン生理用品をサンプリングで配っているのって、めっちゃいいなと思いました。意識改革できますよね。
夜の会場内は、まるでラスベガスのような非日常で華やかな世界。そしてそこに集まったオーディエンスもお洒落。この暑いなかロングブーツやレザージャケットの人も。シックでかっこいい〜。オフィシャルグッズもアパレルブランドとコラボしていて、その販売ブースには試着室がありました。デコレーションのスタイルも、もはや路面店。
みんなお洒落して集まり、週末をフルにエンジョイしてました。そして、めっちゃ歌うし踊るしお酒も飲む。3日間、16時くらいから夜中24時半くらいまで本当に大騒ぎで、最終日のヘッドライナーのBLACK EYED PEASの時には、「明日月曜日だけどみんな大丈夫なの?」と心配してしまうほど、遅くまで元気に大盛り上がりでした。
インターナショナルフェスなので、出演アーティストは、インドネシアのアーティストよりも海外勢が多かったです。その中で印象的だったのが、R&B〜ベッドルーム〜シンセポップ的な流れのサウンド。このシーンは、東南アジアで絶大な人気がある印象ですが、まさにその渦を体感できました! 日本ではあまり体感できない幸せな空間でした。yung kai〜JVKE〜keshiという流れからのトリにLANY! 会場中の目がハートになって、うっとりとした空気に包まれながらの大合唱。彼女をバックハグする男子たち。ええやないか。
そういえば、今年サマソニ(『SUMMER SONIC』)にも出演していた韓国のバンドのThe Roseも、すんごい黄色い歓声と大合唱が沸き起こっていました。
『MUSIC AWARDS JAPAN 2025』で最優秀アジア楽曲賞にノミネートされ、そのタイミングで来日していたシンガポールのシンガーソングライター・Regina Song(レジーナ・ソング)。その時にインタビューをしたのだけど、ライブをやっと見れました。まさに東南アジアのテイラー・スウィフトなんだな。10代後半から20代前半くらいの女子たちが大合唱。レジーナみたいな白とピンクを基調としたフワフワした洋服を着てる子たち、みんな可愛い恋をしているんだろうなぁ。
Regina Song
インドネシア国内アーティストで気になったのが、まずはLOR(ロア)という3ピースバンド。ジャカルタではなくジョグジャカルタという古都出身の彼らの音楽は、キャッチーなメロディとコーラスが魅力的。ワニのイラストがキーデザインによく使われています。ビデオの色使いなどもめちゃ可愛い。
Lor – Nowhere To Go (Official Music Video)
Lor – Groundhog Day // Movie *
INIS(イニス)はとってもファッショナブルなシンガーソングライター。音源で聴いているときは、しっとりと歌い上げるのかなと思っていたのですが、たとえば「Animal」という曲なんかはアッパーにアレンジされて、ダンサーを迎えてめちゃくちゃ踊りながら歌うんですよ。賑やか! いろんな表情をつけて楽しんでもらいたいのだそう。驚くことに日本語バージョンもあります。
INIS
INIS – Animal Music Video
INIS – Animal (Japanese Version) Official Lyric Video
そして、台湾のシンガー・?te/WHYTE(ホワイト)が、ジャカルタのミュージシャンを誘って、この日だけの特別なバンドセットで登場していたのも印象的でした。誘われたミュージシャンたちは、みんな若く、こんなに大きなステージは初めてという人たち。コーラスの女性が1曲自分のオリジナルを演奏して、こういうチャンスを与える?te/WHYTEも、受け入れる主催も、すごく素敵だなと思いました。
?te/WHYTE
バンドンで2016年に誕生した『LaLaLa Festival』は、コロナ禍の休止期間を経て、さらに大きく成長したコミュニティからの期待に答えるべくジャカルタへ移動して、いまやインドネシアと世界をつなぐプラットフォームとなりました。2026年は10周年で、ファン、アーティスト、パートナーと共に築き上げてきたすべてを祝う場、過去最大規模の「ありがとうパーティー」になる予定なんだそうです。先述のインタンからもメッセージを預かっています。
「日本の音楽と文化は、『LaLaLa Festival』を始めた当初から大きなインスピレーションとなってきました。日本のアーティストが私たちのステージに立つたびに、二つの世界が音を通じてつながっていると感じ、光栄に思います。私たちのメッセージはシンプルです。インドネシアはあなたの家でもあります。ぜひジャカルタで『LaLaLa Festival』を体験していただきたいですし、日本のミュージシャンをこれからも招待し続けたいと思っています。一緒に、音楽には国境がないことを証明し続けましょう」
勢いのある国というのは、こういうことなのだなと実感したフェスでした。この熱狂の『LaLaLa Festival』が10周年の来年、どんな夢を見せてくれるのか、今からとても楽しみです。

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