女優・唐田えりかさんによる連載『面影』第5回。
今回綴られるのは、Netflixシリーズ『極悪女王』で共演した芸人・ゆりやんレトリィバァさんについて。唐田さんはゆりやんさんを「レトリ」と呼んでいます。
昭和の女子プロレスを舞台に、ダンプ松本役として主演を務めたゆりやんさんと、そのライバルであり盟友でもある長与千種役を演じた唐田さん。過酷な現場で、唐田さんは彼女の強さとやさしさ、そしてしなやかさに、何度も支えられてきたといいます。
今回の写真は、五島列島・福江にて写真家・阿部裕介さんが撮り下ろしたもの。夏ののびやかさと、ふとした切なさが静かに息づく風景のなかで、ゆりやんさんと唐田さんの絆が静かに浮かび上がります。
2年間、ほぼ毎日一緒にいた
「ふざけることが私の美学」と彼女はとある歌の中で最高にクールに歌っているが、まさに彼女を表していると思う。今回は私にいつも刺激を与えてくれる、大親友のレトリくんのことを綴りたい。
レトリとは、女子プロレスを題材にした『極悪女王』という作品で出会った。約2年間、毎日のように会い、毎日トレーニングかプロレス練習か撮影をし、まさに苦楽を共にした。
プロレスラーを演じるため、体を大きくする必要があった増量期間中、吐きそうになるくらいご飯を沢山食べた。もう食べられない、無理!と思わず口走ってしまう私の横で、レトリはいつも無言でその3倍は食べていた。それを見て私も、無言で食べた。
「髪切りデスマッチ」の撮影
物語の終盤、レトリ演じるダンプ松本に私が演じる長与千種が敗北し、髪を丸刈りにされるというシーンがある。
あのシーンを撮り終えたあと、レトリは涙を目にいっぱい溜め、震えながら「ありがとう」と言ってくれた。攻める側の彼女も怖かったのだと、そのとき知った。
役作りのため、撮影中盤から実際に話すことも挨拶もやめていたら、本当にいがみあうような時間が流れていた。
今でも伝説と言われている試合の再現で、作品の中でも重要なシーンだった。あの試合の撮影だけで一カ月もかかった。髪を刈られる瞬間は、見たことがないカメラの数に、スタッフさん、三千人を超えるエキストラさん、失敗は許されない一発勝負だった。
感じたことがないくらいの緊張感が流れていた。
きっと、刈る方のレトリのほうが、プレッシャーがあったに違いない。それでも覚悟して思いっきり挑んでくれたことに、涙が出るくらい思いが溢れた。
レトリがいつも本気でぶつかってきてくれたから、私も何度も立ち上がることができた。どんなときも、お互いを信じ、思い合っていた。
レトリとじゃないと、作れないシーンが沢山あった。