『タイタニック』(1997)、『アバター』シリーズなど世界的メガヒットの映画を送り出してきたジェームズ・キャメロン監督にとって、悲願のプロジェクトがある。それは日本人男性、山口彊(つとむ)さんを主人公にした映画だ。今から80年前の1945年、出張先の広島で原子爆弾の被曝を受けた山口さんは、その3日後、列車で戻った長崎でも被害に遭った“二重被曝者”。山口さんは2010年に亡くなるが、キャメロンは、その死去の数日前に病院で面会し、原爆の映画を作ると約束した。
“二重被曝者”の山口彊さんは亡くなるまで自身の体験を伝え続けた。
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ハリウッドの巨匠が日本の原爆被害を映画にする。これは『オッペンハイマー』(2023)でも試みられたが、同作では実際の被害状況が映像化されることはなく、そこに不満の声も上がった。キャメロンもその一人で、『Deadline』のインタビューで「(自分は)実際にその場で体験し、生き延びた人の視点で描きたい」と語ったように、自身がメガホンをとる『Ghosts of Hiroshima』(山口さんらをフィーチャーした、作家チャールズ・ペレグリーノのノンフィクション)の映画化は、明らかに原爆へのアンチテーゼ、つまり反戦メッセージが濃厚になるのは間違いない。
映画が反戦を訴える──これは映画の黎明期に生まれ、派生し、現在まで綿々と続く作り手の「意志」でもある。アクション娯楽作として戦争を扱う場合は別として、そもそも戦争を描けば、そこに少なからず反戦へのメッセージが込められるのは必然。人間が武器を使って、同じ人間の命を奪う。それが戦争の真実であり、真実に迫れば迫るほど、その虚しさ、悲しさ、切実さが前面にせり出してくる。自作で「何かを伝えたい」のが映画製作者のモチベーションであれば、戦争を賛美する映画よりも、その過ちを訴える映画が多くなるのは当然でもある。
歴代の反戦映画
『西部戦線異状なし』(1930)
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