PROFILE: NANA
PROFILE: (ナナ)1999年6月26日生まれ、東京都出身。2020年3月に国際文化理容美容専門学校国分寺校を卒業。同年4月に「ナヌーク(nanuk)」に入社。PHOTO : NANAKO ARAIE
美容師の仕事は髪を切るだけではない。顧客が言語化できているニーズ以上を理解する洞察力、初対面の相手の心地よい温度を探りそれに合わせるコミュニケーション能力、「なりたい」「似合う」のバランスを探る感性、そしてそれを手作業に落とし込む技術力。あげればキリがないほど細やかで難易度の高い能力で成り立っている。
その技術や価値観、持っている視点は、サロン業界だけでなく、ファッション・ビューティ業界のあらゆる業種にも大いに参考になる。本連載では、有名サロンの店長が推薦する若手スタイリストを取り上げ、その接客力や感性、発信方法などを軸に仕事観やスタイルの裏側をひもとく。第1回はファッショナブルなサロンとして名高い「ナヌーク(nanuk)」。代官山店のNatsuki店長からの推薦で、スタイリスト歴1年のNANAさんに話を聞いた。

NANAスタイリスト PHOTO : NANAKO ARAIE
学生時代は剣道少女
最初はメイクアップアーティストになりたかった
WWD:美容師を志したきっかけは?
NANAスタイリスト(以下、NANA):小学1年生から高校3年生まで剣道をやっていて、その反動か着飾ることに関心が強く、メイクがとても好きでした。最初はメイクアップアーティストになりたいと考えていましたが、美容学校に入ってカットの技術を学んだりコンテストに出たりするうちにカットの楽しさに目覚めて。美容師であれば撮影でヘアメイクの仕事に広がる可能性もありますし、美容師になることを決めました。
WWD:美容師歴は6年でスタイリスト歴は1年。最初は集客の壁もありましたか?
NANA:今はインスタグラムが集客の主流になっていて、アシスタントからスタイリストになった時、自分のフォロワー数がそのまま結果に表れる現実に直面しました。最初はとても悔しかったです。自分自身は技術を磨いてきた自負があるので、なぜSNSで人気が出ないとお客さまが来てくれないのだろう、って。試行錯誤して発信を続ける中で少しずつ新規の方や再来の方が増えてきてようやく楽しくなってきた実感があります。
WWD:集客が取れるようになったきっかけは?
NANA:デビューしてすぐはお客さまから予約が入らず、何をアピールしたらいいか分からない時がありました。ウィッグでカットしたものをアップしても需要があるのは美容師さん。とりあえず自分の魅力を伝えようと考えて少しずつリール動画を増やしていきました。
世の中のお客さまは今、技術はもちろんですが、ファッション観など「自分に似ているな」と感じる美容師さんを指名することが多くなっていると感じていまして。ファッション感覚や得意なメイクアップなどをリール動画などで意識的に発信していったところ、伸長していきました。実際にそこから自分と近い感性やファッション観を持つお客さまが増えていった感覚があります。
営業中の動画もアップすることで、ヘアデザインやメイクの投稿だけでは伝わらないコミュニケーションの温度感、どんな表情で接客をするか、サロンはどんな雰囲気かなどを伝えています。営業中の動画は新規のお客さまの安心感につながっている気がします。
インスタグラムで投稿するサロンワーク動画の様子
インスタグラムで投稿するメイク動画の様子
接客は“美容師っぽくない”
WWD:顧客の年齢層は?
NANA:大学生から40代まで幅広いです。大学生であれば韓国っぽいスタイル、30代はモード感のある方が多い印象です。ほとんどのお客さまがインスタグラムから来店してくださいます。
インスタグラムを入り口に自分を知る方が来店することに対して、「期待をどう裏切らないか」を考えてわけが分からなくなる時期もありました。しかし、今は「自分らしくあればいいかな」と思えるようになりました。もしかしたら「SNSで期待していた像と違う」と思われる方もいるかもしれないですが、ギャップとして捉えてもらえればいいかな、と。ありのままで、かしこまらず、ラフに接客していて、もしかしたら“美容師っぽくない”という印象を持たれるかもしれないです
WWD:“美容師っぽくない”とは?
NANA:美容師の定型文で会話をしないように言葉のチョイスに気を配っています。一言一言にしっかり意味を考えて、その一言でいろんなものが伝わるように心がけています。
例えば、「熱いところないですか?」「痒いところないですか?」などは使いません。「熱くないのは当たり前」と言えるほどの技術を培っている自信はありますし、そういった「定型文だから言っておこう」という言葉はお客さまも勘付くと思っています。
私自身、人見知りで緊張しやすいので、お客の立場で店に足を運んだとき、「無理に会話を埋めようとしてくれているな」と感じ取ることがあります。だからこそ、会話を埋める手段として定型文は使わない。よく来てくださっている方はパソコンや漫画を持ってくる方もいる。無理に言葉で場を埋めようとせず、お互いに自分らしくいられる雰囲気が居心地の良さに繋がっているかなと思います。
NANAスタイリスト PHOTO : NANAKO ARAIE
NANAスタイリスト PHOTO : NANAKO ARAIE
NANAスタイリスト PHOTO : NANAKO ARAIE
WWD:そういった接客の姿勢はどのように培った?
NANA:アシスタントのときにディレクターについている時期が1年半あり、お客さまとの会話にフィードバックをいただいていました。「この会話は適切ではなかった」「お客さま全員が話したいわけではない」など。そこから、自分自身が席を外した時やお一人で過ごされている時間などの表情を鏡越しに読み取る観察の大切さを学びました。「鏡を見ていたら不安に思っているところがあるのかな」「携帯を見ていたら特に何も気にしていないのかな」など判断の材料にしています。
WWD:販売や商品提案のスタイルは?
NANA:押し付けることはせずに「これ良いですよ、私も使っています」とラフに伝えると、お客さまの方から興味を持ってくださることが多いです。スタイリング剤も「このスタイルはこれで仕上げました」と伝えると自然に購入につながるケースが多いです。
接客を通して重視しているのは、無理に話さないこと、押し付けないこと。正直、自分の中で「前髪だけでもパーマをかけたほうが素敵になる」と思って伝えても、その時の「うーん」の反応を見て違うと感じ取ったら引きます。
個人的な感覚として最近のお客さまは「自分はこれがいい」という意思や個性をしっかり持っている。そこに寄り添って条件は崩さないうえで、似合う形に持っていく。そしたら「難しい要求をやってくれた人」という印象になり、再来にもつながりやすいと思っています。
NANAスタイリスト PHOTO : NANAKO ARAIE
NANAスタイリスト PHOTO : NANAKO ARAIE
NANAスタイリスト PHOTO : NANAKO ARAIE
コンプレックスがあるから
分析が強みに
WWD:技術的に得意なスタイルは?
NANA:レイヤーカットとパーマです。特に最近はブラッド感を残したレイヤーカットを求められる方やレイヤーを多く入れたパーマの方が多くて。それを自分自身でもSNSなどで打ち出していたので、それが自然と得意になっていったと思っています。
得意とするレイヤーカット
得意とするパーマスタイル
WWD:技術を磨くうえで意識していることは?
NANA:営業中は先輩のビフォーアフターをよく見るようにしています。気になる質感があれば、「何を使ったんですか?」と聞いたりして、自然に情報収集しています。技術には自信があります。根っこの性格が真面目なので、学生時代からとにかく追求することが多かったです。
WWD:トレンドやインプットはどのようにしている?
NANA:韓国のメイクさんの投稿や海外の美容師のインスタグラムから学ぶことが多いです。写真の撮り方などもそこから学ぶことがあります。お客さまのファッションも参考になります。皆さん感度が高いので刺激になりますね。
WWD:Natsukiさんからの推薦文にも言及があった「自己分析の強み」はどう培った?
NANA:いい意味で自分にコンプレックスを持っているので、他人にどう見えているかを頻繁に考えています。自分では良く見えているけれど、写真では「少し面長に見えるな」と感じたら、すぐに前髪を切ったり。ブロンドにしていた時に伸びた根元が気になって黒のローライトを入れてみたり。色落ちがいやだなと思ったら赤にしてみたり。お客さまへの提案力につながるので思い切ったヘアスタイルやメイクアップも挑戦しています。
自分が好きなテイストもありますが、自分が好きでも他人から見て似合っていなかったら、私はとても気になってしまう。他者からの目線を取り入れながら自分の好きを表現しつつ、人の意見も積極的に参考にして沢山挑戦しています。両方の目線を持っているからお客さまの“似合う”を探せるのかもしれません。
WWD:そういった視点はSNSにも生きている?
NANA:必ず「自分だったら」という思考で考えていて。私であれば気になった動画があればその人のフィードにすぐ飛ぶ。なので、メイク動画で自分を見つけてくれた人が自分のインスタグラムのフィードに飛んだ時に「私は美容師だよ」と分かるように、メイクとサロンワークの動画量のバランスを考えたりしています。
WWD:来店した顧客からメイクのアドバイスを求められることも多い?
NANA:あります。「どこのアイシャドウをつけていますか?」など美容の情報を求める人もいれば、リラックス目的の人もいて。「美容室=髪を切る場」だけでなくなっている感覚は強いですね。だからこそ自分が身につけているものはネイルもコスメもスキンケアも全てに応えられるように自分が身につけているものの背景を知って理解することを大事にしています。
WWD:今後の展望は。
NANA:直近の目標は予約が取りにくい美容師になること。女性として結婚や将来のライフプランも考えていて、美容師を離れる可能性が出てきた時に何ができるかも考えています。メイクやアクセサリーといったプラスアルファの活動も、美容師とあわせてしていきたいです。
NANAスタイリスト PHOTO : NANAKO ARAIE
NANAスタイリスト PHOTO : NANAKO ARAIE
最後に、NANAスタイリストを“次世代を担う美容師”として推薦した「ナヌーク」代官山店のNatsuki店長のコメントを紹介する。
NANAを選ばせて頂いた理由は自分自身の強み・弱みを理解し、自己分析をすることで発信の仕方や表現力、ヘアスタイルのデザインに対する技術力が日々成長しており、これからもっと飛躍していく姿を見られることが楽しみだからです!
美容師としてお客さまの大切な髪を任せていただきヘアスタイルを作ることはとても貴重で、特別なことです。お客さまの求めていること、それ以上のモノを提供できるようにするためにはまずは美容師自身がファッション、メイク、ヘアスタイルに向き合って分析していくことがとても大事だと思います。
NANAは、彼女自身が色々なメイク・髪型に挑戦し、さらに自分が好きなモノ、雰囲気を形にできるよう、練習や発信をし、日々変化を遂げています。そんな積み重ねがあったからこそ、お客さまのさまざまな悩みに向き合えていて、その悩みに合わせながらNANAが持っている感性を爆発させヘア×メイク×ファッションそれぞれの魅力を引き出し、素敵なヘアスタイルを作っている姿がSNSからも溢れ出ているので、私も毎日身が引き締まる思いで刺激をもらっています。

PHOTO : NANAKO ARAIE
