女優カン・ソハさんが31歳で他界…「胃がん」遺伝子変異で若年発症のリスク【中川恵一 がんサバイバーの知恵】

(カン・ソハさんのインスタグラムから)

【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】

 韓国女優のカン・ソハさんが胃がんで亡くなったと報じられました。31歳の若さです。

 報道によれば、昨年、映画の撮影を終えると不調を感じたようで、検査の結果、胃がんと診断。その後、抗がん剤で治療を続けていたところ、1回目を終了して2回目の途中に容体が急変。帰らぬ人になったといいます。

 若い女優が胃がんで命を奪われたのは、日本では堀江しのぶさんのケースが知られています。享年23。1988年に受診したときには、胃がんの中でも難治性のスキルス性胃がんで、すでに卵巣に転移していたそうです。受診からわずか半年ほどで亡くなりました。

 今回のケースは詳しいことが不明ですが、遺伝性の要因もあるかもしれません。日本と韓国は胃がんの罹患数、死亡数が多く、その原因は9割以上がピロリ菌です。日韓など東アジアで広がるピロリ菌のタイプは毒性が強いのですが、欧米のピロリ菌は毒性が弱い傾向があります。

 実は、遺伝が原因の胃がんはピロリ菌とは無関係で、CDH1遺伝子の変異によって発症。具体的には、遺伝性びまん性胃がん(HDGC)と呼ばれます。びまん性とは胃壁の中を染み込むように広がることを指し、スキルス性胃がんの別名です。がんが粘膜の下に隠れているため、胃カメラでは発見しにくく、診断がついたときには進行していることが珍しくありません。

 両親のいずれかがこの遺伝子変異を持っていると、子供は50%の確率でその変異を受け継ぐため、HDGCのリスクが高い。このタイプは40歳までに発症することが多いため、30代までに発がんされた人が家族にいる方は要注意。4割ほどの確率で乳がんを合併しやすいのも特徴です。こうした特徴から、遺伝子検査でCDH1変異を持っていることが分かると、予防で胃の全摘が検討されることもあります。

 特定のがんリスクと関係する遺伝子変異はほかにもあって、BRCAがよく知られています。この変異があると、若くして乳がんや卵巣がんのリスクが高いため、予防的な乳房や卵巣の切除が検討されることもあるのです。それが世界的なニュースになったのが、米女優アンジェリーナ・ジョリーさんのケースでしょう。

 アンジーは、母と叔母を乳がんと卵巣がんで亡くし、BRCAの変異を持っていたため、2013年から15年にかけて両方の乳房と卵巣卵管を切除しました。皆さんも記憶にあると思います。家族に若年発症のがん患者がいる場合は、遺伝子変異の可能性を考えてみてもよいかもしれません。

(中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)

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