キングペンギンのペストくんは、2024年1月にオーストラリアのメルボルンで生まれた。その大きな体を映した動画は、瞬く間にソーシャルメディアで拡散された。(Photograph By SEA LIFE Melbourne Aquarium)
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ペストくんが……パンツをはいている? オーストラリアのシーライフ・メルボルン水族館が、今、世界で大人気のキングペンギンの巨大ヒナ「ペストくん」がよちよち歩く動画を公開した。ヒナ特有のふわふわした茶色い羽毛の下から大人の白い羽毛が生え始めていて、それがパンツをはいているように見えるのだ。
シーライフ水族館の教育スーパーバイザーでアクアリスト(動物園の飼育係に相当)であるジャシンダ・アーリー氏のような専門家にとって、この変化は想定内だ。学校団体向けのペンギンツアーの案内係を務めているアーリー氏は、ペストくんがネットで爆発的人気を得てから、ツアーをペストくん重視の内容に変更した。人気アーティストのケイティ・ペリーやオリビア・ロドリゴといった有名人も見学に立ち寄ったほどだ。(参考記事:「動物の赤ちゃんをかわいいと感じ、求めてやまないのはなぜ?」)
だが、この時期を境に、ペストくんは大きな変化を迎える。これからどんなふうに大人のペンギンへと成長していくのか、ペストくんファンの疑問に専門家が答える。
ペストくんは今後どんな姿になるの?
「これから育って大人の羽毛に生え替わると、今ほどは目立たなくなると思います」とアーリー氏は言う。「ほかのペンギンと区別がつかなくなるでしょう」
だが、よく観察すれば、2024年唯一のキングペンギンのヒナであるペストくんを見つけられるだろう。ペストくんにはいくつか特徴があるからだ。
ペストくんの実父は、22歳の水族館最高齢キングペンギンのブレイクだが、その背の高さをペストくんは受け継いでいる。また、ペストくんのくちばしは黒い。キングペンギンのトレードマークであるオレンジ色の部分(下嘴板[かしばん])は性的に成熟するまで現れず、まだあと2年はかかる。
実親が高齢であることを心配した飼育員の判断で、ペストは養親に育てられた。野生のペンギンも、実の子ではないヒナを育てることはよくある。(Photograph By SEA LIFE Melbourne Aquarium)
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「どういうふうに羽毛が生え替わっていくかはわかりません」とアーリー氏。「毛皮のベストを着たような姿になることもあれば、モヒカン刈りみたいに体の真ん中だけに茶色い毛が残ることもあります。個体差があって、とても面白いです」(参考記事:「黄色いペンギンが見つかる、なぜ黄色? 珍しい理由は?」)
ペストの場合は翼と下半身から生え替わりが始まっている。「くまのプーさん」のようなミニシャツ姿になるときが来るのをアーリー氏は楽しみにしている。
茶色の羽毛はなぜなくなるの?
野生のキングペンギンは一般に、孵化(ふか)から13カ月ほどで最初の換羽(かんう。綿毛のような羽毛が抜ける)の時期を迎える。ペストくんは2024年の1月生まれなので、少し早い。
キングペンギンは南半球の夏から秋に誕生する。野生のキングペンギンは南半球の寒い冬の間は絶食するが、冬が始まるまでに十分にエサを与えられなかったヒナは、親がエサを与えに戻ってくる春を待たずに餓死することも多い。再びエサをもらい、体に脂肪を蓄えられるようになって初めて、羽毛を生えそろえるのに十分なエネルギーを得られるのだ。(参考記事:「地球温暖化で幼いペンギンが凍死する」)
「飼育環境にあるヒナは、継続的に食事が与えられるため、羽毛が早く生えそろうことがあります」と、イタリアにあるマルケ工科大学の進化生物学者でキングペンギンを専門とするエミリアーノ・トゥルーキー氏は説明する。ペストくんは冬の間、養親のタンゴとハドソン、そして水族館スタッフのおかげで、エサをたっぷりと与えられた。
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