コレクション・リポート:ウクライナ人アーティストが手掛けた空間で見せる、「ディオール」のフォークロア・クチュール パリ現地取材リポートVOL.5

「ディオール(DIOR)」のオートクチュールはここ数シーズン、ショー会場の壁面を刺しゅう作品で覆うのが定番になっている。2022-23年秋冬、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)がセットの制作を依頼したのは、キーウを拠点に活動するウクライナ人アーティストのアレシア・トロフィメンコ(Olesia Trofymenko)。絵画や昔の風景写真に刺しゅうを重ねる彼女のデザインを、メゾンが支援するインドのチャーナキヤ工房とチャーナキヤ工芸学校の刺しゅう職人の手で形にした壮大なインスタレーションで会場を彩った。アレシアが作品のコンセプトに掲げるのは、さまざまな宗教や神話の中に語り継がれる「生命の木(Tree of Life)」。それが、今季のコレクションの出発点にもなっている。

ファーストルックは、ウクライナの民族衣装を想起させるパフスリーブのブラウスとフレアラインのロングスカート。白とエクリュ(生成り)の同系色でまとめられているが、入り組むようにレースのパッチワークが施されているのが印象的だ。そんな手の込んだレース使いと並んで、今季のカギとなるのはさまざまなテクニックを生かした刺しゅう。「生命の木」から着想を得た枝や葉、根といった植物や花々、アラベスクのような幾何学模様、スモッキングが、ベージュや白、黒を中心としたミッドカーフからフロアレングスのフレアドレスやスカート、ノーカラージャケット、ゆったりとしたコートなどを飾る。

また上半身は体のラインに沿い、腰からふんわりとふくらむロマンチックなシルエットは、ムッシュ・ディオールが1947年に発表した“ニュールック”を再解釈したもの。終盤に披露したマリア・グラツィアらしいシルクシフォンやジョーゼットの幻想的なドレスも、スモッキングやパフスリーブでフォークロアムードを醸し出す。

年間を通して数多くのコレクションに取り組んでいるマリア・グラツィアだが、オートクチュールではとりわけクラフトにフォーカスしている。今季もテーマに据えたのは、“団結のシンボル”としての手仕事によるクラフトだ。ディテールからは職人やお針子の技術が見て取れるが、全体的な表現はこれ見よがしというより、落ち着いた色合いの生地と装飾を基本とした控えめなものが多い。そのアプローチは、人間の体をドレスアップするというクチュールの本質にオマージュを捧げた、先シーズンに通じるとも言えるだろう。小さな画面上では分からない繊細で複雑な手仕事を通して、クチュールピースを身にまとう顧客だけが感じられる真の贅沢を提案する―――それはオートクチュールにおいて大切な要素であり、彼女はそこに向き合っているようだ。

全画像は @wwd_jp プロフィールのリンクから

#DIOR#diordress#mariagraziachiuri#olesiatrofymenko#artist#fashion#design #couture#couturecollection#couturefashion#オートクチュール#parisfashionweek#parisfashionshow#hautecouture#hautecouturedress#reddress#kimjones#ディオール

Comments are closed.