「音痴なんです。合唱コンクールで『口パクでいいよ』と言われたことがショックで、音楽が怖いんです」そう語るのは、ニットブランド #pillings デザイナーの村上亮太。ランウェイの上に吊るされたピアノは彼にとって「正しくないと許されないもの」を象徴している。窮屈な社会のメタファーだ。

2022AWのテーマは「理想と現実」。抗えない規則で律された社会という現実と、自分の内に秘める理想の間で葛藤する人間の不器用さを描いた。

ショーで多く登場したアランニットは、漁に出る夫に向けて妻が編んだニットが起源と言われている。海で迷わず無事に帰ってくるように祈りを込めた柄や、遭難してしまった際に個人を識別するための家紋のようなものが編まれていた。

今回、花やロバ、イルカなど手編みの模様が描かれたpillingsのアランニットにも、同じような願いが込められている。それは、現代社会の「規格」にはまらなかった人、自分の居場所を探している人への道標としての、様々なモチーフでもあるのだ。

大きなインパクトを残したのは、ピアノを覆う蟻や昆虫の標本といった虫のモチーフ。蟻は社会性の象徴として描かれ、標本は属性の枠を越えた「個」の美しさを讃えている。虫のモチーフは、実はすべて手編みのブローチという遊び心にも注目だ。

フィナーレのBGMは「もしもピアノが弾けたなら」。もしも理想が叶ったら、人生は今よりもっと良くなるのだろうか? 現実と理想の間で何かを掴もうともがく力こそ、素敵なものなのかもしれない。今をもがく人たちを優しく祝福してくれるような服に、心があたたまった。

(編集AZ)

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