【インタビュー】文藝天国、オルタナ的藝術徒党の初フルアルバムに日常と非日常が交差する瞬間「美しいと感じてきたもの」

作詞 作曲 編曲に加えて演奏を担う音楽家のko shinonomeと、映像やビジュアル面、舞台演出を担当する色彩作家にして現・株式会社文藝の代表取締役社長すみあいかにより、2019年に活動を開始したオルタナ的藝術徒党が、文藝天国だ。“五感を通じて感じるアート”を追求し、音楽作品や映像作品はもとより、香水などの制作やポップアップ、喫茶イベントなど活動展開は幅広い。そして2026年10月、遂にリリースされた初のフルアルバムが『プールサイド・コア』となる。
ko shinonomeの核に息づくギターへの愛やバンドの初期衝動を具現化するかのようなサウンドはますます濃度を高める一方、インストゥルメンタルアルバム『シャッセ (i)』(2026年6月発表)でみせたアート色の強い音楽性は深化の度を強めて止まらない。また、TEMPLIMEとの共作曲「プールサイド・ヴィラ」や、チョーキューメイの麗がヴァイオリンで参加した「ジ・アース(MOD)」などのコラボレーションは、刺激的な化学反応を生み出した。さらには、ko shinonome曰く「4曲分のアイデアをひとつの組曲へ編み上げた」という10分超えの長尺曲「ブルーミング」が四季をドラマチックに表現するなど、収録された全10曲は聴きどころに事欠かない。細部に至るまで完成度は高く、ほぼ全曲に挿入されたギターソロや楽章のようなイントロ&アウトロが楽曲のあらゆる感情を一片の曇りなく表現するなど、その進化はジャンルを超越してプログレッシヴでもある。
また、文藝天国は11月7日および8日の2日間、東京・幡ヶ谷のFORMEIにてキュレーション型ポップアップショップ『プールサイド・コア』展を開催する。同展示会は、服飾やジュエリーなどジャンルの違う10組の作家の作品を通して“プールサイド・コア”を味わうことのできる空間だ。“音楽を起点に、映像・香り・味覚・そしてプロダクトへ。”という理念のもと、ふたりが目指すものとは? フルアルバムと展示会に込めたヴィジョンと思いを聞いたロングインタビューをお届けしたい。
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■現実と夢の狭間のような
■ふたつの世界が交差する瞬間を切り取ってきた
──昨年のシングル「μεταμορπηοςε」(2025年7月発表)以降も新曲配信が続いていましたが、アルバムを見据えてのリリースだったんですか?
ko:シングルカットみたいなイメージでした。去年末頃にフルアルバムのリリースと展示会をセットでやろうと決めて、そこに向けて1年間動いてきたんです。これまでミニアルバムをアルバムと言い張ってきたんですけど(笑)、ちゃんと挑戦できていなかったので、そろそろフルアルバムを作りたいなと。
すみ:同時に、koくんから「これまで文藝天国が作ってきた世界に名前を付けたい」という話があって。特に考えたことはなかったけど、言われてみたら、何気ない建物と空の写真を撮って「文藝天国っぽい写真が撮れた」とつぶやいてくれるリスナーさんがいたり、「これ、文藝天国っぽいよね」みたいなコメントをSNS上で見かける機会も増えたんですよね。だから、“っぽい”をまとめるようなイメージで“プールサイド・コア”という言葉を先に考えました。
すみあいか(色彩作家)
ko shinonome (音楽作家)
──“○○コア”は、ファッションやライフスタイルのジャンルとして最近よく使われるフレーズですよね。1stミニアルバム『プールサイドに花束を』のタイトルとも繋がりますが、改めて説明していただくと、どういう概念なんでしょうか。
すみ:あくまで私の捉えている“プールサイド・コア”なんですけど、文藝天国が今までビジュアルで表現してきたものって、実はそんなに特別なものではなくて。たとえば、雲ひとつない空と無機質な建物がある構図とか、全面ガラスのビルに太陽が反射してきらめいてる瞬間とか、“日常にありふれた景色の中で、時間が味方してくれたときに見えるなにか”みたいなものなんです。私はそれを“日常の中の非日常”だと捉えて、現実と夢の狭間のような、ふたつの世界が交差する瞬間を切り取ってきたような気がしています。プールサイドも水辺と地上が交差する場所じゃないですか。子どものときにお風呂に入ると胎内記憶を思い出すという話があったり、水の中ってちょっと普通ではない不思議な場所だから。不思議な世界と地上が地続きになっている“プールサイド”という言葉が、文藝天国が美しいと感じてきたものを表わしているんじゃないかなと思います。
ko:今まで作ってきたものに名前を付けただけなので、楽曲制作の面では特段変わりはしないんですけど。名前が付いたことでイメージしやすくなりました。
すみ:私も、少し俯瞰的にビジュアルを作るようになった感覚があります。
──タイトルが先にあることで、フルアルバム制作もスムーズにいきましたか?
ko:スムーズではなかったかもしれない。そもそも僕自身は曲を作るのが速いほうじゃない……というか、本当に納得いったものしか出したくないから、日々曲を作りながらボツにする量がすごく多いんです。これまでもフルアルバムを作りたいという気持ちはありつつ、作っていく中で“これは違うな”と思って絞っていくと6曲くらいになっちゃって、6曲入りのミニアルバムを4回出してきた(笑)。今回は、一切妥協なく作った選りすぐりの10曲収録フルアルバムです。


──では、長い時間をかけて作った曲もあるんですか?
ko:Track1の「かがやき」は、6年前くらいに作った曲です。本当は2枚目のミニアルバム『夢の香りのする朝に。』に入れるつもりだったんですけど、当時、“まだ違うな”と思って、ここぞというタイミングでリリースしたいと思って取っておいたんです。3枚目の『花咲く君の滑走路』でも違うな、4枚目の『破壊的価値創造』でも違うな、となっていくうちに、どんどん思い入れが強くなって、初めてのフルアルバムで“ここだ!”と思って仕上げました。作った時は18歳とかだったので、改めて聴いたらちょっと恥ずかしかったですけど(笑)、基本的な詞曲は当時のまま何も変えず、今のやり方をアレンジの部分で取り入れたハイブリッドとして再構築しました。
──確かに、文藝天国の原点と言えるオルタナギターロックのエネルギーを感じる曲だなと思いました。
ko:良くも悪くも初々しいですよね。
すみ:6年前に輝いていた部分が損なわれずに、新しく完成した感じがしてよかったなと思います。
ko:「かがやき」のミュージックフィルムはすみが監督しているんですけど、超大作になりました。
すみ:構想に6年、撮影開始から完成に1年半かかりました。もともと、曲ができた6年前にイメージしていた映像があって。当時koくんと一緒に行った美術館で、イギリス出身の現代美術家インカ・ショニバレCBEの彫刻作品『桜を放つ女性』(英名:Woman Shooting Cherry Blossoms)という、着物を着た女性が構えた銃から花が出てくる作品を見て、この曲のイメージが広がっていったんです。当時はどう撮影したらいいかわからなかったけど、6年の間にいろいろな映像を撮って、法人化もして、知識や手段を身につけて、やっと撮ることができました。
ko:北海道や茨城とか、いろんなロケ地を巡って。ロケットランチャーを特注で作ったり、いろいろこだわっているので、ぜひたくさんの人に観てほしいです。
──逆に新しさを感じるのが、「プールサイド・ヴィラ / poolside infinity – 文藝天国×TEMPLIME」。他のアーティストとの共同制作は初ですが、TEMPLIMEとのコラボはどんなふうに実現したんですか。
ko:TEMPLIMEは、もともとすみが好きでDJイベントに一緒に行って、そこから僕も聴くようになったんです。TEMPLIMEで作曲を担当しているKBSNKさんも文藝天国のことを知ってくださっていて、一緒にご飯に行ったり、KBSNKさんのスタジオで遊びで曲を作ったりしていて。今回、正式に曲を一緒に作れてうれしかったです。
すみ:最初にTEMPLIMEの曲を聴いた時、サウンドも好きだし、歌詞のワードチョイスに文藝天国に重なるところを感じて。“電子音楽をやっていた世界線の文藝天国だ!”と思ったんです。
ko:それはちょっと恐縮ですけど(笑)。TEMPLIMEもインディペンデントで活動している二人組で、KBSNKさんはドラムやギターを自分で演奏する方だし、思想的にも似ているんです。
すみ:結成時期もほぼ同じで、初めて1000人規模でライブをやった時期も近いんですよ。


──しっかり縁があったうえでのコラボなんですね。エレクトロに寄せたアレンジになっていますが、制作はどのように?
ko:僕が文藝天国の曲を作る時に大事にしてるのが、ギターのサウンドとトップライン(主旋律と歌詞)なんです。そこの土台はしっかり僕が作ったうえで、KBSNKさんに参加してもらいました。KBSNKさんのトラックメイクはもちろん、メロディもアレンジもすごく好きなので、お互いのいいとこ取りができたらいいなと思って。いつも弾き語りで曲を作るんですけど、今回はKBSNKさんの制作スタイルに寄せて、DTMでトラックをループさせながらバースごとに作って、僕がそこにギターを入れたり。誰がどの部分を作ったかは言わなくてもいいかなと思っているんですけど、僕とKBSNKさんで作詞作曲をそれぞれ分担して、お互いメロディも詞も書いています。すごくいいものが出来上がったし、自分の曲に男性ボーカルが入るのは新鮮でした。
──ふたりを結びつけたすみさんの感想としては?
すみ:素晴らしい曲ができて、歓喜です! ちょっと無機質な感じがあったり、バンドサウンドだけでは作れない爽やかさだなと思いました。私的には、“ここはkoくんだな”“ここはKBSNKさんだな”ってわかるよ。
ko:さすがです(笑)。
