アジア学生映画コンファレンス 「塚本晋也マスタークラス」が開催!(MOVIE WALKER PRESS)
現在開催中の第39回東京国際映画祭では映画にまつわる様々な企画も実施。アジア各国の映画学校から選出された優秀作が競い合う学生映画のコンペティション「アジア学生映画コンファレンス」もその一つで、11月2日には今年9月に公開された『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』をはじめ、近年は戦争をテーマに映画を作ってきた塚本晋也監督を招いてのトークイベント「塚本晋也マスタークラス」が行われた。
【写真を見る】『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』をはじめ、近年は戦争をテーマに映画を作ってきた塚本晋也監督
大勢の拍手に迎えられ、ステージに登壇した塚本監督。この日は主な監督作を振り返りながら、当時の制作秘話が語られていく内容に。1本目は、4畳半のアパートで少数のスタッフ共に制作された自主制作の小規模作品ながら、ローマ国際ファンタスティック映画祭のグランプリを受賞した『鉄男』(89)だ。
「まだCGが普及していない時代で、特撮はあったけどそれもほぼ使っていません。自分たちで拾ってきた燃えない廃材を鉄男に貼り付け、コマ撮りで撮影していきました。完成まで1年ぐらいかかりましたね。ローマ国際ファンタスティック映画祭は、東京国際ファンタスティック映画祭のプロデューサーの小松沢陽一さんの薦めで出品しました。当時はお金も無かったので現地には参加していません。グランプリ受賞の実感もなかったですね。あとから盾をいただき、授賞式の様子を撮ったビデオで若い人たちが『テツオ!テツオ!』と叫んでいるのを見て実感が沸いてきました。その経験もあり、『鉄男II/BODY HAMMER』では、誘われた映画祭には全部出席しようと思いました」。
続いて、商業映画としては2作目の『ヒルコ 妖怪ハンター』(91)。塚本も深く敬愛している漫画家、諸星大二郎の「海竜祭の夜」の映画化で、主演を沢田研二が務めている。
「『鉄男』が注目されたことでオファーをいただきました。10代の頃から大作映画を撮るのが夢でうれしかったのですが、自分が不得意なジャンルだったら困るなという不安もありました。そうしたら大好きな諸星大二郎さんの映画化だったので、二つ返事で土下座してやらせてください!と(笑)。スタッフは東宝に所属されていた撮影の岸本正広さん、編集の黒岩義民さんといったメジャーな方が多く、軋轢みたいなものも恐れていたのですが、特にそういったことはなかったです。とにかく僕はコンテを描いて、イメージをみなさんに共有することに努めました。プロットは企画の堤康二さんから『「妖怪ハンター」に短編2本を合わせたストーリーを、オムニバスでもいいし、くっつけてもいいから書いてみて』と言われまして。脚本家が籠るような和風の旅館に一晩泊ることになりました。夜中の12時になってもなにも書けなかったのですが、なんとか朝までには不思議と思い浮かぶものなんですね」。
3番目は『野火』(15)。原作は大岡昇平の同名戦争文学で、1959年には市川崑監督によって映画化されている。フィリピンでも撮影を敢行した自主制作作品となる。
「10代からいつか映画化したいと思っていて、30代で企画書を書いたり、40代では取材に行ったりもしていたのですがなかなか形になりませんでした。そして50歳になり、これまで一緒に組んできたスタッフたちが解散したタイミングだったのですが、日本がどんどん戦争へ向かっていく不安があり、自分がいま作らなければという強い衝動に駆られたのがきっかけです。お金は無かったので、まずは少人数でフィリピンへ行って、現地の風景や田村一等兵(塚本)のシーンをコツコツ撮影していくところから取りかかりました。日本でも撮影していますが、フィリピンだけはどうしても欠かせませんでした」。
最後は『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(26)で、日本語のセリフがほとんどない、ほぼアメリカ映画のような印象を受ける。『野火』にも出演したリリー・フランキー、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのジェフリー・ラッシュらが出演している。
「『野火』に向けて田村一等兵の心理を理解しようといろんな書物を読んでいて、その時に原作小説に触れたのが始まりです。戦争が加害者側の視点で描かれていたのが印象的で、これを映画化できたらとても意義深いと思ったのですが、自主映画として制作するのは厳しくもありました。そんな時、映画の企画を探していたある映画会社の方に興味を持っていただきまして。1年ほど進めたのち、そこでは流れてしまったのですが、木下グループの方を紹介してもらって形にすることができました。ただ、すぐにコロナ渦になったり、アメリカでストライキが起こったりして、なかなか前に進められず、企画が動き出してから完成までに7年ほどかかっています。その間に撮ったのが闇市を題材にした『ほかげ』でした」。
トークイベントはここで終了。その後は会場に駆け付けた長年のファンや映画を学んでいる学生とのQ&Aが行われ、塚本監督がそれぞれの質問に丁寧に向き合っていた。
――これから映画監督を目指す若者に向けてなにをすべきかメッセージをお願いします。
「僕が映画を撮り始めた頃と比べると、いまはずっと制作環境がよくなっています。『鉄男』は16mmフィルムで撮られているのですが、製作費のほとんどはこのフィルムと現像代に費やされました。いまは性能のいいデジタルカメラや編集機器があり、デジタルというキャンパスの上で誰もが映画を作れるようになりました。このような土壌もあるので、とにかく作品を作り続けてほしいです」
――3年ほど前、新聞のインタビューで塚本監督が「そろそろ違うものを作りたい」と話していました。新作の構想はありますか?
「戦争を題材にした作品がこんなに続くとは思っていなくて。当初は『野火』が映画化できればよかったのですが、世の中の状況は変わらず不安が消えることはありませんでした。そこで時代劇など昔からやりたかったことを組み合わせながら、戦争映画を撮り続けてきました。戦争のことを考えると鬱々としてくるのですが、僕は一番関心のあるものしか作れないので」
――いま大学で映画を学んでいます。節約のために自分が俳優として出演することもあるのですが、気になることが増えて時間が余計にかかってしまいます。塚本監督がご自身の監督作に出演される時はなにを意識していますか?
「僕の場合は節約ではなく、自分が演じるべき役を振り分けているにすぎません。その時は最初から自分で演じるのではなく、まず代わりの人に入ってもらいます。カメラチェックをし、役のイメージを伝えることで自分の中でも芝居を積み上げることができるので、あとで自分が入った時もスムーズに進められることが多いです。編集も自分で行うので、気になるところは切っちゃって、いいところだけ使うこともできます」
取材・文/平尾嘉浩
