性別も国籍も経験も問わない、俳優を探求するオーディション番組「THE OPEN CALL -MAIN PARTNER 山田孝之-」。約1万4000人の応募者の中から、オリジナル映画の主要キャストを決定するまでのプロセスを追ったオーディションドキュメンタリーです。そのメインパートナーを務める山田孝之さんと、企画・プロデュースを務める阿部進之介さんに、このプロジェクトに対する思いをお伺いしました。さらに、映画「クローズZERO II」での共演から続く互いへのリスペクトや、ふたりの意外な“推し”まで、たっぷり語っていただきました。
「俳優って何だ?」 10年来の志から始まった挑戦
――「俳優って何だ?」という根本的な問いかけとなるプロジェクトですが、企画を思い付いてから実現するまでにはどれくらいの時間がかかりましたか?
山田孝之 わりと早かったですよ。
阿部進之介 一昨年くらいに、「こんなことをやろうよ」とみんなで話し始めたような気がします。僕がざっくり「こんな流れでどう?」みたいな話をして、みんなが「いいじゃん!」と反応してくれて。そこからはいいスピード感で進みました。

――阿部さんの中では、いつかやりたいという考えがあったのでしょうか?
阿部 ありました。年齢を重ねていくと、オーディションが少なくなっていくんです。メインの役どころのオーディションは本当に少ないですし、オファーで仕事が決まることのほうが多くなってくる。それで30歳を節目として辞めていく俳優もいたり、ここから先、続けていってもチャンスはないなと思うようになるんです。でも海外で活動していると、それほど有名ではない俳優が大きな役に抜てきされることもあって、たくさんの才能が発見されていく感覚もありました。オーディションは才能に出会うきっかけとして絶対に必要だと思っていましたし、日本でもそうした機会があればいいのにとずっと思っていました。
山田 思い返すと10年以上前に、阿部ちゃんが企画・原案・主演をして、僕の初プロデュースとなった映画「デイアンドナイト」は、「ヒロインは絶対にオーディションで決めよう」と言っていましたから。あのときには全員がオファーするという考えは持っていなかったんです。意外とやっていることの根幹は一緒です。
阿部 もちろんオーディションがないわけではないんですが、もっとあってもいいよね、という思いです。

約1万4000通の熱量と、審査員が求めるものとは
――約1万4000通を超える応募があったということですが、目の当たりにしていかがでしたか?
山田 予想はしていたので、驚きはなかったです。ただ、初めてお芝居をするという方がたくさんいらっしゃったので、それだけでもひとつ目の成功でした。やったことのないことをやってみるという第一歩目に、多くの人がチャレンジしてくれたので。
阿部 俳優をやったことがある方も、やりたいという方も、すでに現場で活躍している人も多く応募してくださったんです。でも実際には応募しなかった方もたくさんいると思っていて。俳優の総数はちゃんと数値化されていないんです。
山田 たしかにね。俳優の人口は出ていないよね。
阿部 だから数字を見て、こんなに俳優がいるんだったら、この中にいい俳優が絶対にいると思いました。
――参加者の皆さんのお芝居を見て、過去のご自身を思い出すことはありましたか?
阿部 僕は10代、20代の頃のことを思い出しました。情熱があるけど、演技をする機会もそんなになくて。その中でもお芝居がしたいという熱量みたいなものを思い出して。でも、その熱量の使い方が芯を食っているかどうかというところで、演技の出方も違ってくるので、「わかるんだけど、ごめん」と思う場面も多かったです。
山田 僕は若い頃から、いつ辞めても後悔がないようにやっていたいと思っていました。なんとしてもいい芝居をして、勝ち残るんだと歯を食いしばっているような感じが見えて、もっと力を抜いて楽しんじゃえばいいのにと思うんだけど、「そんなことはできない」って言われちゃう。でも、これもただのひとつのオーディションなので、ここで受かるか受からないかは、そこまで関係ないんです。このオーディションには落ちたとしても、別の作品には合うだろうと思う俳優はたくさんいます。

――今回のオーディションを経て、ご自身の作品への向き合い方に変化はありましたか?
阿部 変化というより、再認識みたいなことが多かったです。俺ならこうするな、ということを考えながら見ていますし、その中で発見することもある。演技をする人間、俳優について改めて考えさせられることが多かったです。
山田 変化は特にないですが、ここまで芯を食った俳優の話を、俳優同士で集まったときにはしないんです。でも今回は題材がこれだから、芯を食った話をしないことには会話にならない。そうすると、いろいろな考え方やアプローチの仕方があって、ゲストパートナー(オーディションの過程で候補者と演技や対話を重ね、俳優として向き合うゲスト俳優)の話からも、そういうやり方もあるのかという発見がありました。

――ゲストパートナーの皆さんからの発見もあったんですね。
山田 テクニックではなく、マインドです。そういう捉え方をするのかとか、そんなふうに生きてきたのかと感じて、面白いなと思うことがありました。
――そうしたことをおふたりで話すことはありますか?
山田 僕からはしないです。飲みの席で芝居の話をするのは苦手で。
阿部 僕は「クローズZERO II」で共演した後に、孝之はすごいな、僕ももっと演技力を上げなければいけないなと思っていたので、普通に聞いていました。ふたりで飲んでいるときに、「あのときのセリフって台本になかったけど、アドリブなの?」とか。
山田 そんなことあった?
阿部 最後に(山田が演じる芹沢)多摩雄が「そっか、そっか」って言いながら階段を上るところ。「あの言葉って何で出てきた?」って聞いたら、「出ちゃうんだよね」って言ったんだよ。それを聞いて納得した。役としてその境地に達して、そのマインドになったら自然と出ちゃうんだな、と。当時は孝之の話をいろんなタイミングで聞いて、その言葉をポケットに入れて持ち帰ったことはあります。

ふたりが考える“いい俳優”の条件
――今回、初めてお芝居をする方たちもいます。そうした方たちだからこその発見は?
山田 僕だったら、役を入れるとなると、価値観とか自分の中にあるものを全て一度追い出すみたいな感覚なんです。でもそれを言うと、「一度自分をなしにするのは難しいです」と言われて、そんなに難しいのかと思いました。
阿部 普通、難しいと思うけど(笑)。
山田 だってどうでもいいじゃん? “自分”なんか。
阿部 そうだけどね。みんな自分の視点で、自分本位に生きると思うんですけど、その視点を変えるってことなのかもしれないですね。人それぞれ、その作業にも多様なアプローチがあるから、たくさんの俳優の話を聞いていると面白いなと思います。

――「THE OPEN CALL」では、俳優に向けて脚本を当て書きするということですが、まったく役の決まっていない状況で参加者を審査する難しさはありますか?
山田 逆に簡単です。芝居がいいかを見るだけですから。何がいいのか悪いのか。映像の芝居でいいと言われているのはこういう芝居です、と視聴者に伝えることによって、視聴者も学べると思うんです。実際に初めて映画(「デイアンドナイト」)を作ったときには、脚本があって、その役に合った子を探すオーディションをしていましたが、今回は違いますからね。「俳優って何だ?」と問いかけていますから、それを見せるためにも、この形がマッチしていました。
阿部 “いい俳優を見つけたい”ということと“長編映画を作る”という目的を合わせたものですし、そこについてはシンプルです。ただ脚本開発となると、人ありきなので、それぞれに合わせたストーリー作りが必要になる難しさはあると思います。でも人として魅力的であればあるほど、描きたくなる脚本家や監督が多いと思いますし、いい俳優を見つけるほど、映画の話も進むのではないかと思っています。

――おふたりが考える“いい俳優”とは?
山田 みんなそれぞれに好みがあるので、その感覚を統一しなくてもいいとは思うんですけど、さまざまな能力を数値化したとして、絶対的に全体の総合力が高い人になってくると思います。どこかが大きく突出している人もいるとは思いますが、現場で100人、200人単位で映画を作るとなると、絶対的なバランスが重要だと思うんです。協調性も大事だし、クリエイティビティーや素直さも大切。監督の言葉を柔軟に受け止めなければならないですし。いい俳優は“いい人であること”ですし、いい芝居とは“役にちゃんと見えること”。長所短所、見た目も含めて、自分の個性をどう生かすかを理解している人も魅力的だと思います。
阿部 孝之が言っているように、数値みたいなものはあると思うんですけど、やっぱり見て、みんながいいと思う人は共通していたりするんです。
山田 惹き付けられるんだよね。
阿部 明らかにいいという人は、みんな一致するんです。なぜそうなるのかと分解していくことが今回の番組の面白さだと思うので、番組を通して楽しんでもらえるといいなと思います。
――そのパラメーターで、尖っている俳優さんもいましたか?
山田 いましたよ。
阿部 いろんな部分でね。

山田 実際に、約1万4000人いた応募者の中から対面審査で207人になりました。この時点で相当倍率は上がってきているので、個性の強い人はいます。ただ、映画のキャストの中に入るとなると、演技したいという感情だけで存在している人はいないんです。いろんな感情で動いているから。そうなったときに、もしかしたらその人には役を任せられないかな、という思いもありました。
阿部 みんないろんな個性を持っているし、魅力もあるんですけど、それを現場で生かせるかはまた別。ゲージで絶対に必要な部分って、柔軟性なんじゃないかと感じています。それを持っている人こそが、自分の魅力を100%出せるのではないかと。逆に、そこが固くなってしまうと個性すらつぶしてしまうので、全てのカギを柔軟性がつかさどっているのではないかなと思いながら参加者を見ていますね。
山田 監督からの演出があるからね。「こうやってみて」という声があったときに、家で作り込んできたんだろうなという芝居が残る人だと、監督は次にその役者のことを使わないですよ。

「クローズZERO II」から続く絆と、意外な“推し”の話
――お互いのことを、どんな役者さんだと感じていますか?
阿部 何事にも要点をつかむのは早いんです。今、向き合っていることの核をつかんで、何をすべきかを見極めるのがすごく早い。だから若い頃から活躍できているんだろうなと感じます。しかも、その見極めたことに対して全力で臨む。尊敬していますし、刺激も受けまくっています。今回のオーディション番組でも、彼が見ている演技の細かさに驚きますし、自分ももっといろんなことに挑戦しなければいけないなと思っています。
山田 とにかく真面目。すごく真面目で努力家です。僕からすると、地獄のような努力をしていても、これくらい当たり前でしょうと言ってのけるようなところがあります。「クローズZERO II」で共演した後に「十三人の刺客」で一緒だったんです。出演シーンはそれほど多くなかったのですが、刀の稽古に一番出ていて、JAC(ジャパン・アクション・クラブ/現ジャパンアクションエンタープライズ)出身の伊原剛志さんが刀の使い方が素晴らしいって評価をしていたんです。阿部ちゃんはひたすらやり続ける精神力がある。そこをすごく尊敬しています。

――では最後に、「推し楽」の名前にかけまして、今の“推し”を教えてください。
阿部 キノコです。秋ですからね(笑)。友人がキノコ狩りに行く人で、誘われているんです。世の中にはまだ知られていないキノコもたくさんあって、それを見るのも楽しいですし、食べてもおいしいですから。
――そもそもキノコはお好きだったんですか?
阿部 長野に行ったときに全然知らないキノコを買ったんですが、めちゃくちゃおいしくて。それ以来ですね。キノコって不思議なんですよ。菌類ですし、目に見えているキノコは本体ではないらしい。それもまた魅力的だなと思っています。
――山田さんはいかがですか?
山田 熊肉です。昔、甲信越地方の宿で熊肉の炊き込みご飯が出てきたのですが、本当においしくて。皆さんにもぜひ食べてもらいたいです。牛肉や豚肉はもちろん、いろいろなジビエも食べてきましたが、一番好きな肉。でも周りの人は硬くておいしくないって言うんです(笑)。熊肉の本当のおいしさをみんなに知ってもらいたいです。

取材・文:えびさわなち
撮影:つぼいひろこ
