広島の中心部に本のある場所を取り戻す
広島市中心部にあって、今もサブカルチャー、アートの発信基地として異彩を放つ広島PARCO(広島市中区)。かつてその一画には、多くの本好きや若者に愛された伝説的な書店「リブロ」があった。一般的なベストセラーだけでなく、洋書やデザイン書、リトルプレス、サブカルチャー・アート系の書籍を豊富に揃えるセレクトで、特に高感度な若者やクリエイター層を惹きつけ、広島のブックシーンに新たな市場を開拓した。
しかしそのリブロも、その後の出版不況や市場の変化には抗えず、惜しまれつつも2011年に閉店。時を前後して、周辺にあった広島の老舗書店も次々と姿を消した。
あれから10数年。「広島の中心部にもう一度本のある場所を取り戻そう」と立ち上がったプロジェクトがある。現在、広島PARCOで展開中のポップアップ的本屋「BOOK PARK CLUB」だ。
14日間のポップアップから始まった「熱狂」
仕掛けたのは、広島県内を拠点に活動するデザイナー・ライターなど4人のクリエイターたち。「個性的な本から刺激を受けられる場所を広島に」という想いで、ポップアップ的本屋「BOOK PARK CLUB」プロジェクトを企画。広島PARCOの賛同を取り付け、2022年10月、広島PARCO本館6階の一画に、14日間限りのポップアップ本屋「BOOK PARK CLUB」を出現させた。
そこに並んだのは、かつてリブロにあったような個性的で尖った本たち。本の調達は全国の独立系出版社や個人書店、古本屋に直接声をかけ、3000冊以上の本を集めた。什器や装飾にもこだわった。
2022年当時の写真/提供:BOOK PARK CLUB
空間に書店・古本屋ごとのブースの島を作り、それぞれの個性を引き立てた。また本の並べ方には面陳、平積み、背刺しなどいろいろな方法があるが、BOOK PARK CLUBでは壁全面を使いほどんどの本を面陳して、個性的な装丁を見せるようにした。カラフルな本が面でずらりと並ぶ様子は「それ自体がアートのよう」と、訪れる人を喜ばせた。
開催中にはワークショップや、トークイベントも催し、本を売ったり、買ったりするだけではない、本を介した体験やカルチャーを届ける仕掛けをつくった。リブロのレガシーを受け継ぎつつも、これまで誰も見たことのないスタイルの本屋は多くの本好きの心を掴み、その後、2024年まで毎年開催される人気企画に成長した。
「日本で唯一」と称された、1年間の常設実験
「期間限定ではなく、持続的な本屋の形を模索できないか」。
2025年のポップアップが終了した時点で、その大きな反響を受け、広島PARCOの担当者から4人の元に「1年間の長期開催」という打診が届いた。
不安はあったものの、地元企業である「株式会社アラタニホールディングス」の力強いサポートを取り付け、2025年11月から広島PARCO新館9階で、1年間の実験的な常設店としての挑戦がスタートした。
2026年11月。オープンを記念するトークイベントに登壇した内沼晋太郎氏(写真右)。対談相手は広島で独立書店リーダン・ディート店主の清政光博氏/提供:BOOK PARK CLUB
常設化に伴い、独立系出版社や古本屋からの預かる本だけでなく、取次からの新刊仕入れの仕組みも導入した。日常的に通える本屋としての棚の充実を図るためだった。
こうした試みは全国のブックカルチャー関係者の間でも注目を集め、BOOK PARK CLUBのトークイベントのゲストとして登壇したブックコーディネーターの内沼晋太郎氏も「雑誌のように編集された場の面白さがあり、イベントと書店の間にあるようなみんなでつくる本屋は日本で唯一の取り組みではないか」と高く評価した。
本業を持つメンバーの葛藤と、挑戦したから見えたこと
しかし、この挑戦は決して平坦なものではなかった。
実行委員のメンバーは、全員が本業を持つクリエイターたち。日々の本業と並行しながら、商品の仕入れや在庫管理、イベント企画、毎日の店舗運営を維持し続けるのは、14日間のイベントの時とは桁違いの大変さだった。
開始当初こそ「本にまつわるあらゆる実験をしたい」と意気込み、唯一無二の場所として新たな熱狂を生み出せないかと試行錯誤したが、イベント時のような熱量を維持し続けるのは想像以上に難しかった。日々の業務に忙殺され、「やりたかったことの半分もできなかった」と、実行委員メンバーはふりかえる。
しかしBOOK PARK CLUBが1年間、灯し続けた明かりは、間違いなく広島に新しいブックシーンを創り出したといっていい。街から書店が減り続ける現代において、本をつくる人、売る人、そして読む人がフラットに交差し、これまでにないブックカルチャーが生まれる場所としてのポテンシャルを実証してみせた。
この風景を見られるのは、11月15日まで
予定されていた1年間の実験期間を満了し、BOOK PARK CLUBは2026年11月15日をもって広島PARCOでの営業を終了する。そのフィナーレに向けて、10月25日を皮切りに6つのトークイベントやライブを企画している。そのほとんどは、これまでBOOK PARK CLUBに参加した出版社の代表や書店店主らが、これまで築いた関係性から「最後に力になりたい」と声をかけてくれたことから実現したという。
実行委員メンバーの一人は「とてもありがたい。関わってくださったすべての人に感謝し、最後まで本のある場所のポテンシャルを実証したい」と語った。
11月15日以降の展開については、現時点では何も決まっておらず、しばらく大きな動きは考えていないという。本が好きな人、広島のカルチャーの「いま」を感じたい人は、この幕が下りる前にぜひ、広島PARCOへ足を運んでみてほしい。数々の新しい出会いを生み出してきたこの景色を体感できるのは、残りわずかだ。
【店舗情報】
