報道

    2026.10.09

     ここ十数年で本を巡る環境は大きく変化してきた。電子書籍サービスが台頭し、とりわけコミックでは電子版が多くの割合を占めている。電子書籍市場は急激に拡大し、今や読書のために紙の本を手に取る機会は減りつつあるのではないか。また、Amazonをはじめとするオンライン通販も一般化し、欲しい本を検索すれば、自宅にいながら数日で入手できるようになった。実際に街の書店の数も年々減り続けている。全国的に見ても、書店の存在しない市区町村が全体の約4分の1に達しているという。こうした状況の中で、わざわざ書店に足を運ぶ意味とは何か。国立の街で古書店を営む2人の店主、みちくさ書店の青木さん、三日月書店の山崎さんの話を頼りに再考してみる。
     
    書店という空間
     古書店は、特に高価・貴重なものであるほどオンライン販売との相性が良いという特性があるそうだが、それにもかかわらず、どうして人件費・維持費が嵩む実店舗という形態を取るのか。
     山崎さんは「寄り道できたり、話ができたり、雨宿りができたり、町に開かれている」ところに書店の価値があると述べる。学生街という地域柄もあってか三日月書店は中東・アジア、言語関連といった少しマニアックな本、みちくさ書店も哲学・宗教、歴史、社会科学など敷居の高い専門書を主に取り扱っている。しかし、そうした個性を出しつつも、両店とも絵本、趣味・生活の本、CD、レコードなど、多種多様なものを扱い、老若男女にとって死角のない店舗を目指す。両店舗とも人通りのある路地に面していることもあって、取材の最中にも来店するサラリーマンや子供連れの姿を見ることができた。
     また、お二方とも、書店における「出会い」を非常に大切にしておられた。青木さんは「5年、10年経って、あの時みちくさ書店がなかったら、今の自分はない」と言える若者が出てくることを夢見ているという。何気なく手に取った一冊からラテンアメリカに興味を持ち、大学でコロンビアに留学する。あるいは、たまたま隣にあった小説を読んだことから、その作家の作品を何年も追いかけるようになる。そうした人生の小さな分岐が、書店では起こり得る。
     一方、書店側にもメリットがある。山崎さんは以前、インターネットにおける書籍販売を中心にしていたが、5年前ここ国立に店舗を持ってから「お客さんに教わることが増えたし、人との出会いも増えた」と語る。店員さんとお客さんの距離が近いのはこぢんまりとした古書店だからこその醍醐味かもしれない。

    本屋

    三日月書店 店内の様子

     
    書店の歩き方
     ここまでの記事を読んで「早速書店に行ってみようかな」と思いついた方もいるだろう。ただ、膨大な本を前に、どう散策したら良いのか迷ってしまうこともあるだろう。「今、どうして書店に足を運ぶのか?」――この問いを直接投げかけてみると、ぼんやりとその答えの輪郭が見えてきた。
     山崎さんは「ヒマな時」に書店に足を運ぶが、その中でも「誰かが書いたものを読んで何かを受け取る」ことに良さを見いだしているのだという。また、青木さんは「あなたの探している何かがあります」と語る。この共通する「何か」という言葉が、すごく大切であるように感じた。哲学・歴史・芸能・マガジンなど、多種多様な本棚を眺めて、その中で「懐かしい」とか「前から気になってたんだよな」というような感情の赴くままに本を手に取ってみる。立ち読みで終えてしまっても良いし、購入して家でゆっくり浸っても良い。それをきっかけに、ある作家に心酔したり、ある趣味に一生を捧げることになったりする。まさに人との出会いとそっくりだ。たくさんの本と私――現代の社交場として書店は機能しているのかもしれない。社交場から偶然の発見が生まれる構造は、近代ヨーロッパのカフェやサロンを彷彿とさせる。当時は貴族・ある程度の教養人に限られていたかもしれないが、書店は気負わずに立ち寄れる。そんな贅沢空間がすぐ側にあるのに立ち寄らないというのは勿体ないように思えてしまう。
     青木さんは、とにかく迷ったら全ての棚を回ってみることを勧める。本と自分の心と向き合っていたら、いつの間にか1時間経っていたというのが理想的だ。一見、無駄な時間に見えるかもしれない。しかし、青木さん自身も「幅広く」入荷した本をなで読みする習慣が、お客さんとの雑談に役立っているのだと述べる。大学生は時間があるからこそ、今は役に立たなくても将来どこかで役立つであろう知識を蓄えておくことは大切なのではないか。

    本棚に囲まれて一人の男性が立っている

    みちくさ書店 青木さん

     
     読書体験とは、万人にとって固有のものだ。誰一人として同じ軌跡を辿ってきた人はいない。山崎さんが「その出会いの場は多様であった方が良い」と語るように、本との出会いは図書館、友人の紹介、バナー広告など、何だって良い。電子書籍もオンライン通販も、読書の可能性を広げてくれる大切な選択肢である。ただ、その一つの選択肢として、一番身近にある書店を活用してみてはどうだろうか。そうした中で「今、どうして書店に足を運ぶのか」の答えを、今一度皆さん自身で考えてほしい。

     

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