没後100年ドラマ「夏目漱石の妻」を見て〈作家・夏目漱石〉と〈俳優・長谷川博己〉の姿が重なって見えた【再発見 ちょうど10年前のテレビ】

    長谷川博己(C)日刊ゲンダイ

    【再発見 ちょうど10年前のテレビ】#24

     今からちょうど10年前、2016年9月に放送されたのが、NHK土曜ドラマ「夏目漱石の妻」だ。漱石が亡くなったのは1916(大正5)年のこと。この年は没後100年に当たっていた。本作はタイトル通り、漱石の妻・鏡子を軸にして描く夫婦物語だった。

     裕福な家庭に育った19歳の中根鏡子は、夏目金之助(漱石)と見合い結婚をする。金之助が旧制高校の英語教師として赴任した熊本で新婚生活がスタートした。

     幼少時に養子に出された金之助は、家庭の温もりを知らない気難しい男だ。鏡子は流産した上に孤独を募らせ、不安定な精神状態のまま入水自殺を図ってしまう。さらにイギリス留学から帰国した金之助も、暴力を振るうようになっていく。

     この漱石を演じたのは長谷川博己だ。前年は「デート〜恋とはどんなものかしら〜」(フジテレビ系)に出演していた。杏が主演の恋愛ドラマだ。脚本は、長谷川の主演作「鈴木先生」(テレビ東京系、11年)を手がけた古沢良太だった。

     35歳になってもニートで、一度も働いた経験がないくせに、自分を「高等遊民」と言い張るダメ男というのが役どころ。何を考えているのか、本心がどこにあるのか、ちょっと捉えどころがない人物だ。こういう役でも見る側を引き込むあたり、ただものではない。

     英国留学で顕在化した神経症や、小説家への夢を封印して英語教師として過ごす鬱屈を抱える漱石。家族愛に恵まれずに育ち、妻や子供たちとの接し方が不器用な漱石。ある時は沈黙し、ある時は激高する漱石。長谷川は、メリハリのある演技で「素顔の文豪」を造形していった。

     また鈴木京香と共演した「セカンドバージン」(NHK、10年)もそうだったが、長谷川は共演相手の女優を自然に立て、輝かせるような演技ができる俳優だ。それが本作でも生かされていく。鏡子役は当時「はじめまして、愛しています。」(テレビ朝日系)を終えたばかりの尾野真千子だった。

     鏡子は貴族院書記官長の長女で、お嬢さま育ち。結婚後も朝寝坊の癖が直らない。気難しい漱石に従いながらも、自分の意志を通す芯の強さを持っている。

     尾野は、漱石の言う「立派な悪妻」の喜怒哀楽を全身で見事に表現。長谷川と尾野が対峙する場面だけでも、本作を見る価値は十分にあった。

     原案は鏡子の語りを筆録した「漱石の思い出」。脚本はベテランの池端俊策。この池端が4年後に書くことになるのが、長谷川主演のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」だ。漱石が「吾輩は猫である」で注目されてから、49歳で亡くなるまで、わずか10年余り。創作に邁進していく「作家・夏目漱石」と、当時39歳だった「俳優・長谷川博己」の姿が重なって見えた。

    (碓井広義/メディア文化評論家)

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