●バラエティは「結構何でもできる」
    注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、『ここにタイトルを入力』『有吉弘行の脱法TV』などを企画・演出してきたフジテレビの原田和実氏だ。テレビの“テンプレート”を崩す作品で注目を集めてきた一方、今は「より多くの人に届く普遍性」を意識し、新たなジャンルやカテゴリーを生み出すことを目指しているという同氏。“師匠”片岡飛鳥氏からの学び、有吉弘行らから受けた刺激、そして視聴者を「沸かせたい」というこれからの展望を聞いた–。

    原田和実1996年生まれ、静岡県出身。20年にフジテレビジョン入社。『ネプリーグ』のADを担当しながら、特番『567↑8』『ただ今、コント中。』でディレクターを担当。企画・演出を務める『ここにタイトルを入力』で注目を浴び、以降も『あえいうえおあお』『内村と相棒』『ケーキのかわり』『親切紳士』などを手がけ、『有吉弘行の脱法TV』では23年11月度のギャラクシー賞月間賞を受賞した。現在、レギュラーでは『何か“オモシロいコト”ないの?』のディレクターを務める。

    ○「社会人になってこんなに友達ができるんだ」という出会い

    –当連載に前回登場したテレビ東京の大森時生さんが、原田さんについて「結構シンプルに友達ですね。そして、本当に面白いものを作れる人だと思います。『本当に面白いもの』を作れる人はそんなにいないと思うので、とても尊敬しています」とおっしゃっていました。

    本当にありがたいですね。こちらのセリフすぎますけど(笑)。社会人になって、「こんなに友達ってできるんだ」と思うくらい仲良くさせてもらってます。

    クリエイターとしてもすごく尊敬しているので、そんな風に言っていただけるのは素直に嬉しいです。

    –普段はテレビやコンテンツの話をすることが多いのですか?

    基本的には仕事関係の話が多いです。他局だからこそ話せることって、結構あるような気がしていて、仕事の相談に乗ってもらうこともあります。

    あとは、お互いに最近見た面白いコンテンツの話をしたり。僕が全然知らないものをたくさん知っているので、「これ面白いですよ」と教えてもらって、そこから見ることも多いです。

    –原田さんから見た大森さんは、どんなクリエイターですか?

    本当に面白いものを作れる方というのは大前提として、『TXQ FICTION』のような、大森さんにしか作れないコアな作品だけではなく、ゴールデンの番組(『バカリズムのちょっとバカりハカってみた』)もちゃんとやって結果を出している。自分の哲学を守りながら、それを作品ごとにちゃんと届く形へ変換できる。その幅の広さやバランス感覚は、すごく刺激を受けます。

    それに、物事の捉え方がすごく鋭いんですよね。一歩引いて構造で捉えているというか。同じものを見ていても、「そこをそう見るんだ」と思わされることが本当に多いです。そういう人と友達でいられるのは、ありがたいなと思っています。

    『あえいうえおあお』FODで配信中 (C)フジテレビ

    ○ターニングポイントになった“低予算番組”

    –2020年にフジテレビへ入社し、『ネプリーグ』のADから始まって様々な番組を手がけられてきましたが、振り返ってご自身のターニングポイントになった番組を一つ挙げると何でしょうか?

    いろいろありますけど、『あえいうえおあお』(22年 ※)は大きかった気がします。自分で番組を持つという意味では2本目の番組です。僕はもともとテレビやコンテンツをものすごく見てきたタイプではないんですけど、広告は結構好きだったんです。すでにあるものに視点やアイデアを加えることで、新しい価値を生み出すようなクリエイティブに小さい頃から魅力を感じていました。

    『あえいうえおあお』は、「アナウンサーをどう魅力的に見せるか」というお題から始まった番組だったので、僕の中では少し広告的な思考に近かったんです。同じ対象でも、企画や見せ方によって、それまで見えていなかった魅力を引き出せる。その考え方をテレビの中で実践できたのは、自分にとってすごく大きかったと思います。

    (※)…取材のプロであるアナウンサーたちが、自身が知りたいことを取材したVTRを、矢部浩之と後藤輝基がモニタリングするという番組。普段の姿からは想像もつかないようなアナウンサーたちの魅力を発掘していく。

    –かなり低予算で制作されている感じもありました(笑)

    本当に予算がなかったんですよ(笑)。密着のカメラも全部自分で回していましたし、スタジオを借りるお金もないから、社内の無料で撮れる場所を探し回ったり、衣装代を浮かせるために番組Tシャツを作ったりしていました。制約が多い分、自分たちの手で一から作っているというクラフト感はすごく強かったですね。ただ、予算がない中でも、毎回どこかにアイデアや自分だからできることは入れたいと思って、最終回では突然ドラマになるという演出を入れました。

    ドラマなんて撮ったこともないので、「役者さんの動きに合わせてカメラはどう動けばいいんだろうか」という本当に初歩的なところから全部手探りでやって。その経験で「バラエティって、やろうと思えば結構何でもできるんだな」と思いましたし、それをやらせてもらえる場所がテレビ局なんだということも強く感じました。

    ●片岡飛鳥氏から学んだ「面白さを言語化すること」
    –ディレクターデビューは、『めちゃ×2イケてるッ!』総監督の片岡飛鳥さんが企画構成を務めた若手育成特番『567↑8』だったと思います。飛鳥さんは近年、講演で「面白さを言語化する」ことを伝えていますが、原田さんもこのメソッドを学んだのですか?

    実は、僕がインターンの時に飛鳥さんが講師として来てくださって、その時に飛鳥さんの企画に対する考え方や理論を教えていただきました。インターン参加者が一人1本ずつ企画書を出して、飛鳥さんが一人ひとりにフィードバックする時間があったんです。30人くらいいたと思うんですけど、夜遅くまで本当に丁寧に見てくださって。その時に、僕の企画書を褒めていただいたんですよ。「何を面白がるのかをちゃんと言語化する」ということが一番大事だという講義の中で、「この企画書にはそれがある」と言っていただいて、それがすごく心に残っています。自分が感覚的にやっていたことに、初めて言葉を与えていただいたような感覚がありました。

    –その考え方は、実際に番組制作の中で生きましたか?

    ずっと生きていますし、企画を考える上で一番大事なことだと思っています。

    会議でずっと詰めていると、雰囲気としては成立しているけど、「結局、何が面白いんだっけ?」という状態になることがあるんです。「なんとなく面白そう」で終わらせずに、その企画の何を面白がっているのかを自分の中で言葉にできているか。それが明確になっていれば、そこから先の演出でも判断に迷うことが少なくなると思っています。

    実際、現場で技術さんや美術さんとコミュニケーションを取る時も、「こう撮ってほしい」「こういうセットにしたい」と方法だけを伝えるのではなくて、「この企画はここが面白いから、こうしたい」と伝えられるかどうかで、全然変わるんですよね。そういう意味でも、面白さを自分の中でどこまで言語化できているかは、とても意識しています。

    ○有吉弘行は「MCでありながら究極のアウトサイダー」

    –これまで様々な出演者と仕事をしてきた中で、特に印象に残っている方はどなたですか?

    『有吉弘行の脱法TV』(※)でご一緒している有吉さんですね。僕が言うのはすごくおこがましいですけど、大喜利的なコメントの面白さや物事を見る目線はもちろん、本質を捉える力がものすごく高いと感じました。何かが起きた時、みんなが感じているけれど言葉にできていないことや、建前で隠れていることを一瞬で見つけて言葉にする。だからめちゃくちゃ面白いし、同時に「ウソがない」という感じがするんです。

    その「ウソがない」ということが、良くも悪くもいろいろな演出や建前の積み重ねでできている今のテレビにとって、ものすごいカウンターになっている気がして。だから有吉さんってMCでありながら、究極のアウトサイダーでもあると思うんですよね。その2つを同時に成立させている人って、ほかにいないじゃないですか。だから、有吉さんが現場にいると、背筋が伸びる感覚がありますし、有吉さんがめちゃくちゃ笑ってくださると、作り手としてものすごくうれしい。「これはちゃんと面白いものになっているのかもしれない」と思えるんです。そういう意味でも、自分にとって特別な方ですね。

    (※)…「テレビでできないとされていること」を有吉弘行が抜け穴を探して何とか実現しようとする番組

    『有吉弘行の脱法TV』FODで配信中 (C)フジテレビ

    –『脱法TV』は、テレビのルールやコンプライアンス自体を題材にする内容ですが、放送への怖さはありましたか?

    内容が内容なので、VTRを作っている段階では「これは炎上するかも」という怖さは、実はありました。ただ、収録で有吉さんのコメントが加わると、こちらが意図していたことを汲み取りながら、その危うさも含めて笑いに変えてくださるんです。それによって、自分が想像していた何倍も面白くなったと感じる瞬間が何度もありました。有吉さん自身がテレビのルールや文脈をよく分かった上で言葉にしてくださることで、番組にも説得力が生まれていましたし、何より、最終的にはちゃんと笑いに着地している。そのことを収録で確信できたので、最終的には放送に対する怖さはなくなっていました。

    –フジテレビは一連の事案があって、コンプライアンスを巡る状況も大きく変わったと思います。制作現場への影響も大きいですか?

    影響はたしかにありますが、自分の中で大事にしている基準は、結局「それを見て笑えるか」だと思っています。別に過激なことがやりたくて過激なことをやるわけではないし、コンプラを破りたくて破るわけでもない。「それによって最後、視聴者をどこへ連れていくのか」ということの方が大事だと思うんです。

    だから、シンプルに見ていて笑えないものはもちろん、その中で誰かが傷ついているかもしれないとか、そのことが気になって素直に笑えないものはやるべきではないし、逆に、ちゃんと面白いものまでコンプライアンスを理由にできなくなってしまうことは健全ではない。ルールだけを機械的に当てはめるのではなく、最終的に視聴者がどう受け取るのかまで含めて考える。その上で、どう折り合いをつけながら面白いものを作るか、ということでしかないと思っています。

    –演者さんの話に戻ると、内村光良さんとは『内村と相棒』(22年)の後に『親切紳士』(26年)でもご一緒されましたね。

    内村さんは、本当に職人だなと思いました。『親切紳士』ではコントドラマをご一緒したんですけど、キャラクターの作り込み方や、ちょっとした動きや表情まで含めた表現の細かさは、間近で見ていて本当に勉強になりましたね。真冬の撮影で、冷たい川に入っていただくシーンがあったんですけど、そういう無茶なお願いにも、作品のためなら文字通り身体を張って応えてくださって。その姿勢を目の前で見られて、ご一緒できて本当に光栄でした。

    これだけ長く第一線で活躍されて、ご自身の表現のスタイルや信頼できるチームもすでに確立されている方が、新しいチームから出てくる提案に対して、閉じることなく、最後まで一緒に挑戦してくださる。その懐の深さも含めて尊敬しています。

    ●テレビは「人だかりを作れるメディア」
    『Hello Again』FODで配信中 (C)フジテレビ

    –香取慎吾さんに密着したドキュメンタリー風番組『Hello Again』(25年3月)から、原田さんの企画・演出番組が世に出ていませんが、何か制作している作品があるのですか?

    地上波も含めて、いろいろ準備している最中です。局の中だけではなく、外部の方々とご一緒する仕事も増えていて、ありがたいことに様々な形で作品を作らせていただいています。

    –外部の仕事を考えることで、見えてきたものはありますか?

    メディアが違えば、できることの幅や作り方も全然違うので、すごく面白いです。でも一方で、外の仕事をするからこそ、改めて「テレビというメディアをこれからどう成長させられるんだろう」ということを、考えるようになりました。今は、映像が大きく2つに分かれてきている気がするんです。「時間を捧げるコンテンツ」と「時間を潰すコンテンツ」。その両方が強くなっていく中で、尺も予算もその中間に位置するテレビは、どちらにも分類し切れないように感じることがあって。「これはどうすれば届くんだろう」とすごく考えるようになりました。

    もしかすると、もうソフトとしての番組だけではなく、ハードも含めてテレビというメディア自体を捉え直す必要があるのかもしれない。「多くの人に見てもらえる」というこれまでのテレビが持っていた価値や役割を守ることだけではなく、これからのテレビがどんな“新しい価値”を提示できるのかを考えることが大事なんじゃないかと思っています。

    みんながスマホを見るようになって、コンテンツが飽和して、AIが無限に映像を作れるようになっていく時代だからこそ、逆に身体性を伴う体験の価値が高まっていくと思うんです。そう考えた時、テレビって意外と「人だかりを作れるメディア」なんじゃないかと思っていて。幅広い人に同時にリーチできる規模がありますし、視聴者の日常との接点も多く持っています。それこそ『お台場冒険王』じゃないですけど、興行やライブなど、テレビを起点に人だかりを作る。そういう方向にもテレビの可能性を広げていけたら、もっと面白いメディアになっていくんじゃないかと考えたりします。

    –番組単体ではなく、コンテンツ全体の展開まで考えるようになっているんですね。

    同じ業界の中で既存の視聴者を取り合っていてもパイが広がらない感覚があるので。どれだけ今までの枠を超えられるか。それは一クリエイターとしてやりたいことでもありますし、僕自身テレビが好きなので、もっと盛り上げていけたらいいなと思っています。

    –原田さんの同期で、『AI実験バラエティ シンギュラ』を企画・演出して放送文化基金賞のエンターテインメント部門優秀賞を受賞した飛田将斗さんも「自分たちの世代から、この状況を何とか変えていきたいです」と危機感を語っていました。

    飛田とはインターンの頃から一緒なので、同期の中でも特別な思いがあります。学生時代に学んでいたAIという強みを生かして、自分にしか作れない企画を形にしているのは、素直にすごいなと思います。同じ時代にテレビの世界に入った人間として、これから一緒に盛り上げていけたらうれしいですね。

    –ほかにも同期でバラエティ制作の方はいらっしゃるのですか?

    『トークィーンズ』や『超調査チューズデイ』などでディレクターをしている原凛一郎がいます。ドラマには足立遼太朗(10月期月9ドラマ『救命病棟24時』プロデューサー)もいますし、同期がそれぞれの場所で健闘しているのは刺激になりますね。

    ○“サラリーマンクリエイター”に必要な余白

    –現在は『何か“オモシロいコト”ないの?』でディレクターを担当されていて、ご自身の企画・演出番組とは違う立場ですが、それだけに学びは大きいですか?

    本当に勉強になることばかりです。それこそ、コンテンツを作ること自体は一人でもできる時代ですけど、優れた作り手のもとで、その人が何を見て、どう判断しているのかを間近で学べるというのは、会社に入ったからこそ得られた経験だと思っています。

    中川(将史、総合演出)さんは、現場での立ち回りから編集まで、本当に卓越していて。どこに面白さを見つけて、それをどう拾って、最終的にどう笑いとして成立させるのか。その判断がものすごく緻密で、速くて、圧倒されます。自分で企画・演出をしているだけでは気づけなかったこともたくさんありますし、今はたくさん吸収させてもらっています。

    –以前、片岡飛鳥さんが「テレビ局には“あいつはこれでいいんだよ枠”が必要だ」と話していました。『水曜日のダウンタウン』のTBSの藤井健太郎さんのように、個人の作家性を認めて自由に動ける存在です。

    今の会社にそういう枠があるのかは別として、組織の中にそういう存在がいること自体は、すごく大事だと思います。もちろん自由には責任が伴いますけど、クリエイターが自分の判断で動ける範囲が広いほど、そこから今までにない面白いものが生まれる可能性も高くなる気がします。さっきの話でいうと、番組というソフトだけではなく、もう一歩外側から何かを動かしたいと思った時に、まだ今の自分のポジションでは、なかなか実現できないこともあります。

    テレビ局の良さって、器の大きさみたいなところにもあったと思うんです。“サラリーマンクリエイター”という特殊な存在を抱えて、その個人にある程度の余白がある。でも、その余白を狭めすぎると、どんどん「クリエイター」の部分まで小さくなってしまう気もしていて。そこはバランスなのかなと思います。

    –2022年にインタビューした際、「テレビのテンプレートを崩して再構築することを意識している」と話していました。その考えは今も変わっていませんか?

    そうですね。テレビを取り巻く環境が厳しいと言われる中で、「まだ見ている人の母数が大きい」と言う方は多いと思うんですけど、僕は視聴者の数以上に、「誰でも見ることができる環境にある」というインフラとしての側面が大きいと思っているんです。それは様々なメディアがある中でも、テレビが持っているかなり独自の特性です。だからこそ、みんながなんとなく共有している“テレビ像”をあえて壊すことは、新しいものを生み出すアプローチとして有効だとは思っていますし、そもそも自分自身そういう表現が好きなので、これからも作ることはあると思います。

    ただ、今の潮流を見ていると、そういうものが少し増えすぎた感覚も正直あって。テレビだけに限らず、いわゆる“メタ”なものが増えすぎたなと。自分の好みや哲学が変わったわけでもないですが、同じ方法論だけを続けていても新しいものにはならないので、今はむしろ、より多くの人に届く普遍性を持ちながら、自分が心から面白いと思えるものを作りたい気持ちの方が強いですね。

    ●言葉ができて初めて、作り手の“遊び場”ができる

    –フジテレビの中で「結果を残す」形も、昔とは変わってきているように思います。原田さん自身が目指すところは、GP帯のレギュラーで総合演出を務めるという従来のルートとは違うのでしょうか。

    そんなことはないです。今、いろいろな場所で仕事をさせていただいていますけど、それ自体は本当に楽しいですし、クリエイターとしてすごくありがたいことだと思っています。会社にとっても、これからの時代、これまでやってこなかった領域や新しいビジネスモデルに挑戦していくことには大きな意味があると思いますし、自分も作り手として、そういう挑戦には積極的に関わっていきたいです。

    ただ、会社員として商業コンテンツを作っている以上、最終的に会社に利益を生み出すということは避けて通れない。それはすごく当たり前のことではあると思っているので、そういう意味では、今の自分にとって、GP帯でしっかり結果を残すことも変わらず大きな目標です。

    その上で、自分がいずれ実現したいことで言えば、新しい“ジャンル”や“カテゴリー”を作りたいという思いがあるんです。例えば「大喜利」や「モキュメンタリー」のようなフォーマットの名前かもしれないし、「ノイタミナ」のようなレーベルの名前かもしれない。今のバラエティって、あまりに何でも「バラエティ」という一言に内包されすぎている気がするんですよ。それによって、新しいものを作っているつもりでも、結局みんな同じ競技の中で戦ってしまっている感覚があります。

    「大喜利」という言葉があるから、そのルールの中で新しいコンテンツが生まれる。「モキュメンタリー」という言葉が共有されるから、その概念を視聴者も理解して楽しみ、その中でまた新しいものが作られる。言葉ができて初めて、作り手の“遊び場”ができるんだと思います。

    だから、もちろん1本のヒット番組を作りたいですし、それは大事です。でも後からでもいいので、「あれって、ああいうジャンルだったよね」と言われるものができたら、バラエティの可能性はもっと広がると思うんです。フジテレビという会社にいるからには、そういうものを作りたいですね。

    –そのためにも、様々な企画を試せる場が必要になりますね。原田さんの名前を業界内に広めた『ここにタイトルを入力』も『水曜日NEXT!』というチャレンジ枠からでしたし。

    チャレンジ枠のような形で、いろいろな特番を試せるのが一番うれしいです。ただ、今の会社の状況や制作にかかる様々なコストを考えると、一つのレギュラー番組という器の中で毎週いろいろな企画を試していく形も、すごく健全で面白いのかなと思っています。『ここにタイトルを入力』も6週連続の放送でしたけど、その中で毎週違う形を試すことができたので。

    それと個人的には、「沸かせたい」という欲がすごく強いんです。笑わせたい、感動させたい、驚かせたいということを全部内包して、「沸かせたい」という感覚で、とにかくそこに熱が生まれるようなものを作りたいと思っていて。単発で一度大きく沸かせることももちろんできると思うんですけど、レギュラーだからこそ、その熱を継続的に生み出して、番組そのものを一つの「熱の発生源」にしていける気がしています。

    だから中身だけではなくて、どういう動線で視聴者に届いて、どういう受け取られ方をするのかまでトータルで考えたいですし、そのためにも見たことのないものを作り続けたいと思っています。

    ○企画書からこぼれ落ちる部分に感じた『トリビアの泉』の魅力

    –ご自身が影響を受けた番組を1本挙げるとすると、何ですか?

    難しいですけど、『トリビアの泉』(フジテレビ)ですね。最近切り抜きが回ってきますが、今振り返っても異常に面白いんです。お笑いって、時代背景や文脈にすごく左右されるものだと思うので、それでも今見て面白いというのはすごいことだと思います。

    僕は当時、テレビをそんなに見ていなかったんですけど、「テレビが好き」というより『トリビアの泉』が好きだった感覚があります。“へぇボタン”も持っていましたし、本も買っていました。あの本、めちゃくちゃ縦長で読みづらいんですよ。でも、その体験も含めて『トリビアの泉』っぽくて好きでした。

    –どんなところに惹かれていたのでしょうか。

    『トリビアの泉』という一つの世界観、トーンが完全に確立されていたことだと思います。今は企画書について「一言で企画を説明できるか」ということがすごく問われます。でも、それだけではなくて、企画書からこぼれ落ちるような部分、演出を一つ一つ積み重ねていったところに“番組性”が宿る。『トリビアの泉』は、その世界観の確立の仕方がすごかったんだと思います。

    僕、自分の番組でもロートーンのナレーションが結構好きなんです。それも多分、めちゃくちゃ影響を受けていますね。

    –いろいろお話をいただき、ありがとうございました。最後に、注目している“テレビ屋”を教えてください。

    大先輩なんですけど、この1年くらいずっとご一緒している住田崇さんですね。『住住』や『架空OL日記』など、バカリズムさんのコメディドラマを手がけてきた方で、もともとはバラエティのディレクターさんです。

    バラエティの文脈を背負ったままドラマをたくさん作っている人って、多分ほかにいないと思うんです。バラエティとドラマの境界線がない感じがすごく面白い。一緒に話していても、出てくるアイデアに本当に既視感がなくて、面白さを判断する感覚がすごく研ぎ澄まされている感じがします。住田さんが今、何を考えているのか。その頭の中をぜひ覗いてみたいですね。

    次回の“テレビ屋”は…

    演出家・住田崇氏

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