世界の医療団のプロジェクトの一つであるロヒンギャ難民について関心を深めてもらおうと、8月30日(日)の午後、映画『LOST LAND/ロストランド』上映会&トークイベントを開催しました。

    9年前の8月25日、ミャンマー軍の迫害を逃れて75万人以上のロヒンギャの人々が隣国バングラデシュに流入しました。バングラデシュの難民キャンプは今や120万人が暮らす世界最大級の規模になっています。しかし国際的な支援は減り続け、キャンプ内での教育や就労も制限され、暴力、麻薬取引、人身売買などが絶えず、治安は悪化しています。未来に希望を見いだせず、マレーシアなど第三国を目指して危険な航路をたどり、命を落とす人々も多くいます。
    映画『LOST LAND/ロストランド』は、このようなロヒンギャ難民を取り巻く過酷な現実を描き、ベネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど高い評価を得ています。世界の医療団は、制作にあたり取材協力をしており、エンドロールにも名前が記されています。また、8月20日に集英社から発売された小説『「0825」に私たちは殺され続ける あるロヒンギャ夫婦の物語』は、迫害を受けてキャンプに逃れた夫婦が直面する現実を克明に描き、アラカン軍や武装組織である「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」の一員として生きる若者の視点も加わり、ロヒンギャの人々を翻弄する複雑な力関係についても理解を深めることができます。この小説についても取材協力を行っています。今回のイベントでは映画を上映するとともに、映画監督の藤元明緒さん、小説の著者である今泉千尋さんをお招きして、世界の医療団の海外事業プロジェク・トコーディネーターの中嶋とともにトークセッションを行いました。
    会場は、横浜にあるサンモールインターナショナルスクールのご厚意により、お借りすることができました。100名を超える方にお申し込みいただき、東京都内からも多くの方にご参加いただきました。

    会場のサンモールインターナショナルスクールのホール

    上映後のトークセッションでは、まず今泉さんに感想をうかがいました。今回で6回目の映画の視聴という今泉さんは「演技の経験がない主役の二人や出演しているロヒンギャの方たちの演技がとても力強い。メイキング映像を見るととてもあたたかい現場だったことがわかる。出演したロヒンギャの人々は同じ体験をしていなくても、コミュニティの中や家族から受け継がれている記憶や経験が、演技しやすい環境のなかで発露して素晴らしい演技につながったと思う。映画の身体表現の力強さに圧倒された」と話されました。世界の医療団の中嶋は、「今年だけでも海を渡ろうとした800人ほどのロヒンギャの人々が亡くなったり行方不明になったりしている。この今の瞬間にも出航しようとしている人々がいるかもしれない」と映画で紹介されたことは現在進行形であることを伝えました。続いて、藤元監督や今泉さんに「なぜロヒンギャをテーマにしたのか」をうかがいました。監督は「2013年にミャンマーの映画を作り始めたとき、ロヒンギャの人々の話を聞き、いつか映画にしたいという思いがあったが、話に出すこと自体がタブーでなかなか身動きが取れなかった。クーデターが起き、若者たちがロヒンギャの人々の痛みがわかったと発信しているのを見て、自分に何ができるかを考えた。そして映画を制作することにした」と話されました。9年にわたってロヒンギャを取材されてきた今泉さんは「大学院で平和学を学んでいたとき、SNSで仏教徒がイスラム教徒に迫害されているから拡散してという投稿をシェアしてしまったが、実際に迫害を受けているのはイスラム教徒だと指摘され調べてみた。ロヒンギャの人々に対して申し訳ないと思ったのがきっかけだが、彼らの寛容さや希望を失わずにいることがこれまで取材を続けてこられた理由。ロヒンギャの人々は、以前からラカイン州で民族間の関係が悪化する中でも乗り越えて関係を修復し共存してきたと話していた。排斥されたことを怒りに変えるのではなく前向きに未来をつくり共存してきたと聞いている」と話されました。8月上旬までバングラデシュにいた中嶋から最新の現地の状況を説明してもらい、難民への支援が減っているが、その中でも世界の医療団は人々への健康教育や診療所運営などの活動を継続していることを伝えました。



    映画について監督に「総勢200人近くのロヒンギャの人々が出演されるにあたって、配慮したこと、苦労したことは?」「最初からふたりのきょうだいを主役にしようと考えていたのか」「きょうだいの両親が描かれていないのはどういう意図が込められているのか」などうかがいました。監督は「通常はオーディションで選ぶが、今回選択していくということは彼らにとって精神的負荷が高いので、出演者は紹介してもらった。スタッフにもロヒンギャの人が参加してくれた。主役の子ども達はその辺で遊んでいた。当初は自分の身体的能力で逃げていける中高生ぐらいの男の子を主役に想定していたが、出会った4歳の子はすばらしい“匂い”がした。僕はこの点で今まで間違ったことはない。実際に映像を引っ張って行ってくれた。彼らは国外で生まれた2世で、自身は旅は経験しておらず親から聞いているがそこまでピンときていない。出演者の中には経験した人がいるので、フラッシュバックが起きないようにというのは注意したところ。みんなでムードをつくってもらった。演技だから感情を込めて、というより、身体的なアクションを覚えてもらって心の中は大嘘ついてもらっていいという感じ。両親の不在は血のつながった家族関係で助け合うというより、家族でなくても初めて会った人でもいろんな人の力を結集して目的地まで進んでいくという連帯性を描きたかった。彼らは進むたびに命を落とす、でも進むしかない。取材をしているときに彼らがちゃんとさよならを言って別れられていないということがわかったので、シャフィくんにとって別れを連続させることはコンセプトとしてあった。僕は映画の画面上に希望を映すことはやらないようにしている。観客が希望を持ち込んでもらうためにどうしたらいいかを考える」と話されました。



    今泉さんにどのようにロヒンギャの人々を描こうとしたのかをお聞きすると「ロヒンギャの人たちを取材していると、なぜ遠い国の事をやるのかと言われる。難民についてなかなか関心を持たれづらい。どうしたらもっと興味を持ってもらえるか考えていた。ニュースになるときは大きな数字であるとか、ものすごくかわいそうな人か、努力している優等生という描かれ方をすることが多い。でもそうでない人も多い。国籍とか文化とか違いはあるが、人間は本質的に同じと思っている。愛する存在と幸せに暮らしたい、希望と夢をかなえてよりよい未来を築きたい、そういう人間に共通する部分を描きたかった」と答えられました。
    映画ではドキュメンタリーかと思ったという感想もあるが、なぜフィクションという手法を選んだのか、という質問に、監督は「考えたこともなかった。ドキュメンタリーみたいという感想はみんなの演技がうますぎる結果だと好意的に受け取っている」と回答。これまでのジャーナリストとして事実を伝えて来られた今泉さんに今回はなぜ小説だったのかをうかがうと「最初は200ページのノンフィクションを書いた。でも登場人物の名前はセキュリティ上懸念があるために出すことができない。ノンフィクションは難しいのでフィクションにしましょうか、と編集者から提案をもらった。フィクションだと自由度が上がる。過酷な現実のなかでハッピーエンドにすることは難しかったが、希望とか民族共生などの願いを書き込めた」と答えられました。



    最後に「ロヒンギャの人々が切望する故郷に帰るためには何が必要なのか」「私たちに何ができるのか」をお聞きしました。監督は「多くの人々が故郷に帰りたいという願いを持っている。究極的にはミャンマーの法律が変わっていくことが重要。他国の法律をどのように変えていくかアプローチは難しいが、日本がどういう態度をとるか関係ある部分がある。また、緊急支援も重要。世界の医療団への寄付やホームページをシェアするなどはできる。芸術表現の場合、彼らの願いをどう翻訳していくかということに一番注意していた。彼らがどういうことを願っているか想像していくこと、日本にいるみなさんが想像していくということが、いい未来につながる最初のステップなのかと思う」と述べられました。
    会場からの「冒頭でキャンプの過酷さはあまり描かれていなかったのは?」という質問に監督は「キャンプについてはたくさんの記事や発信があり、そこは任せているという気持ちが強かった。映画をどう始めるかは重要なところ。二人の子ども達は遊びを奪われる。その二人がどう子どもらしさを取り戻していくかを追っていった。最初はおもちゃを奪われ、船に乗せられ、遊びを求めようとする、の繰り返し。二人の願いに通じる部分で、そこにフォーカスしたかった」また、「いちばん大変だったことは?」という質問には「僕にとっての難しさはなかった。ロヒンギャの人々が能動的に演技の表現として実践してくれ、難しさを乗り越えてくれた結果この映画ができ上がった。彼らの活動は素晴らしかった。子ども達が超悪ガキなのはちょっと大変だったが(笑)」と回答。さらに「今後はどのように映画を広める予定か」という質問には「イベントに使ってもらって、見て終わりというよりは背景情報やキャンプのことに詳しくなってもらえれば。また、政策提言の場として国連での上映会など国外で政治を変える発言権のある人々のところで上映してもらうのも映画の重要な役割と考えている」と答えられました。

    トークセッション終了後、多くの方が用意した小説やチャリティーグッズを買い求めてくださったり、現金寄付をしてくださいました。

    世界の医療団の活動


    参加者からの感想

    映画のことを知っていたものの、初めて拝見し、大変衝撃を受けました。人権を奪われている状況が改善しない状況が続いていて、なんとも胸が締め付けられる思いです。自分の周りでできることから何か少しでも取り組めたら、と思います。今泉さんの小説も持ち帰って、勉強させていただきます。ありがとうございました。

    今まで目が向かなかった地域の民族のことを知るきっかけになった。ロヒンギャの人々の助け合いに心を打たれた。

    映画の力ってすごいなと思いました。みんな役者さんではないと聞いて驚きです。ロヒンギャについては私もなんとなく遠い問題のように感じていましたが、映画を通じて自分事として考えることができました。ありがとうございました。

    私の配偶者がムスリムのため年々、日本でも住みづらさを感じる場面が多く、ロヒンギャについても他人事とは思えません。上映をしていただき感謝致します。

    今世界中のあちらこちらに起きている迫害に強い憤りを感じている。ガザのこと、ロヒンギャのこと、その他内戦等で命を奪われるのは普通の市民であり、決して他人事ではないはず。まずは実情を知ること! 貴重な映画だった。

    ロストランド 公式サイト https://www.lostland-movie.com/
    藤元組ウェブサイト https://fujimotofilms.com/jisyujyouei

    小説『「0825」に私たちは殺され続ける あるロヒンギャ夫婦の物語』『「0825」に私たちは殺され続ける あるロヒンギャ夫婦の物語』
    2026年8月20日発売 集英社文庫 880円(税込)
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-743034-9

    Update on : 2026.09.14

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