

映画やドラマの撮影技術を手がけるビデオフォーカスに、Sigma AF Cine Lineを連続ドラマの現場に投入してもらった。全10話を20日間で撮り切るタイトな現場で、AFシネレンズは何をもたらしたのか?カメラマン、DIT、照明、技術部、営業それぞれ視点からこのレンズの魅力についてお話を伺った。
構成・文:編集部 萩原 写真:盛 真弓 協力:株式会社シグマ
ビデオフォーカス Video Focus
撮影技術会社

写真右から金子拓矢さん(代表取締役/照明)、生野美智信さん(カメラマン)、飯田次郎さん(営業・プロデューサー)、中塚政明さん(DIT/VE)、早川裕樹さん(技術部 映像課)、角本輝夫さん(技術部)
ドラマ『キスは捜査のあとで』




ABCテレビ(毎週日曜深夜0時10分放送)
ABCテレビでの放送後、TVer・ABEMAで見逃し配信
渡部 秀と齋藤璃佑がW主演を務めるABCテレビの連続ドラマ。発行部数15万部のBLコミックを実写化し、田舎町の警察署を舞台に38歳と28歳の刑事コンビがラブコメを繰り広げる。
出演:渡部 秀、齋藤璃佑、工藤 遥、金井勇太、ドロンズ石本、矢柴俊博、菊川 怜/原作:すう『キスは捜査のあとで』(Jパブリッシング)/脚本:村田こけし/演出:大内隆弘、浅見佳史/プロデューサー:藤田洋平、寺川真未、川西 琢/制作協力:ABCリブラ/制作著作:ABC
Sigma AF Cine Line28-105㎜ T3 FF
参考価格(実売495,000円)


Sigma AF Cine Line28-45㎜ T2 FF
参考価格(実売450,000円)


Sigma初のAF対応シネレンズシリーズ。Artラインの光学系を受け継いだ高い描写力と、高精度で追従性に優れたAFを高次元で両立し、従来のスチル用レンズやシネレンズでは難しかった撮影スタイルや現場環境に対応する。28-45mm T2 FFと28-105mm T3 FFの2本を展開。
撮影の状況と使用レンズ
——今回の撮影体制を教えてください。
生野 本編用のFX6が1台、ジンバル用のFX3が1台です。撮影は1話・30分、全10話を20日間で撮影しました。
飯田 通常なら30分ものは1話2.5〜3日なんですが、今回は1話2日という。
——今回の現場で使用したレンズと各レンズの使い分けを教えてください。
生野 これまで標準はスチルのSigma 24-70mm F2.8 DG DN II | Art や他社レンズを使っていたのですが、低予算の作品ほど70mmだと玉の長さが足りない。AF Cine Line28-105㎜ T3 FFが出たことで、室内・インドアはこれ1本でなるべく通せるという利点がかなり大きかったですね。今回はAF Cine Line28-45㎜ T2 FFもお借りして、あとSigma 16-28mm F2.8 DG DN | ContemporaryとSigma 70-200 mm F2.8 DG DN OS | Sports。引き尻が取れない場所では16-28mm、105mmよりも長玉で撮りたいとき70-200mmを使いました。
AFが活きた場面、マニュアルが活きた場面
——シネレンズに載ったAFの精度はどうでしたか?
中塚 AFといえばスチルレンズ、というのがこれまでの常識でした。今回はボディがソニーなので、SigmaのAFがどこまで通用するか関心があったのですが、精度はかなり良く、ソニー側のフォーカス送りの設定もそのまま使える。それでいて画はシネレンズのトーンなので、観ている人にはAFで送ったとは分からない。シネレンズの画とAFを両立できるというのは大きいと思いました。
——AFが活きたのは、どんな場面?
生野 人物が縦方向に歩いてくるとか、走ってくる場面ですね。ローバジェットだと時間がないので、ピント送りをAFに任せられると、次のカットをどう撮るか考える余裕が生まれる。そのぶん楽なときがありました。
中塚 AFの信頼性が高いので、瞳AFの枠がモニターで見えていれば、フォーカスを意識しないで映像のトーンやバレ物に集中できる。常にフォーカスが合っているか見ていなければいけない負担が減っていますね。
——逆に、マニュアルで行くと判断するのはどんなときですか?
生野 暗いトーンのシーンや立ち回りだと顔を認識できず、瞳AFのマーカーが付かない。逆光も人物が暗部になるのでAFが来たり来なかったりで、そこはマニュアルで送るしかない。初日は助手が外部の方で自分でフォーカスをやるしかなかったのですが、そこで金子さんに逆光を作られてAFが来ない(笑)。マニュアルがきちんと使えるというのは大きかったですね。


現場で使ったAFとMFの「合わせ技」
——印象に残ったカットはありますか。
生野 廊下の縦位置で、手前の人物にAFで合わせておいて、その人が振り返ると奥にもうひとり立っている、というカット。奥へのピン送りは、スチルレンズだとどうしても電子的な動きになってしまう。そこで、手前に歩いてくる人物はAFで追っておいて、立ち止まったらスマホアプリでマニュアルに切り替える。そこから先は手動で奥に送れるんです。
金子 こういう使い方をしている人はいないと思います。生野くん独特の使い方ですね。
——マニュアルで送ったときの感触は?
生野 送り幅と粘りに関しては、ワンオペでも送れる感触がありました。手前から奥まで回転角がしっかりあるので、送り幅の感覚が身につきやすい。スチルレンズだとサイズごとに「これくらい送れば合う」と覚えていても、本番では意外と同じ幅にならないんです。ピントを外してリテイクになる、ということが減る可能性はありますね。
早川 私はまだ現場では使えていないのですが、触り心地がとても良くて、送った感じも遜色ないですね。前枠径が95mmで統一されていて、レンズチェンジのたびにマットボックスのアダプターを付け替えたり、フォーカスギアの位置を微調整したりする煩わしさがない。
角本 撮影部のワークフローが効率化できて時短にもなるので、人数の少ない現場では助かるだろうなと思いました。





AFの追従性やフォローする被写体が乗り代わるときのAFの挙動の感度をカメラ側(FX6)の設定で調整。カスタムボタンに割り当てて、すぐに調整できるように設定。さらにAFとMFの切り替えは、無料で使えるソニーのアプリMonitor & Control(写真下)で行なった。
照明部から見たルックの「素直さ」と、絞りの固定
——照明の立場から、今回のレンズはいかがでしたか?
金子 いやもう、本当に素直なんですよね。レンズのルックが主張してこないので、こちらが照明と美術で作ったものをそのまま表現してくれる。ニュートラルで、ちゃんとボケる。ゴーストやフレアも含めて、画作りに口を出してこない感じです。ルックは仕上げでいくらでもいじれますから、最初に撮るものは絶対に素直なほうがいいんです。
生野 ナイターでもそんなにフレアが出ないので、いつもよりハレーションを切ることが少なかったですね。
金子 あとは絞りが固定される。これはAF Cineならではで、照明部としては一番大きいかもしれません。狭い現場だとカメラがいろいろ揉まれて、いつの間にか絞りが動いてしまうんですよ。僕らが勝負しているのはT2.8からT3.2、T3.5くらいの範囲で、それが知らないうちにF4まで動いていたら、もう全然別世界になってしまう。そこがロックされるというのは、めちゃめちゃでかいなと。
28-105mm T3と28-45mm T2、2本のレンズの使い分け
——焦点域が重なる2本ですが、28-45mm T2の位置づけは?
金子 正直、最初に一番分からなかったのが28-45mmの存在だったんです。ただ今回はロケで狭い現場が多く、壁と被写体が近いと、背景と人物のトーンに差を付けられない。そこでT2まで開けば、背景をぼかして人物を浮かせられる。だからこの2本があれば、大体の表現はできてしまうんじゃないかと。
中塚 一見mm数が被っているので「1本あればいい」と思う人もいるはずですが、T3とT2の差は結構大きい。引き画で手前にピントを合わせて奥をぼかしたいとき、28-105mmでは届かないところに28-45mmなら届くんです。そこはよく考えられているなと思いました。
——収録はLogですか?
生野 そうです。LUTは、こちらで事前に用意したものを使っていました。
中塚 僕が別で使わせていただいた映画では、事前にカメラテストをして、その素材からこのレンズに合わせたLUTを作り込みました。時代物なので少しセピアがかったトーンにしたのですが、それでもディテールが失われない。長期でお借りできたおかげで準備段階からじっくり使えたのは大きかったです。色味もSigmaさんの伝統を引き継いでいるので、FF High Speed Prime Lineと比べても遜色ないですね。
ドラマの現場への導入メリット
——営業・プロデューサーの立場から、導入のメリットをどう見られましたか?
飯田 どうしても価格の話になってしまうんですが、普段使っている純正のスチルレンズとそんなに大きな差がない。購入するにしてもレンタルするにしても大差が出てこないのは、すごくいいところですね。いわゆる予算の厳しい深夜ドラマ関係には、全般的に有効なんじゃないかなと思います。
中塚 これまでは、Aカメはシネマ単焦点、Bカメは予算がないのでスチルレンズ、という2台体制になりがちでした。同じレンズを3台でも4台でも揃えられれば、2カメで役者さんの顔を撮ったときにトーンが合わない、という悩みがなくなる。色は編集で直しても限界がありますし、映像のキレは直せませんから。Bカメはフォーカスプラーを付ける予算がなくカメラマン単体になりがちなので、AFが載っているのも運用面で便利です。あとはドキュメンタリーにもいいですね。最近はFX3などで映画っぽいトーンで撮りたい方が多く、ディレクター兼カメラマンで自分で回す方も結構いる。そういう方にも使いやすいのかなと。
今後のAF Cine Lineへの要望
——今後、AF Cine Lineに期待したいラインナップはありますか?
生野 全部言ってしまうと、大三元の3本セットですね。今回思ったのは、16-28mmを付けるとコンパクトすぎるということ。僕的には広角側は18mm以降、20mmからあれば充分です。
飯田 もうひとつは単焦点。今回のAFが想像以上で、純正と引けを取らなかった。だからこそ、いま出ているF1.2やF1.4のスチル用単焦点シリーズを、シネレンズ版として出してほしいです。
生野 それはすごくありです。それがあれば本体だけ構えても使えますし、ジンバルにも付けやすい。
飯田 あとは、ピントのシビアなシネマ単焦点にいきなり挑戦する前段として、このレンズで助手がマニュアルフォーカスの経験を積めるのは有効かなと。そういう意味でも業界の人材育成にも役立つレンズじゃないかと思うんです。
Behind The Scene
第3話、スナックの店内と店前の路上での撮影。AF Cine Line 28-105mm T3 FFと28-45mm T2 FFをメインに、足りない画角をSigma 16-28mm F2.8 DG DN | ContemporaryとSigma 70-200mm F2.8 DG DN OS | Sportsで補った。














