映画評論家、エッセイストの秦 早穗子(はたさほこ)さんが担当する『婦人画報』の映画コーナー「世界への窓」。今回は「時空を旅する」をテーマに、2026年10月に公開される注目の新作映画に加え、併せて観たい映画をご紹介します。

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    『モネと時間旅行』映画の杜

    ©STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques 配給:セテラ・インターナショナル

    2026年9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

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    『ポンペイ、雲の下に生きる』映画の杜

    ©21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025 配給:ビターズ・エンド

    2026年10月2日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国ロードショー

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    過去を受け継ぎ、未来へ歩む──歴史と人間を見つめる映画

    『モネと時間旅行』の原題は、『未来の到来』。印象派の巨匠、クロード・モネ(1840~1926)を巡って、写真もシネマも生まれつつあったラ・ベル・エポックの時代と現代を混合させながら描く作品。新しい文化・芸術が花開いた過去の遺産をどう引き継ぎ、伝えるのか。そして人間がこれからどう生き、人生の旅を続けていくか。そんな壮大な主題を根幹に据えた一作である。

    19世紀末から第一次大戦までのよき時代を生きたフランスの祖父母や曽祖父母の時代は、いまを生きるフランスの人々にとっても遠い昔であるだろうし、多くの日本人にしてみれば、過去と現在が交互に、時には急に侵入してくるセドリック・クラピッシュ監督の独特の映画作りに戸惑う方もおられよう。

    モネが晩年を過ごしたジヴェルニーの家の、水色と黄色が光をまとって輝く室内。そこに日本の浮世絵がちらりと見える一瞬。睡蓮の池のある庭園。パリの美術館に飾られた睡蓮の壁画を実際に見られた方は、静謐な世界で過ごしたある日の、あるひとときが思い出されるであろう。

    しかし、本作はいわゆるモネの一生を描いたのではない。1873年生まれのアデル・ムニエがノルマンディに残した屋敷を巡って、ときは現代、彼女を先祖とする親族同士が出会うことから始まる。彼らはアデルとその母の思いもかけない秘密、モネや印象派の仲間たち、ヴィクトル・ユゴーや、サラ・ベルナールのいた時代の空気を感じ取る。もちろん史実と物語が混じる世界は、歴史が伝える事実をより知れば、もっと興味深い。だが、人の心の深淵は謎が多い。いたずらに探るより、そっとしておいたほうがいいかも。味の濃い大人向けの作品だ。

    『ポンペイ、雲の下に生きる』もまた、歴史と人間の営みを深く見つめた作品。監督・脚本・撮影はジャンフランコ・ロージ。彼が3年を掛けたドキュメンタリーフィルムで、2025年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞をはじめ多くの賞を受けた最新作である。『旅するローマ教皇』(2022)で第266代フランシスコ教皇の旅を追いかけたロージ監督が今回テーマにしたのは、西暦79年ヴェスヴィオ山の噴火によって消えた古代ローマの都市ポンペイ。一夜にして火山灰に埋もれた街は18世紀になって発掘された。盗難などによって元の姿をとどめていないにしても、現代でもなお東京大学の研究グループが、現場で地味で緻密な発掘の作業を続けている。歴史と人間の重層的関係に興味をもつ方に、ぜひおすすめしたい。地震、火災、水害、そして、戦争の災厄は時代を超えて繰り返される。決して他人事ではない。

    こちらはおうちで……ブルーレイ&DVD

    『日本沈没』映画の杜

    ©1973 TOHO CO., LTD.

    DVDは『日本沈没』(1973年)を選んだ。原作・小松左京の先見性が際立つ作品。森谷司郎監督、小林桂樹主演。この映画をカンヌ国際映画祭に薦めたが、当時はフランス側も見向きもしなかった。だが、いつか世界がこうした問題に直面するだろうと思ったのだ。

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    はたさほこ●1931年東京都生まれ。映画評論家、エッセイスト。58年フランスに渡り『勝手にしやがれ』『太陽がいっぱい』などの映画輸入に携わる。映画評論、エッセイ、翻訳を手掛け、シャネルなどのファッションも紹介。現在も映画紹介に努め、執筆活動を行う。

    文=秦 早穗子 編集=須田秀子(婦人画報編集部)

    『婦人画報』2026年10月号より

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