国立映画アーカイブのクラウドファンディングに温かいご支援と応援をいただき、誠にありがとうございます。ネクストゴールの1億5千万円にむけて、9月23日までひきつづき本プロジェクトへのご支援・応援のほどよろしくお願いいたします。
映画室の三浦と申します。今回は映画の復元についてご紹介したいと思います。
映画の話に「復元」という言葉が出てくることに違和感を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし映画フィルムの中には、ひどく劣化して、あるいは故意に編集され、その映画が誕生した当初の姿が失われてしまっているものもたくさん存在します。そんなフィルムを修復し、公開当時の姿に戻すのが「復元」のお仕事です。
早速ですが具体的な事例をご紹介したいと思います。
1939年公開、吉村公三郎監督の『暖流』です。
フィルム発見!
『暖流』の復元は、下村健さんより16mmフィルムをご寄贈いただいたことから始まります。『暖流』は本来177分の作品ですが、これまで、戦後に再編集され124分となった短縮版が、DVDを含めて主に流通していました。これに対し、ご寄贈いただいた16mmフィルムは、なんと169分と大幅に長く、公開当初の姿に迫る大発見でした。しかし、部分的には劣化が強く進行しており、このままの形で上映を行うことは困難な状態でした。
一方当館では短縮版の35mm上映用フィルムを1962年に松竹より購入し、所蔵している他、1990年に作成した35mmフィルムを2種類所蔵しています。1つは通常の上映用フィルムで、もう1つは、白黒のコントラストを柔らかくする特殊な処理を行ったフィルムです。これらは短縮版よりも少し長いのですが、英語字幕が焼きこまれています。
そこで、これらのフィルムをデジタル化した上で、できる限り長く、できる限り品質が良くなるよう、つなぎ合わせることにしました。
素材の比較
素材を持ち寄り1本化
復元の元素材としては、特殊な処理により白黒の階調が多く残る英語字幕版のフィルムを基本に据え、このフィルムにないカットとトップタイトルは16mmフィルムを採用しました。冒頭のクレジットとエンドマークは短縮版にしか存在していなかったため、短縮版を採用しています。
以上は画についてですが、音については、音質に優れる英語字幕版の上映用フィルムを採用し、欠損箇所は16mmフィルムを採用しました。

このようにして1本化され、失われたシークエンスを取り戻すことにより、登場人物それぞれの緻密な人間描写と、綾なす人間関係が鮮明に解き明かされることとなりました。これまでの短縮版と比べて、作品自体の評価が変わってしまうほどの、とても大きな変化になったと思います。
復元はまだまだ続く
さて、これで復元は完了……ではなく、ここから劣化によるダメージを取り除く、地道な修復作業が始まります。
フィルムは劣化すると、ガタガタと画面が揺れ、作品本来の繊細なカメラワークが台無しになります。演者の心の機微はゴミに上書きされ、決め台詞はノイズに飲まれ、映画にとって最も大事な「映像による表現」がかき消されてしまいます。
これら劣化によるダメージを修復し、監督、キャメラマン、美術監督、照明技師、録音技師、ラボ技術者、全ての製作者の創意工夫により作り上げられた映像表現を取り戻す。そんな修復という作業は、映画を未来へと継承する国立映画アーカイブにとって、重大な責務であると考えています。
最後になりますが、映画の復元は、歴史的なフィルム技術の蓄積と、先端のデジタル技術を総動員して対処する必要があり、現像所・ポストプロダクションとの連携の中で実現しています。フィルムの複製や復元は、外部の専門家の皆様と共に、フィルム技術を未来へと継承していくための礎にもなっています。
画像協力:松竹株式会社
松竹株式会社は、本プロジェクトにおける『暖流』の画像に関する協力のみを行っております。同社はプロジェクトの企画・運営、資金管理、およびリターンの履行等には一切関与しておりません。本プロジェクトに関するお問い合わせは、実行者である国立映画アーカイブへお願いいたします。
