▼「IMAXレーザー」と「IMAX GTレーザー」は別物

    映画を観るために映画館へ行く。それは、ごく当たり前のことだ。しかし、映画館そのものが目的地になる劇場がある。作品が変わっても足を運びたくなる。新作が公開されれば「まず、あそこで観たい」と思う。映画ではなく、その劇場で映画を体験すること自体が目的になる――。そんな映画館は、日本全国を見渡しても決して多くはない。大阪府吹田市にある109シネマズ大阪エキスポシティは、その代表格である。

    今回、筆者が大阪を訪れた目的は、映画「Michael マイケル」を鑑賞することだった。しかし、本稿で紹介したいのは作品だけではない。その作品を支え、何倍にも魅力を増幅させた映画館そのものだ。109シネマズ大阪エキスポシティは、2015年に開業した西日本を代表するシネマコンプレックスの1つであり、日本でわずか2館しか存在しない「IMAXレーザー/GTテクノロジー」(以下、IMAX GTレーザー)が導入されていることで知られている。

    広々としたロビー広々としたロビー

    現在のIMAXのデジタル上映には複数の投影システムがあり、その中でもレーザー光源を用いるシステムとしてIMAX with Laserがある。大型スクリーン向けにはデュアル4Kレーザーを用いるIMAXレーザー/GTテクノロジーも存在する。現在、日本各地で見かける「IMAXレーザー」シアターの多くは、1.90:1アスペクト(アスペクトとは、縦と横の比率のこと)スクリーンを採用している。もちろん一般的なシネコンとは比較にならない没入感を備えているが、IMAXというフォーマットが備える「最高」のグレードではない。

    一方、「IMAX GTレーザー」は、IMAXが理想、最高と考える劇場仕様そのものだ。最大の特徴は、高さ方向に大きく広がる1.43:1アスペクトの超巨大スクリーンだ。映画館でスクリーンを「見上げる」という表現は珍しくないだろう。しかしIMAX GTレーザーのスクリーンは、その言葉だけでは全く足りない。

    はじめてIMAX GTレーザーのスクリーンを見た人は必ず思うに違いない。「スクリーンが巨大なビルの壁のようだ」と。頭をほとんど真上まで傾けないと、スクリーンの上端が見えないくらいの大きさ。視界を埋め尽くす映像。まるで巨大な壁が映像へと変化したかの感覚に陥る。前方の座席に身を沈めると、上下左右をスクリーンに包まれ、自分が映画の中へ吸い込まれていく錯覚さえ起こす。

    実際に映像を観ると、通常の映画館で使われている暗部の階調も豊かで、黒は沈み込みながらも情報を失わない。明るい場面では白飛びもほぼなく細部までクリーンに描写される。また、レーザー光源によるナチュラルな色合い、特に絶妙なスキントーンの描写は大きな魅力である。つまり、その映像が巨大スクリーンに「大きく映る」だけではなく、「巨大な画面なのに精細でナチュラルな色再現」を実現していることに大きな価値がある。

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    ▼4Kツインレーザーと巨大スクリーン

    もう少し解説を加えよう。日本のシネコンに導入されているIMAXレーザーには、1台の4Kレーザープロジェクターを用いるシステムが広く採用されている。比較的コンパクトな劇場への導入も踏まえた設計が施され、高輝度、高コントラスト、広色域といったレーザー光源の恩恵を受けながら、一般的なシネマコンプレックスでもIMAX体験を提供できることを目的として開発されたのが「IMAXレーザー」である。

    一方、109シネマズ大阪エキスポシティのシアター11(そして日本では東京・池袋のグランドシネマサンシャインのスクリーン12)が採用する「IMAX GTレーザー」は、簡単にいえば、パビリオンなどでの体験型システムとして誕生、発展してきた、従来の巨大IMAXシアターを、次世代へ進化させるために開発されたフラッグシップシステムであり、一般にGT(Grand Theatre)と呼ばれる大型IMAXシアター向けのIMAXが理想とする「グランドシアター」のための最新の上映方式である。

    109シネマズ大阪エキスポシティのシアター11のスクリーンサイズは、シネコンとして日本最大級、ビル6階建てに匹敵する天地高18m超、左右幅26m超であるが、そんな巨大なスクリーンであっても高輝度と高精細を両立した映像を映し出すために、「IMAX GTレーザー」では2台のプロジェクターを用いるデュアル4Kレーザーシステムが用いられている。

    レーザー光源ならではの深い黒、豊かな階調、鮮やかな色彩はもちろん、2台の映像を重ね合わせることで、1.43:1アスペクトの天地方向に伸びた巨大スクリーンの隅々まで均一な明るさを確保したことが、IMAX GTレーザーの技術面の大きな特徴となる。

    映画館でスクリーンを見上げることは珍しくない。しかしIMAX GTレーザーでは、視界の上端まで映像が届き、前方の座席では映像に包み込まれるような感覚を抱く。ビル6階に相当するほど天地方向に巨大なスクリーンに映し出される鮮やかで明るい緻密な映像のインパクト。それは単に大きく、綺麗な映像という感興を超え、「映像の中に組み込まれる、映像の中にいる」という感覚へのトリガーになるのである。

    GTレーザーならではの1.43:1スクリーンが最大限に生きるのはIMAX独自の1.43:1拡張アスペクト比で撮影/制作されたシーンが組み込まれた作品である。クリストファー・ノーラン監督は「ダークナイト」以降、IMAX 70mmカメラを積極的に採用し、「ダンケルク」「TENET」では作品の多くを1.43:1フォーマットで撮影した。これらの作品をIMAX GTレーザーで鑑賞すると、通常のビスタサイズやシネマスコープでは映らない上下の映像までスクリーンいっぱいに展開される。つまり、「画面が大きくなる」のではない。観客が見ることのできる世界そのものが広がるのである。

    IMAX独自の1.43:1拡張アスペクト比の強烈な臨場感、没入感に魅了された映像作家はノーラン監督だけではない。「デューン」に描かれる地平線の果てまで続く広大な砂漠の光景を1.43:1の映像で描いたドゥニ・ビルヌーブ。あるいは「NOPE」の不穏な空間演出やチンパンジーの惨劇をクールに描写したジョーダン・ピール監督。こうした作品は、天地方向に異様なまでに拡張された映像画角によって、映画が本来意図したスケール感そして没入感を余すところなく伝えてくれる。

    今後公開が予定されているノーラン監督の「オデュッセイア」やトム・クルーズ主演「ディガー」、邦画初のIMAX独自の1.43:1拡張アスペクト比上映が期待される「ゴジラ-0.0」、待望の完結編(?)となる「デューン 砂の惑星 PART3」のようなIMAX独自の1.43:1拡張アスペクト比を採用している大作に、大きな期待が寄せられているのはそのためだ。

    シアター後方右奥の天井付近に吊らされたスピーカーシステムシアター後方右奥の天井付近に吊らされたスピーカーシステム座席からかなり高い位置に浮かぶようにセッティングされているので、高さ方向の立体表現が可能だ

    ▼「低音が凄い」では語り尽くせない、音の魅力がある

    しかし、筆者がIMAX GTレーザースクリーンの最大の魅力として挙げたいのは、映像ではない。音である。

    IMAXの音響について語るとき、多くの人は「重低音が凄い」という言葉で済ませてしまう。確かに「低音は凄い」のだが、しかしIMAX GTレーザーの本領は、単に低音が凄いという話では済まない。現在の一般的な映画館で使われている5.1chや7.1chサラウンドシステムでは、低音の大部分を、サブウーファーと呼ばれている低音再生用スピーカーが受け持っている。

    一方、IMAXでは、サブウーファー的に使われる低音用スピーカーに加えて、スクリーン裏に配置されるメインスピーカーやサラウンドスピーカーそのものが極めて強力な低音を発揮できる仕様となっており、低域まで余裕をもって再生する能力を備えている。つまり、スクリーン背後のスピーカー群から、巨大な映像と一体化したような音が押し寄せるのである。

    IMAX GTレーザーおよびIMAXレーザーでは「IMAX 12chサウンド」と呼ばれる音響設備が導入されていることが多い。IMAXの12チャンネルサウンドシステムでは、サイドおよびオーバーヘッド方向にも独立した音声チャンネルを備え、従来以上に精密な音像定位と広いダイナミックレンジを実現している。低音が1方向からではなく、シアターのあらゆる場所から放出され、空間全体で低音を鳴らし観客の身体を震わせているような体感である。

    サラウンドスピーカーのアップサラウンドスピーカーのアップ

    この違いは、実際に体験すると想像以上に大きい。低音の量が多い、という単純な話しではなく、観客の四方八方から低音で包み込むことで「空気を動かし」、非日常の体験を音で演出する。筆者はこれまで数多くの映画館を取材してきたが、何度体験しても、IMAXスクリーン、特にIMAX GTレーザーの低音は、毎回、特別というか、異次元の存在だと感じる。

    結論的にいえば、IMAX GTレーザーは、単なる「巨大スクリーン上映」を行なうシステムの枠を大きく超えた、こだわりに満ちた存在である。ここでは詳細の解説は割愛するが、超巨大画面での映画上映を指向してきた「70mmフィルム上映」や「シネラマ上映」、「ヴィスタビジョン」などのハイグレード映画上映の歴史、文化そのものを未来へ受け継ぐ、現在のフラッグシップフォーマットといえるだろう。

    ▼映画を体験すること自体が目的となる稀有な存在

    2026年6月15日、12時35分の上映回。映画「Michael マイケル」公開4日目に、109シネマズ大阪エキスポシティのシアター11でIMAX GTレーザー上映を鑑賞した。配給会社による試写で2回、公開日から3日目までに4回、合計で6回「Michael マイケル」を既に観ており、7回目の鑑賞である。この日、筆者が選んだ座席はF列20番。

    109シネマズ大阪エキスポシティのIMAX GTシアターは、一般的なシネコンより客席の傾斜がかなり大きい。「スタジアム」スタイルの座席レイアウトで、スクリーンを見下ろすというより、巨大な映像空間と真正面から向き合うためのレイアウトが採用されている。F列20番の席は、中央やや前方位置。着席すると、目の前には巨大なスクリーンが立ちはだかる。

    「ダンケルク」の上映ではじめて、IMAX GTレーザーという上映フォーマットを体験したが、この劇場へ来るたびに感じるのは、「映画を観る」というより、「映像と対峙する」という感覚だ。特にIMAX独自の1.43:1拡張アスペクト比で上映される作品では、その印象がさらに強くなる。上下方向いっぱいに広がる映像は、人間の視野を覆い尽くし、現実世界との境界を曖昧にしてしまう。

    「シネコンとしては日本最大級、ビル6階建てに匹敵する高さ18m超、横幅26m超の巨大スクリーンを採用。経験したことのない圧倒的なスケールで迫力ある映像を体感できます。」(IMAX特設ページより)「シネコンとしては日本最大級、ビル6階建てに匹敵する高さ18m超、横幅26m超の巨大スクリーンを採用。経験したことのない圧倒的なスケールで迫力ある映像を体感できます。」(IMAX特設ページより)

    残念ながら、今回鑑賞した映画「Michael マイケル」はビスタアスペクトの作品であり、IMAX GTレーザー本来の天地方向いっぱいに広がる映像体験とはならない。それでも、IMAX GTレーザーの魅力はまったく損なわれない。4Kレーザーによるクリアーで鮮やかな色彩表現と、緻密な映像が大きな画面に広がり、映画「Michael マイケル」の魅力の源泉である、音がIMAX 12chサウンドの圧倒的なパワーで描かれたからだ。

    具体的に解説しよう。映画「Michael マイケル」は、主にソニーVenice 2という最新の8K解像度対応のデジタルシネマカメラを使い、一部16mmや35mmのフィルム撮影を併用している。本作では、深く沈み込んだ暗部をバックに鮮やかなマイケルら綺羅星たちが輝くコンサートシーンの映像が印象的であるが、日常生活での映像描写も実はきめ細やかな映像でキャラクターたちの心象風景が描かれている。インディアナ州ゲイリーでのジャクソン家の寒色系画調と、ジャクソン5のブレイク後に西海岸へと移住したあとでの暖色系画調の対照的な色設計の妙。DVに喘ぐ天才マイケルの孤独と、天賦の才を解放させんとするマイケルの躍動を映像で描き出す構造を、109シネマズ大阪エキスポシティの4Kツインレーザープロジェクターによる上映システムがシャープに描き出す。

    そして音。

    冒頭、シンセサイザーの響きと、マイケルを呼ぶ観客の歓声が劇場全体を満たし、その上にマイケル・ジャクソン独特の甲高いシャウトが重なる。次の瞬間、「スタート・サムシング」の強烈なリズムが鳴り響くと、シアター内の空気そのものが変わり、雷鳴に打たれたような感覚にとらわれた。

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    前述のように筆者は、この作品を配給会社による試写を含め、既に6回鑑賞していた。作品の構成も、展開も、音楽も熟知している、と思っていた。それにもかかわらず、IMAX GTレーザーでそれまで一度も味わったことのない感覚となった。映画に「引き込まれた」という表現はよく使われる。しかし、このときは、自分から映画へ近づいたのではなく、映画のほうが観客席に座る自分の意識へと押し寄せてきた。そんな感覚を抱いたのである。

    シンセベースの分厚い低音。タイトに刻まれるドラム。鋭く切り裂くギターカッティング。そして何万人もの歓声。

    それらが個別の音として存在するのではなく、一つの巨大なエネルギーとなって身体へ飛び込んでくる。優れた音響設備のある映画館であれば、クリアーかつ充実した低音をベースに強烈な感覚を抱く立体音響の実現は可能だろうし、映画「Michael マイケル」を観た別の映画館(具体的にいえばドルビーシネマでの上映)では、それは体験済だった。しかし、この巨大空間全体を振動させる強烈なエネルギーははじめての経験だった。映画館という空間そのものが楽器というか音楽になったというイメージといえばうまく伝わるだろうか。

    「Michael! Michael!」という大歓声がシアター内を包み込む。ローファーとホワイトソックスがスクリーンいっぱいに映し出され、ゆっくりとジャファー・ジャクソン演じるマイケルが、ステージへ一歩一歩力強く向かう姿が画面いっぱいに広がる。観客の期待が頂点へ達する緊張感までを見事に描き出す。

    IMAX GTレーザーで観る音楽映画は、「コンサート体験そのもの」へと変貌するかもしれないかと思った。それほど巨大スクリーンが描く映像の吸引力と確かな音の説得力が備わっている。

    画像7Ⓡ, TM & ⓒ 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

    そして終盤。冒頭シーンと呼応した、1988年ロンドン・ウェンブリー・スタジアムでの「BAD」の再現シーン。再び、言葉を失った。このシーンでの低音は、本作の中でもとりわけ強烈な印象だが、並の映画館での再生では、量だけが多く、シアター内を飽和するように埋め尽くし、低音楽器以外の細かい音がマスキングされてしまう。109シネマズ大阪エキスポシティの「BAD」の低音は、文字通り地鳴りのように猛烈に押し寄せるがしかし、決して重苦しくはない。量感がありながら輪郭を失わず、一音一音が極めて明瞭なのである。

    キックドラムの立ち上がり。ベースラインのうねり。観客の歓声。バンド演奏の一体感。そしてマイケルの歌声。

    スタジアムを揺るがす、巨大な音圧でありながら、それぞれの音像は崩れない。これは単なる「大音量」とは別世界の表現力だ。少し強調した表現をすれば、1988年のウェンブリー・スタジアムにワープさせる原動力となるパワーを秘めているとすら思った。映像と音の記録(実際は再現映像であるが)が時空を超え、1988年のコンサート空間そのものを、2026年の大阪の映画館に再現しようとしていたのだ。

    今回、改めて実感したことがある。映画館は、作品を上映するためだけの単なる器ではない。優れた映画館は、作品の価値そのものを高めるパワーを秘めている。いや、それ以上に、作品の新しい魅力を発見させる存在だ。6回観た作品であっても、上映環境が変わると、まったく別の映画に出会ったような感動を生み出す。これこそが「上質映画館」の存在意義ではないだろうか。

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    ▼109シネマズ大阪エキスポシティを訪れる理由

    109シネマズ大阪エキスポシティは、大阪中心部からアクセスしやすく、大阪モノレール「万博記念公園駅」から徒歩数分という立地にある。ショッピングや食事、美術館、公園散策と組み合わせれば、一日はあっという間に過ぎていく。

    しかし、シネフィルであるわれわれにとっては、この場所を訪れる最大の理由は、やはりIMAX GTレーザーに尽きる。日本に2館しか存在しないこの上映環境は、単に「大きなスクリーン」で映画を楽しむ施設ではない。映像と音響によって作品世界を極限まで拡張し、観客をその内部へ招き入れるための装置である。だからこそ、映画を愛するわれわれにとっては、遠方からでも足を運ぶ価値があると断言したい。映画を観るためではない。映画を「体験」するために。109シネマズ大阪エキスポシティのIMAX GTレーザーこそ、映画を体験すること自体が目的となる稀有な存在なのである。

    スクリーン側からシアター後方を撮影スクリーン側からシアター後方を撮影座席配置はかなり傾斜をつけており、どの席からも前席の人でスクリーンが観にくくならない工夫が施されている

    ■採点
    映像8.9/音声9.1/座席8.5/総合9.1
    非日常を味わう特別な映画館。西日本でIMAX独自の1.43:1拡張アスペクト比の映画を楽しむのなら、ココで決まり

    今回の鑑賞料金
    2,600円(大人会員料金1,800円+IMAXレーザーGT追加料金800円)

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