書店の棚には「残酷な社会を勝ち抜け」と説く本と、「成功なんて虚像だ、自分らしく生きろ」と説く本が並んでいます。「私は、選択肢がこの2つしかないという状況にどうにも違和感が拭えない」――そう語るのは、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さん。経営コンサルタントとして20年、企業の戦略策定を支援してきた山口さんは、世にあふれる人生論・キャリア論の「二極化」にこそ、現代人の混乱の一因があると指摘します。では、第三の道はあるのか。話を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)


    「考えの浅い人」が陥りがちな人生のとらえ方・ワースト2Photo: Adobe Stock



    「マキャベリ的人生論」と「ルソー的人生論」

    ――世の中の人生論には「二大潮流」があるそうですね。


    山口周氏(以下、山口):一方は「残酷な社会ゲームを冷徹に戦って生き残り、経済的・社会的成功を手に入れろ」という考え方です。


    ドライかつ現実主義的な主張ですね。この考え方を、「目的達成のためには全ての手段は合理化される」と言った中世の政治学者にならって「マキャベリ的人生論」と呼んでいます。


    もう一方は「経済的・社会的成功の虚像に囚われず、自分らしく生きて本当の豊かさを手に入れろ」という考え方。こちらはナイーブで理想主義的な主張です。「人間は本来善良なもの」と言った思想家にならって「ルソー的人生論」と呼んでいます。両者は互いを非難し合っているわけですが、私はどちらの立場にも与しません。どっちもダメでしょ、と思うんです。



    一方は「的外れ」、もう一方は「甘い」

    ――それぞれ、何が問題なのでしょうか。


    山口:マキャベリ的人生論の問題点は「ゴールの設定」にあります。


    キャリア研究の多くは、経済的・社会的成功が実現できたとしても、それが必ずしも幸福な人生に直結しないことを明らかにしています。ゴール設定に失敗すればプロジェクトは必ず破綻します。そういう意味で、マキャベリ的人生論はそもそも「的外れ」なんです。


    一方、ルソー的人生論の問題点は「プロセスの設計」にあります。「自分らしさ」は確かに重要な指標ですが、それは一定の経済的・社会的基盤があってこそ獲得できるものです。戦略的実現性を欠いた目標は単なる夢想にすぎません。そういう意味で、ルソー的人生論は「甘い」のです。



    「二律背反」を壊すのがイノベーション

    ――なるほど。どちらもダメなら、どうすればいいのでしょう。


    山口:ここで経営戦略論の出番です。イノベーション理論では、一見トレードオフに見える「どちらか(OR)の選択肢」を安易に受け入れることを否定し、それを超克する「どちらも(AND)の選択肢」を目指します。


    つまり「自分らしいと思える人生を歩み、経済的・社会的にも安定した人生を送る」という第三の道です。私はこれを、人生の目的を「善き生」に置き、その実現のために、極端を避けて「中庸」を重視せよと説いたアリストテレスにならって「アリストテレス的人生論」と呼んでいます。



    イエスがアドバイスした「第三の道」

    山口:実は、同様のアドバイスは聖書にもあるんです。


    イエスは宣教の旅に出る使徒たちに「蛇のように賢く、そして鳩のように素直になりなさい」と語りました。一見、矛盾しているように感じますよね? でも、これが「第三の道」なのです。


    「蛇のように賢く」とは、世の甘言に騙されず自分の頭で考える知恵を持ちなさいということ。「鳩のように素直に」とは、地位やお金といった虚しいものに惑わされず、自分の美意識や倫理観に素直に従うということです。これほど全体的・包括的な人生戦略のアドバイスはないと思います。


    経営は「短期と長期」「コストと品質」など二律背反と矛盾の塊です。経営戦略論はそれを高次元で調停するために練り上げられてきました。だからこそ、人生に活用する価値があるのです。

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