合同会社さくらポリス 榿澤美智子代表(右)と榿澤涼太氏(左) 提供:さくらポリス
お金の相談に乗る会社が、子どもたちの服のことを考えている。一見遠い二つが、さくらポリスの中では地続きになっている。同社の本業は、保険や資産運用という形の見えない領域で、「よく分からないまま向き合っている」と不安を抱える人の隣に立ち、その暮らしと将来に長く付き合うこと。すべての資本は「人」、という一点に立つ会社だ。
そんな会社が2026年、市場で余った衣類を生活に困難を抱える子どもたちへ届ける一般社団法人FASHION BANKを、応援する側に回った。動き出しは、驚くほど軽かった。運命的な出会いを感じたのなら、まずやってみればいい。何ができるかを考えたのは、引き受けると決めた後のことだった。
お金の「守り」と「増やす」に、長く付き合う会社
さくらポリスの本業は、金融だ。とはいえ、お金そのものを動かして稼ぐ商売ではない。中心にあるのはライフコンサルと呼ばれる相談を中心とした業務で、扱うのは主に保険と資産運用である。保険で暮らしの「守り」を固め、資産運用では「増やす」方を一緒に考える。形の見えない商品にどう向き合い、どう増やしていくか。その問いに寄り添い、伴走するのが、この会社の仕事だ。
相手は限られない。個人もいれば、法人の経営者もいる。お金は、生きていく上で誰にとっても避けて通れないものであり、間口はおのずと広くなる。
出発点にあるのは、榿澤美智子代表自身の実感だった。形が見えないものにお金を払うとき、人は「分からない」「知らない」と身構える。そんなとき、そばで分かるように伝えてくれる人、将来の不安に耳を傾けて一緒に考えてくれる人がいたら。知っているか、知らないか。その差は、思うよりずっと大きい。そこに立ちたいというのが、榿澤代表が事業に込めてきた思いである。
個人事業として始めたのが2000年。2009年に法人化し、以来、同じ姿勢で続けてきた。規模を大きくすることは追わず、自分の手の届く範囲で一人ひとりと向き合う。そのため、始めた当初から付き合いの続く顧客も少なくない。
さくらポリスには、もう一つの顔がある。榿澤涼太氏が担う、芸能分野の領域だ。畑は違って見えても、榿澤代表にとって両者の根は一つでつながっている。「人」が資本。自分たちも、顧客も、関わる全員がこの仕事を成り立たせる元手なのだと言う。
日々の仕事は、もうすでに「伝える」仕事になっている。この感覚が、のちにファッションバンクとの関わり方を静かに決めていくことになる。
一つの出会いが、「ご縁」に変わるまで
ファッションバンクとの縁は、同社の役員である榿澤涼太氏と一人の人物との出会いから始まる。一般社団法人FASHION BANKで代表理事を務める、菅野充氏である。
数年前、菅野氏は「THAT’S FASHION WEEKEND」というチャリティマーケットを手がけていた。著名人が使わなくなった衣類を、ブランドの品とともに販売する催しである。二人を引き合わせたのは、共通の友人だった。私的な付き合いから関係は始まり、榿澤涼太氏がこの催しに自身の衣類を出品したのは、それからしばらく後のことだった。
転機は2025年の秋に訪れる。菅野氏からファッションバンクの概要を聞いた榿澤涼太氏は、北海道支部を任せられないかと打診を受けた。
同氏には、芸能の仕事とは別に、長く胸に置いてきたものがあった。
教員免許を持ち、かつては学校の先生を志していた時期がある。その道には進まなかったものの、子どもと関わりたいという思いはその後も消えずに残っていた。
打診を受けたときの心の動きを、同氏はこう振り返る。
合同会社さくらポリス 榿澤涼太氏
榿澤 涼太氏
「子どもと何か関わることがしたいという気持ちは大学を卒業してからずっと持っていました。しかし、きっかけをなかなか見つけられずにいたんです。そこにファッションバンクのお話をいただきました。大好きなファッションが、環境をどのくらい汚してしまっているかという現状を知り、何か自分にできることはないかと考えた。
一番は、「子ども」がこのプロジェクトの一つのテーマになっていることです。しかも故郷である大好きな北海道に恩返しができる。「子ども」、「ファッションの環境問題」、「相対的貧困」、「北海道」などいろいろな点が、全部つながったんです」
理屈で選んだというより、心が先に動いていた。榿澤涼太氏は、その感覚を「ご縁」と呼ぶ。そうして、自分にできる範囲であればと、北海道支部長の役を引き受けることになる。一つの催しで顔を合わせた縁が、故郷での活動へと形を変えた瞬間だった。
札幌市で行われた連結協定の締結式
一着の服が、環境と子どもをつなぐ
榿澤涼太氏が支部長を引き受けたファッションバンクは、2023年7月に設立された一般社団法人である。市場で余った衣類を回収し、生活に困難を抱える人々へ届ける。アパレル業界からは、売れ残りや廃棄という形で大量の衣料が生まれ続けている。その一方で、服を買うことにまで手が回らない人がいる。この需要と供給のすきまを埋めるのが、ファッションバンクの取り組みだ。届け先は、子どもを中心に、ひとり親家庭や障害のある人々にまで及ぶ。
この活動には、二つのテーマが重なっている。一つは、環境の問題である。ファッションは、榿澤涼太氏自身が「大好きなもの」と語るほど身近でありながら、その裏で大きな環境負荷を生んでいる。本来なら捨てられるはずだった衣類を、必要とする人の手に渡す。廃棄を減らしながら支援にもつなげるその循環に、さくらポリスの二人は価値を見いだしている。
もう一つのテーマが、生活に困難を抱える子どもたちへの支援だ。榿澤美智子代表は、この活動に関わる中で、児童相談所から子どもたちの置かれた現状を聞いた。虐待などによって、想像以上に厳しい環境で暮らす子どもが数多くいる。その事実は、榿澤代表にとって最も大きな衝撃だった。服を手渡すという行為に、もう一つの意味を見ている。
合同会社さくらポリス 榿澤美智子代表
榿澤 美智子代表
「衣類を届けることは、単に生活を支えるだけではないと考えています。自分で服を選び、自分で決めるという経験を通して、自分らしさや自己肯定感を育むきっかけにもなる。一人ひとりが『自分で選び、自分で決める』という自由の価値を実感し、自信を持って未来へ歩んでいける。そんな社会を目指しています」
こうした理念に共感し、さくらポリスは応援する側として関わっていく。金融と芸能を担う一社が、なぜ子どもたちのための活動に、これほど心を寄せるのか。
引き受けてから、何ができるかを考えた
ファッションバンクのスポンサーになる。その判断に、さくらポリスは時間をかけていない。同社の役員である榿澤涼太氏が運命的な出会いを感じているのなら、やる。
榿澤美智子代表にとって、引き受けるかどうかは、深く検討するようなことではなかった。
順番は、むしろ逆だった。引き受けると決めてから、自分に何ができるのか、この活動をどう広めていくのかを考え始めた。2026年2月、ファッションバンクの北海道支部は小樽市と連携協定を結ぶ。さくらポリスがスポンサーとして加わったのは、その後の春のことである。動き出しが先にあり、役割はあとから形になっていった。
では、自分に何ができるのか。その答えは、長く続けてきた本業の延長線上にあった。日々、多くの人と向き合い、伝える。その仕事の手ごたえを、榿澤代表はこう語る。
榿澤 美智子代表
「20年以上、本当にたくさんの方にお会いしてきて、人は一人ひとり考え方も見方も違うのだと、ずっと感じてきました。その中で、いろいろな考えの方に共感してもらえる伝え方を、経験として積み重ねてきたつもりです。私はちょうど、人生でいえば定年を迎えるような年になりました。この終盤で何を伝えていくのか。その役割を担うには大きすぎるテーマですが、たった一人にでも伝われば、喜ぶ子どもがいるのだと思うのです」
特別なことをするわけではない。日々の仕事と同じように、出会う人へ、この活動のことを伝えていく。さくらポリスにとってのスポンサーとは、資金の面だけで関わることではなく、伝える役を引き受けることでもあった。
背伸びをしない、寄付のかたち

榿澤涼太氏がこの活動を通して最も伝えたいのは、ファッションバンクそのもの以上に、「寄付」という行為との距離感なのかもしれない。海外で暮らし、一人で各地を旅する中で、同氏はある実感を深めてきた。
国によっては、人々がずっと気負わずに寄付をする。しない側が、かえって気恥ずかしく思えるような空気さえあるという。
翻って、日本ではどうなのだろうか。同氏が感じてきたのは、寄付や募金をどこか難しく捉えてしまう空気だ。お金の行き先を確かめることは、もちろん大切である。ただ、その関心が「活動する人のありよう」にまで及び、一歩を踏み出す前のためらいに変わってしまうこともある。もっとも、同氏は誰かを責めているわけではない。何に寄付をするかは人それぞれで、子どもでも、保護された動物でも、被災地でも構わない。
人のために何かを差し出すことへの抵抗感が、もう少し軽くなればいい。願いは、そこにある。
その願いは、決して声高ではない。自分の考えを、誰かに押しつけることもしない。むしろ、驚くほど等身大の言葉で、同氏はこう語る。
榿澤 涼太氏
「寄付というと、テーマが大きく聞こえるかもしれませんが、もっとシンプルでいいと思っています。金額も小さなところからできる範囲で良いんです。僕自身も寄付やこの活動を、できるお金の中で、24時間という決められた時間の中で、やっているだけです。
これを生涯かけてやり抜くような、高尚な覚悟があるわけではありません。
まずは自分にできることをやる。ただそれだけです。
小さな一歩を一人ひとりが踏み出せたら、世の中は大きく変わるんじゃないかと思うんです」
榿澤涼太氏は、自分を特別な存在だとは思っていない。持てるすべてを誰かのために使える人を、心から尊敬する。ただ、自分はそこまでできない。背伸びをせず、日々の中でできることを続けていく。人のありようを推し量るより先に、まず自分が動いてみる。その静かな構えが、同氏の伝えたいことの核にある。

まずは、知ることから
金融と芸能、そしてファッションバンクへの関わり。一見ばらばらに見えるさくらポリスの営みは、「人がすべての資本」という一点でつながっている。その根には、榿澤美智子代表が大切にしてきた、時間についての考え方がある。
榿澤代表にとって、時間とは命そのものだ。誰かが自分のために時間を割いてくれること。その一つひとつに、相手の思いの強さが表れている。だからこそ、話を聞くために時間を作ってくれた人すべてに、感謝を伝えたい。その思いは、こんな言葉になる。
感謝を伝えたいステークホルダーへのメッセージ

一方の榿澤涼太氏が、まっさきに顔を思い浮かべるのは両親である。できた息子ではなかったかもしれない。それでも、たくさん助けられてきた。優しくしてくれた人たちへ、少しずつでも恩を返していきたい。同氏の感謝は、その原点へと向かう。

二人が伝えたいことは、遠い理想ではない。まずは、知ること。そして、聞いてみること。世の中には、自分がまだ知らない現実がたくさんある。その一つに目を向けるところから、小さな一歩は始まる。さくらポリスがファッションバンクと歩み出した道も、その最初の一歩から続いている。