8月になり、若いファミリーが多く暮らすわが家の周りでは、子どもたちの遊ぶ声が響いている。そんなときに、「遊んでばかりいないで宿題を⋯⋯」とつい口にしたくなる大人は、デイヴィッド・トゥーミーの『生きものは遊んで進化する』を読めば、その言葉を飲み込むかもしれない。著者によれば、「遊び」は進化を引き起こす自然選択と驚くほど多くの共通点をもつ。どちらも目的をもたず、終わりがなく、どの時点を切り取っても暫定的なプロセスだ。こうした近似性を手がかりに、本書は動物たちの遊びに関する数々の研究をひもときながら、「遊び」が進化を後押ししてきた可能性を探っていく。

    本書を読んで思い出したのは、ブライアン・イーノが共著『What Art Does』で語った「遊び=芸術」の重要性だ。子どもが遊びを通して世界の仕組みを学ぶように、大人はアートを通して心を解放し、未来に向けた思考の実験をする。実験音楽や現代アートが、遊び心に満ちた試行錯誤によってジャンルや文化そのものを更新してきたことも、「遊び」と「進化」の密接な関係性を物語っているだろう。

    遊びには無駄が多い。しかし、それは生産性の対極にあるものではなく、未知の可能性を試す創造的な営みでもある。本書は動物たちのそんな営みを通じて、「遊び」の価値をあらためて見つめ直させてくれる。そして何より、各章に登場する動物行動学者たち自身が、まるで遊ぶように研究を楽しんでいる姿がなんとも愛おしい。(佐藤慎一郎)

    #6 『クララとお日さま』

    『クララとお日さま』 カズオ・イシグロ/訳:土屋政雄/早川書房

    人工親友(AF)と呼ばれるロボットのクララが、病弱な少女ジョジーに献身するこの物語は、刊行された2021年当時は「近未来」を想像した寓話だった。それから5年が経ったいま、わたしたちは加速度的に進歩する人工知能(AI)を活用するようになり、さらに賢くなるであろうAIは高度なロボットと融合していく。米国では10代の72%がAIコンパニオンを使ったことがあり、その利用者の33%が重要な話や深刻な話を人間ではなくAIに打ち明けた経験をもつという調査結果もある。いまや、クララが生きる世界を現実に近いものとして想像できる時代になってきたのだ。だからこそ、イシグロが本書で何を問うたのかを、改めて感じてほしい。お日さまに祈るロボットの姿に、静かに、しかし深く心を動かされる一冊だ。10月にはタイカ・ワイティティ監督による映画版が米国で公開されるので、映像に上書きされる前にぜひ手に取ってもらいたい。(瀧本大輔)

    #7 『海の水位の科学史:基準点0をめぐる不安定な歴史』

    『海の水位の科学史:基準点0をめぐる不安定な歴史』 ウィルコ・グラフ・フォン・ハルデンベルク/訳:濱浦奈緒子/青土社

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