※本稿は『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』および原作漫画のネタバレを含みます。
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』を観て、とにかくモモンガのことが嫌いになった──。
映画の公開後、SNSではそんな感想が少なからず見られます。
その気持ち、わかります。
自分勝手で、空気を読まない。ちいかわたちが命がけで行動している最中にも、食べ物や自分の欲望を優先する。セイレーンとの戦いでは、役に立たないどころか、事態を悪化させているように見えます。
原作を知らず、映画ではじめて『ちいかわ』に触れた観客が「なんでこいつは邪魔ばかりするんだ!?」と苛立つのも、無理はありません。実際、映画公開後には「自分勝手すぎる」「性格の悪さに驚いた」といった初見層の反応が複数投稿されています。
でも、モモンガは『ちいかわ』という作品においてとても重要なキャラクターなんです!
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』を3回観て、原作も追っている筆者が、なんとかこの記事で、モモンガの名誉回復を試みてみたいと思います。
【大前提】モモンガは、ちいかわの仲間や友だちではない
まず、ここで一つ前提として確認しておきたいことがあります。
モモンガは、ちいかわたちの仲間ではありません。
『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』第5巻/画像はAmazonより
少なくとも、ちいかわ、ハチワレ、うさぎの3人が築いているような、友情や相互扶助を前提とした関係に属していません。
同じ場所にいることはあります。会話もします。(あまりないのですが)利害が一致すれば、行動を共にすることもあります。
原作でも、ちいかわやハチワレ、うさぎと共に討伐に挑んだりするシーンは、実は今回映画となった「セイレーン編」を除いてありません。
モモンガは、ちいかわたちと同じ倫理や価値観で動く“パーティーの一員”ではない──この前提に立つと、映画でのモモンガの行動は、単なるトラブルメーカーとは違って見えてきます。
そもそも『ちいかわ』主要キャラクター8人の結びつきは強固ではない
改めて、『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』で描かれるのは、原作でも屈指の長編として知られる通称「セイレーン編」です。
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』キービジュアル © ナガノ / 2026 「映画ちいかわ」製作委員会
ちいかわ、ハチワレ、うさぎたちは、「カンタンな討伐で100倍の報酬」「限定島ラーメン」「甘いものも辛いものも実質無料」といった言葉に惹かれ、バカンスを兼ねた島合宿へ向かいます。
重要なのは島へ渡った面々は、もともと一つの冒険者集団ではない、ということです。
・ちいかわ、ハチワレ、うさぎの仲良し3人組
・↑を気にかけてる先生的なポジションのラッコ
・ちいかわ族の中でもキャリア形成に熱心なシーサーと、ほぼFIRE状態のくりまんじゅう
・モモンガと古本屋(カニちゃん)
それぞれの組ごとの結びつきは強いですが、実は全員が友情や使命感を共有しているわけではありません。島合宿の参加者として、たまたま同じ危機へ巻き込まれただけです。
ところが映画では、主要キャラクターたちが同じ画面に並び、一緒に島へ上陸し、同じ敵に立ち向かいます。そのため、原作の人物関係を知らない観客には、全員が「ちいかわの仲間」に見えやすくなります。
ただし、モモンガはちいかわ族の価値観やマジョリティな感性とは完全に異なる存在なのです(後述します)。
「セイレーン編」で、モモンガは何をしたのか
モモンガの行動は、たしかに異様に映ります。
島民から討伐用の武器(通称:びんよよ)を渡されても「こんなもんより……うんまいものが食べたいんだよォー」と絶叫して、思いっきりびんよよを放り投げます。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) July 5, 2023
しかし、攻撃(?)は敵であるセイレーンではなく、味方であるはずのラッコに命中! ラッコの足に絡みついてしまう。これによって、ちいかわ族最強戦力・ラッコが身動きできなくなり、セイレーンに捕まってしまうというデカすぎる危機を招いてしまいます。
さらにその後、残された仲間たちでラッコの救出へ向かう局面でも、モモンガの関心は別のところにあります。
「欲しいだろ……永遠ッ」
「人魚を食べると永遠の命が手に入る」という噂を知ったモモンガは、(自分のせいで)捕まったラッコや島民を心配するよりも先に、人魚を食べて“永遠”を得ようとします。
実際に本物の人魚と対峙すると、いきなり噛みつき攻撃を繰り出し、「よこせっ 永遠」と要求。ラッコが捕まり、島民が誘拐されている状況下でも、常に自分の欲望を優先します。ここでドン引きした人は多いと思います。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) July 28, 2023
ちいかわやハチワレが共有している「仲間を助ける」「島を守る」という目的よりも、自分の食欲や不老不死への欲望を優先し、事態をさらにややこしくしているのです。
これでは、映画を観た人がモモンガに腹を立てるのも当然でしょう(ちょっとここまで書いてて、モモンガの名誉回復が難しい気がしてきました)。
モモンガの正体──別の論理と価値観で駆動する理由
モモンガの特殊すぎる価値観を理解するためには、その出自について知る必要があります。
実は現在のモモンガというキャラクターは、生まれたときから「なんか小さくてかわいいやつ」だったわけではありません(少なくとも、その可能性が高いです)。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) August 12, 2020
原作では、モモンガと「なんかでかくて強いやつ(通称・でかつよ)」の身体と人格が入れ替わっていることが強く示唆されています。
モモンガの初登場時には、何かを成し遂げたように「ついにやったゾ」と喜ぶ姿が描かれました。一方のでかつよは、モモンガを追いかけながら「返せ」と訴えています。
これらのシーンから、現在のモモンガは、ちいかわ族の身体を何かしらの方法で奪った/交換した存在である、と読者の間で有力視されています(このシーンだけでなく、ナガノ先生は度々それを示唆させるような描写を残しています)。
🏃♂️ pic.twitter.com/L0RcpYXLdc
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) July 1, 2024
両者の入れ替わりは、作中で体系的に証明された確定事項ではありません。しかし、モモンガとでかつよの過去に深い因縁があり、現在のモモンガが本来の身体の持ち主ではない可能性は、極めて高いと考えられています。少なくとも、めちゃくちゃそう“考察”されています。
結論、モモンガは“元・怪異”なのです(断定口調)。
そう考えると映画における行動にもある種、別の一貫性が見えてきます。
隣人を助けたいのではなく、「うんまいもの」を欲しがる。人魚を食べることの倫理よりも、得られる「永遠の命」に目を向ける。
モモンガが元・怪異であるなら、ちいかわたちと同じ社会性や倫理観を最初から持っていなくても不思議ではありません。小さくかわいい身体を手に入れたからといって、中身までちいかわたちと同じ存在になったわけではないのです。
モモンガにとって「かわいい」は“目的”である
ちいかわやハチワレは、一生懸命に働き、怖ければ泣き、友だちを心配する──そうした行動の結果として、視聴者/読者の我々から「かわいい」と認識されます(作中でちいかわたちを「かわいい」と評するのは、謎に包まれた存在である鎧さんとモモンガしかいません)。
一方のモモンガは「かわいい」を意識的に演じます。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) August 4, 2026
頬を膨らませたり、甘えた仕草を見せ、相手に評価を要求します。そのため、ちいかわたちがどのように泣き、どのような行動や生活をすることが「かわいい」のかを観察しています。
モモンガにとって「かわいい」及び「かわいくなる」は、目的なのです。元は大型の怪異だった存在が、小さくかわいい身体を手に入れて成し遂げたかったこと、その執着。
モモンガは、かわいい身体を所有するだけでは満足しません。他者からも「かわいい」と認められ、褒められることで、自分の身体が持つ価値を確認しようとしています。
モモンガの魅力は、善良さではなく“一貫性”と“異質さ”にある
モモンガの魅力を説明する際、「本当は良いやつ」「実は仲間思い」というロジックで擁護するのは適切ではありません。かなり難しいです。
モモンガは、ちいかわたちのように善良ではない。映画を通じて反省し、協調性を身につけることもありません。周囲を振り回す性格は、(残念かもですが)「セイレーン」編の後も変わりません。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) November 25, 2023
それでもモモンガが人気を集める理由は、キャラクターとしての行動原理が『ちいかわ』の中で最も明確かつ異色だからでしょう。
モモンガは、食べたい、褒められたい、楽をしたい、かわいいと言われたいという欲望を隠しません。一般的なキャラクターであれば、周囲への配慮や物語上の教訓によって抑制されるはずの欲望を、モモンガはそのまま行動に移します。
そういう風になって生きてみたい──我々の中にも、そういった欲望はあるはずです。
そのため、登場するだけで物語に摩擦が生じます。周囲が同じ目的に向かって団結しているとき、別の価値観を持つモモンガが加わることで、予定調和が崩れます。
モモンガは決して好感度の高いキャラクターではありませんが、物語を動かす機能と、他のキャラクターにはない欲望の明確さがある。それがモモンガが「かわいい」理由になっているとも言えるでしょう(多分!)。
