万極(山田裕貴)

     かつて秦の六大将軍・白起が、降伏した趙兵を生き埋めにした「長平の大虐殺」の生存者であり、秦国そのものを憎悪している。

     原作でも万極軍は、長平で肉親や仲間を失った者たちを中心とする怨念の軍として描かれ、慶舎の策によって後方へ回った麃公軍の疲弊した兵へ襲いかかる。

     映画版では、この設定を踏襲しつつ、主人公・信(山﨑賢人)との対決へ物語を集中させた。原作通り信は、万極が背負う長平の怨念と向き合ったうえで、白起が行ったような虐殺を自分たちは絶対に繰り返さないと宣言し、万極を討つ。

     映画でも両者の戦いは単なる武力比べではなく、過去の犠牲者の恨みを次代へ連鎖させるのか、それとも断ち切るのかという思想の衝突として成立している。 

     合戦全体の一局面だった原作に対し、映画では万極の記憶と苦痛を視覚的に掘り下げ、信がその思いを受け止めて先へ進む姿を描くことで、クライマックスとして再構成した点が大きな違いだ。

     また、深手を負っても執念で戦い続ける万極兵の性質を、映画版では何度倒しても起き上がってくるゾンビのような映像表現として、より強烈に見せているところも、漫画より漫画っぽい描写として興味深い。

     山田は、落ちくぼんだ眼差し、痩せた輪郭、不規則な身体の動きによって、原作の不気味な外見を再現するだけでなく、「こんな声も出せるの?」と思わず驚愕する、一聴しただけでは山田とは思えない、掠れつつも野太い声色で演じた。劇場の大音量で聞くと、ことさら胸が締め付けられる。心を壊された男の悲哀を、実写版ならではの“声”で熱演した、その表現力の高さには、感服の一言。

     かつて映画『東京リベンジャーズ』シリーズでドラケンを演じた山田は、見事に“原作超え”を果たした。そして本作では、“原作超え”と言うより、“山田裕貴版・万極”を見事に完成させたと言っても過言ではない。

     この一作で儚くも散る、稀有な強敵として、これからも語り継がれていくことであろう。

    ZAKKY

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