LVMHプライズでの実績や、ピッティ・ウオモでのゲストデザイナー選出を経て、その独創的なクリエイションは今や世界的な注目を集めている。今シーズン発表された2027年春夏コレクションのタイトルは、「The Persistence of Memory(記憶の固執)」。大月氏がブランドの核として据え続ける「記憶」という概念を、画家サルバドール・ダリのシュルレアリスム的なアプローチと、誰もがどこかに抱くノスタルジーを通じて衣服へと昇華させた、極めて論理的かつエモーショナルなコレクションに仕上がっている。<SOSHIOTSUKI>のクリエイションにおいて、記憶とは単なる過去の振り返りや懐古ではない。それはデザイナー自身の個人的な思い出にとどまらず、古い写真や映画、あるいは誰かの話を通じて間接的に受け継いだ、自分自身では経験したことのない見知らぬ記憶をも含んでいる。今シーズンの出発点となったのは、まさにその経験したことのないリゾートへの郷愁であった。

大月氏が脳裏に浮かべたのは、ひとつの具体的な男の情景だった。それは、普段は極めて厳格で規律正しい父親が、非日常であるリゾート地を訪れた際に、少しだけ羽目を外してしまった姿である。旅先がもたらす特有の開放感と気分の高揚によって、普段の彼なら決して選ばないような、どこか無防備で不完全な衣服の着方をしてしまう。片方だけ襟がはみ出して飛び出してしまったシャツ、フロントが完全に閉じきっていないショーツ、その不自然な隙間からはみ出して覗いているトランクス、そしてアルファベットの「S」を描くように不自然に湾曲したジャケットのラペルやベルトといった要素が、その情景を具現化していく。これらは客観的に見れば、決して完璧に整ったドレススタイルとは言えない。どこか格好つけきれておらず、少しばかり滑稽な印象すら与えるものである。
しかし、<SOSHIOTSUKI>はそのわずかな崩れの中にこそ、人間らしい血の通った愛嬌や、他者を惹きつける強力な人間味が宿ると定義した。重要なのは、その人物が普段は完璧であろうとする厳格な男であるという点だ。ベースにある確固たる品位が担保されているからこそ、非日常の空間で見せる一瞬の無防備さは、下品に墜ちることなく、むしろ圧倒的な魅力として機能する。今季のコレクションは、この厳格さと崩しの見事な調和を衣服によって表現しようとする試みから始まっている。

本来、シャツの襟が跳ねたり、ショーツからインナーが覗いたり、ベルトが歪んだりする現象は、着用者の長時間の振る舞いや癖、あるいは偶然の身体の動きによって後発的に生まれる結果である。しかし大月氏は、その偶然性に頼ることを良しとせず、あらかじめ服が完成した段階でその状態になっている「アンダン(undone)」な仕掛けを、プロダクトの構造そのものに組み込んだ。着る人が意図して着崩すのではなく、あるいは着る人の個性に依存するのでもなく、服そのものが設計上の必然としてそうなってしまうというアプローチである。ここには、衣服を着用する側の、お洒落に見せようとする下心や着崩すという意思は一切介在しない。この設計思想の背景にあるのが、テーマにも通じる画家サルバドール・ダリの作品である。ダリの代表作に見られる、本来は硬質であるはずの時計が、重力に従ってドロリと溶けるように柔らかく変形している視覚的逆説。

<SOSHIOTSUKI>は、この逆説を現代のメンズウェア、それも本来は最も規律正しい構造を持つテーラードの領域で再現しようとした。実際には、視覚的に柔らかく見せるために、高度なパターンや強固な内部構造、そして部分的に仕込まれた金属によって形状が固定されている。それにもかかわらず、観る者にはあたかも重力や時間の経過によって自然に崩れ落ちたようなフォルムとして映る。柔らかい生地を使って仕立てをルーズにするという安易な方法ではなく、硬い構造を維持しながら柔らかく崩れているように見せる。この高度な視覚的錯視を意図的にコントロールすることこそが、今季の核を成す技法である。このアンダンなアプローチは、今シーズンの主力であるソフトテーラーのラインに明確に現れている。




さらに大月氏は、人が服を着るという行為には、常に何らかの理由や小さな「言い訳」が必要だと考えた。機能的だから着る、旅先だからこの装いを選ぶ、人から譲り受けたものだから身につける、あるいは服そのものがそういう仕様だから。そうした男性たちの無意識の大義名分があることで、服は初めて自然に身体へ馴染んでいくという。今季は、その「言い訳」までもデザインの一部として服の中に組み込み、ヴィンテージのリプロダクション生地や、あらかじめ着古したような表情を与えた仕様によって、着用する理由そのものをプロダクトとして設計している。デザイナーが目指すのは、人間が経験したことのないはずの抽象的な記憶に、衣服という強固なプロダクトを通して輪郭を与えることだ。そして、その服を実際に身に纏うことで、着る人自身の身体や経験の中に新たな記憶として刻み込まれていくことを目指している。
完璧に仕立てられたドレスウェアの内部に、サルバドール・ダリを想起させるシュルレアリスムの歪みを潜ませ、厳格な男が旅先でふと見せる無防備な瞬間を衣服によって表現する。2027年春夏コレクションは、一見するとリラックスしたリゾートウェアのような軽やかさを備えながら、その裏側にはテーラーとしての執念ともいえる緻密な構造設計が息づいている。合理性やわかりやすさが重視される現代のメンズファッションにおいて、この知的かつ逆説的なアプローチは際立った存在感を放ち、不完全さの中に宿る男の品格を提示するコレクションとなった。
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