記事のポイント

    YouTube発の映画やクリエイターIPに資本が流入し、ハリウッドは既存ファンを持つコンテンツを安全な投資先として重視し始めた。

    成功のカギは、特定ジャンルでの強み、効率的な制作体制、プラットフォーム外にも展開できるIPの拡張性にある。

    資金流入による低品質作品の乱造も懸念され、既存ファンを超えて支持される世界観を築けるクリエイターだけが残る。

    ハリウッドは数年前からクリエイターに接近してきた。だが、ここ数カ月で、その動きは全面的な「クリエイターの侵攻」へと変わった。

    YouTube発のホラー映画2作が興行収入で大ヒットとなり、投資会社はミームIPの買収に向けて資金を集め、クリエイターコンテンツの獲得と拡大に特化した新スタジオも相次いで立ち上がっている。『オブセッション 災愛(Obsession)』と『バックルームズ(Backrooms)』は、執筆時点でそれぞれ4億2600万ドル(約697億円)と3億5700万ドル(約584億円)を稼いでいる。また、プライベートエクイティ会社は、『スキビディ・トイレ(Skibidi Toilet)』のようなミームIPを買収するための資金を集めている。

    クリエイターがハリウッドスターに取って代わっているわけではない。だが、自らのブランド力と視聴回数を活用してハリウッド型のマネジメント契約を獲得したり、すでに視聴者を抱えるIPを軸に新たな制作パイプラインを構築したりしている。それは、苦境にある映画スタジオにとっても、より確実な投資先を探す広告主にとっても魅力的だ。

    資本は流れ込むが、誰もが成功できるわけではない

    しかし、ほとんどのクリエイターが上り詰められる高さには、依然として限界がある。Digidayの取材に応じたクリエイター1人とクリエイターエージェンシーの幹部4人は、ハリウッドにおける大型のクリエイター案件には持続可能性が必要であり、IPには拡張性が求められ、ジャンルも明確に定義されていなければならないと語った。資本が流れ込む一方で、低品質な粗製コンテンツが紛れ込む可能性もある。TikTokの投稿をきっかけに大手タレントエージェンシーから声がかかることや、自らのIPが数百万ドル(約数億円)で買収されることを期待するクリエイターが、全員成功できるわけではない。

    それでも、ハリウッドがクリエイターに以前より多くの関心を払い、以前より多くの資金を投じていることは否定できない。

    マネジメント会社メイド・バイ・オール(Made By All)の創業者兼CEOであるリアン・ペリス氏は、この領域を「クリエイター・ハリウッド(Creator Hollywood)」と呼ぶ。ペリス氏は何年も前から超大型クリエイターをハリウッドへ進出させることに取り組んでおり、現在は同社の社内スタジオ、メイド・バイ・アス(Made By Us)でプロジェクトを育成している。

    ペリス氏は、共同CEOのターニャ・コーエン氏が最近、マネジメント会社レンジ・メディア・パートナーズ(Range Media Partners)を離れたことを、状況が明確に変化した証拠として挙げる。

    「クリエイターは序列の頂点に立った。我々がナンバーワンだ」と、新たに設立されたワンダールーム・メディア(Wonderloom Media)のCEO、エド・シンプソン氏は語った。同社はデジタルファーストのクリエイターエコノミープラットフォームであり、巨大なIP保有会社兼投資会社であるコンテンツ・パートナーズ(Content Partners)と共同で立ち上げられた。「いまや我々が既成勢力であり、その下にほかの存在が続く。3年前は事情が違ったが、いま、イノベーションが起きているのはここだ」。

    スピードと低コストがつなぐ、YouTubeからハリウッドへの橋

    シンプソン氏は、クリエイター主導のテレビ番組が増えたことが、クリエイター主導でハリウッドを変革する動きを大きく加速させたとみている。また、クリエイターはハリウッドの作品よりもはるかに速く、はるかに低いコストで改善を繰り返せる。俳優・クリエイター向け情報サイトのバックステージ(Backstage)によると、ハリウッド作品の制作には平均で1年半から2年かかる。ストライキ後の数年間、制作現場が停滞を続けるなか、コスト問題に悩まされてきた業界でクリエイターが主役に躍り出たのは、このスピードと低コストが理由だという。

    「YouTubeにおける品質とは、革新的であることだ。何がおもしろいのか、何が速く伝わるのか、何が笑えるのかを、はるかに低いコストで素早く見極められる」とシンプソン氏は語った。「これは通常のテレビとは同じではない。実際にはテレビより優れている。改善と淘汰を繰り返しながら、視聴者を引きつけるよう設計されているからだ。最良の形では、ほぼ進化論だ。コンテンツの適者生存が、もっともよく機能している状態だ」。

    そうした生存力と拡張性を評価し、ワンダールームは実録犯罪系YouTuberのドクター・インサニティ(Dr.Insanity)を買収した。同氏が持つ登録者500万人規模のチャンネルをさらに拡大し、このスタジオをクリエイター主導版のワーナー・ブラザース(Warner Bros.)やパラマウント(Paramount)へと育てる計画だ。

    このモデルの要となるのは、ソーシャルコンテンツをマーケティングファネルの最上流として扱うことだ。「かつてファネルの最上流にあり、主流だった領域はすべて、いまや追加収益を得る場所になった」とシンプソン氏は語った。「YouTubeのコンテンツをストリーミングサービスやリニアTVへと展開できる。だが、YouTubeやソーシャルメディアが主であり、ストリーミングやリニアTVは二次的なものだ」。

    コンテンツ・パートナーズ・キャピタル(Content Partners Capital)のエグゼクティブバイスプレジデントであるアルフォンス・ロルド氏は、同社の役割は、クリエイターが所有するコンテンツを長期にわたって収益化できるよう支援することだとDigidayに語った。同時に、ほかの企業が同様の動きに続くための土台も作っているという。

    「これは多くの意味で先行者的な取引だ。我々はコンテンツライブラリーの買い手であり、そこに価値があるとみている」とロルド氏は述べた。

    何十億回も再生されたYouTubeコンテンツのライブラリーを買い取れば、クリエイターはまとまった資金を得られる。同時に、メディアバイヤーに対して、より体系化された広告在庫を提供することも可能になる。とりわけYouTubeは最近、クリエイターが動画内に固定で組み込んだ広告を差し替え、広告契約を再交渉できるツールを提供するアップデートを行ったばかりだ。

    「多くの意味で、アルフォンス氏と私はハリウッドへの橋だ」とシンプソン氏は語った。

    バイラルな人気をハリウッドへの足がかりに

    しかし、橋渡し役は彼らだけではない。ユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)やクリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)といったタレントエージェンシーは、クリエイターとの契約を増やしている。小規模な専門エージェンシーも、ソーシャルメディアと映画の双方で活動する人材をそろえ始めた。

    Digidayの取材に応じた関係者によると、エージェンシーが探しているのは、特定のわかりやすいニッチ領域ですでに視聴者を獲得し、比較的容易に高品質なコンテンツを制作でき、自分自身とコミュニティのための独自の居場所を築いているクリエイターだ。案件は一つひとつ異なり、緊密な協力が不可欠であることも強調された。

    「私はこれまで、多くの小規模なエージェンシーと仕事をしてきた。どこもその部門を構築し、クリエイターとエンターテインメント業界の人材の双方をマネジメントしている」と、エージェント型AIを活用したクリエイターコマースプラットフォーム、ポップ・ストア(POP.STORE)の最高収益責任者、ジョー・ウォン氏は語った。「今後数年間で、この動きはさらに拡大するだろう」。

    ブランセン・ゲイツ氏のようなクリエイターは、インターネット上でのバイラルな人気を、俳優の仕事を獲得できるマネジメント契約につなげたいと考えている。ゲイツ氏はTikTokで2450万件の「いいね」を獲得し、インスタグラムでは81万7000人を超えるフォロワーを持つ。チャペル・ローンの楽曲にある語りのパートや、ドナルド・トランプのとりわけ常軌を逸した演説など、その時々で話題となっている音声に合わせて口を動かす動画でバイラル化した。

    「私はずっと、これを足がかりとして使うつもりだった。人生の大半を俳優として過ごしてきた。人々がショービジネスに入るために、こうした道を選ぶようになっていると気づき、それで私も始めた」とゲイツ氏はDigidayに語った。ゲイツ氏は最近、タレントエージェンシーと契約し、宣伝担当者も雇ったが、詳細については明らかにしなかった。

    「できれば今後1年以内に、何らかのシリーズ作品でレギュラー出演者になりたい」と同氏は語った。それは決して非現実的な話ではない。アディソン・レイ、ケイレブ・ヒーロン、チャーリー・ダミリオ、ライザ・コシはいずれも、コンテンツ制作を経由してハリウッドへの進出を果たしている。

    クリエイターごとに異なる勝てるジャンル

    クリエイターとハリウッドが交わる機会は増えている。だが、『オブセッション 災愛』のような超大作級のヒット、『スキビディ・トイレ』への2500万ドル(約41億円)の投資、ヒーロンが『プラダを着た悪魔2』でアン・ハサウェイと共演するカメオ出演などは、標準的な例ではない。

    「『オデュッセイア』は、我々が最上級のハリウッド作品と考えるようなものだ。率直に言えば、クリストファー・ノーランが、女性向け恋愛映画やホラーを作ってきた男性クリエイターを起用することは絶対にない」とウォン氏は語った。

    その代わり、ウォン氏らは、クリエイターが特定のジャンルや特定のプラットフォームで市場を押さえることは可能だと考えている。実際、すでにそれを実現しているクリエイターも多い。

    「ホラーは比較的低コストで制作でき、視聴者も新しい才能を受け入れる姿勢があるため、明らかに参入しやすい分野だった」と、レイン・メディア・グループ(Reign Media Group)のCEO兼共同創業者であるジョナサン・チャンティ氏は語った。「だが、次の波となる可能性が高いのは、コメディ、台本のないコンペティション番組、スポーツ、ドキュメンタリー、ファミリー向けエンターテインメント、そして映画、テレビ、ゲーム、ライブイベント、消費者向け商品へと拡大できるクリエイター主導のフランチャイズだ」。

    コメディは、ペリス氏のメイド・バイ・アスが特に力を入れている分野だ。同社は、この領域でクリエイターがそれぞれ異なるスキルを持っていることを理解している。

    「我々のクライアントは、エンターテインメントとコメディのカテゴリーで圧倒的な視聴数を獲得している。次の一手は、我々が制作と資金調達を行い、必要なインフラを構築したうえで、クライアントが主演、あるいは監督を務められるコメディ映画を一挙に発表することだ」とペリス氏は語った。

    クリエイターの強みを見極め、その強みを生かせるコンテンツを制作すれば、低品質な長尺コンテンツが市場にあふれることを避けられる。

    ワンダールームについて、シンプソン氏は次のように説明した。「重要なのは、短期的に見て、プラットフォーム内でも外でも同じくらい響くコンテンツを見極めることだ。つまり、我々が狙えるベン図の重なりは、プラットフォーム外でも機能する領域にかなり限定される。具体的には、フード、旅行、実録犯罪だ」。

    粗製乱造の先に残るもの

    ハリウッドは、クリエイターが独自に所有するIPに強い関心を持っている。しかしウォン氏は、『スキビディ・トイレ』のような巨額案件が一般的になると期待すべきではないとDigidayに語った。

    「ミスタービーストを見れば、自身の『ビースト・ゲームズ(Beast Games)』のIPを明確に所有している。だがクリエイターの世界を見ると、それができるのは上位1%のクリエイターだけだ」とウォン氏は語った。「アディソン・レイでさえ、自分の番組のIPを単独では所有していない。配信力が依然として必要であるため、Netflixとの共同事業になっている。本当にIPを所有できるのは、桁外れに巨大な存在だけだ」。

    その代わりウォン氏は、ニュースレターの買収やコンテンツライブラリーの購入など、クリエイターのコミュニティも資産に含めた、より小規模な買収が今後数年間で一般的になると考えている。

    多数のクリエイターがハリウッドになだれ込むなか、チャンティ氏は、市場の過飽和と、それがコンテンツの品質に及ぼす危険性を警告した。

    「市場がまだ十分に認識していないのは、いま、大量のステーキが作られている一方で、食欲をそそる『ジュージューという音』がほとんどないことだ。つまり、素材はあるが、人を引きつける熱や魅力が足りない」と同氏は語った。「業界は、そのタレントに視聴者がついているという理由で、クリエイター案件の制作を急いで承認している。しかし、その多くには長く生き残る力がないだろう」。

    チャンティ氏によると、そうしたコンテンツはクリエイターがもともと抱えている視聴者によって、当初は視聴回数が急増する可能性がある。しかし、品質が十分な水準に達していなければ、勢いは次第に失われていく。

    「次世代の大ヒットするクリエイターエンターテインメントが登場する前に、我々は底辺への競争を目にすることになるだろう。これは新興産業では自然な過程だ。誰もが実験を行い、資本が流れ込み、スタジオは何が機能するのかを見極めようとしている。我々はまだ1回表にいる」とチャンティ氏は語った。

    「最終的に勝つのは、コンテンツクリエイターから世界観の構築者へと進化する者たちだ。経験豊富な脚本家、プロデューサー、ショーランナーと提携し、既存の視聴者を超えて人々の心に響くエンターテインメントを作るクリエイターである」。

    [原文:Creators are crashing through Hollywood, but there’s a ceiling]

    Alyssa Mercante(翻訳・編集:的野裕子)

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