2026年7月17日にNetflixにて全世界独占配信が開始された全8話の韓国ドラマ『トングン -呪いの宮-』(原題:동궁 / 英題:The East Palace)は、『悪魔判事』を手掛けたチェ・ジョンギュ監督と、『客 -ザ・ゲスト-』、『不可殺 -永遠を生きる者-』で独創的な世界観を構築した脚本家コンビのクォン・ソラ、ソ・ジェウォンがタッグを組み、朝鮮王朝の宮廷という密室空間に潜む人間の業と呪詛を描いたダークファンタジーだ。

     

    兵役を経て本作が3年ぶりの復帰作となるナム・ジュヒョクと、初の本格的史劇挑戦となるノ・ユンソの共演、そしてNetflixシリーズ初出演となる名優チョ・スンウの圧倒的な存在感によって、配信直後から韓国TOP10で1位を獲得するなど大きな反響を呼んでいる。

     

    本作は、宮廷政治のドロドロとした権力闘争と、韓国固有の民俗伝承に基づくオカルト要素を高次元で融合させた重厚な作品で、本稿ではその魅力を多角的な視点から読み解いていく。巻末には〈付録〉として「オカルト・民俗学用語解説」を記した。

     

    目次

     

    韓国ドラマ『トングン -呪いの宮-』作品基本情報

    タイトル
    トングン -呪いの宮-(原題:동궁 / 英題:The East Palace)

    配信先
    Netflix(全世界独占配信)

    配信開始日
    2026年7月17日

    話数
    全8話

    演出
    チェ・ジョンギュ(『悪魔判事』)

    脚本
    クォン・ソラ、ソ・ジェウォン(『客 -ザ・ゲスト-』『不可殺 -永遠を生きる者-』)

    音楽
    キム・ジュンソク、ジョン・セリン

    主な出演者
    ナム・ジュヒョク、ノ・ユンソ、チョ・スンウ、チャン・ヨンナム、クァク・ドンヨン ほか

     

    韓国ドラマ『トングン -呪いの宮-』あらすじ

    Netflixにて独占配信中 韓国ドラマ『トングン -呪いの宮-』(全8話)

    世子(王の跡取り)が次々に死亡し、王宮は騒然としていた。30年前、今の王が即位する前にも、世子が次々ともののけに取り憑かれて死亡する事件が起きており、あの呪いが再燃したかに思われた。

     

    四人目の世子で王の最後の息子・英安君も、もののけに取り憑かれ、生死を彷徨っていた。当初は呪いなど信じぬと公言していた王だったが、なんとか英安君を助けたいと山奥の寺を訪ね、そこに住まう、霊界に踏み込むことが出来るグチョンという男を無理やり王宮に連れ帰る。

    世子を苦しめているもののけを退治し、世子を救えば、無事寺に戻してやるが、世子が死ねば、お前も生きて帰れると思うな、と王は半ば脅すようにグチョンに告げた。

     

    王はまた、長らく疎遠になっていた娘のセンガンを王宮に呼び戻した。センガンは幼い頃から霊感があり、そのことを知った王によって追放されていた。王は、グチョンの見張り役として、彼女が適任だと考えたのだ。

     

    始めてグチョンと顔を合わせたセンガンはグチョンが寝てばかりいるのに呆れる。英安君の容態はひどくなる一方で、このまま英安君が亡くなればグチョンは処刑されてしまう。

    グチョンは蓮池に潜むもののけを退治するため、池に入り、もののけの世界へと足を踏み入れた。もののけと激しい戦いとなるが、何しろ、相手の正体がわからないため仕留めきれず、陽の気を奪われてしまう。

    センガンは彼女がグチョンに渡した鈴の音を聞き、グチョンがピンチに陥っていることを知る。決して引くなと言われていた綱を引き、グチョンをもののけの世界から脱出させた。

     

    王は側室の子で、大妃の実の子ではなかった。大妃はひそかに、益祥君の息子を次の世子にしようと画策していた。そのため、英安君についている巫堂に世子の無事を祈祷しているように見せながら、実は死が訪れるよう祈らせていたのである。

     

    そんな折、大妃殿にもののけが出没したと聞いたセンガンは、塩蔵に埋めてあった骨壷が割られているのを発見する。塩蔵で聞こえる霊の声に耳を澄ますと、身に覚えのない罪に問われ、監禁された上に火をつけられて死んだ13人の女官たちがもののけとなり、大妃へ復讐しようとしていることがわかる。

     

    大妃が骨壺を割ったのは王ではないかと疑う一方、グチョンとセンガンは、大妃が蓮池のもののけと強い関わりを持っていると確信する。グチョンとセンガンの活躍により、もののけたちは成仏し、蓮池のもののけの正体も明らかになるのだが・・・。

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    www.chorioka.com

     

    韓国ドラマ『トングン -呪いの宮-』感想と評価

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    孤立する魂の共鳴:洗練されたバディ(相棒)ムービーとしての演出

    物語の軸になるのは、霊界を自由に行き来できる特殊な能力を持ったグチョン(ナム・ジュヒョク)と、生まれつき霊の声が聞こえる宮女センガン(ノ・ユンソ)の特別なバディ関係だ。

     

    グチョンとセンガンは当初、対照的な存在として現れる。王(チョ・スンウン)によって無理やり宮廷に連れて来られたグチョンは、一見、横になってばかりの怠惰で利己的な人間に見える。一方、センガンは王の娘だが、霊の声を聞く能力を持っているがために、幼いころに王宮を追い出された過去を持つ。センガンはグチョンを見張るようにという王の命令を受け、再び王宮にやって来たのだ。身分も人生経験も違う2人は、当然、最初は互いを理解し合えない

     

    しかし物語が進むにつれて、グチョンの怠惰に見えた行動が、異界でもののけと死闘を繰り広げ続けてきた結果であることが分かって来る。彼は生命の根源である「陽の気」を吸い尽くされ、精神的・肉体的に摩耗しているのだ。

    ナム・ジュヒョクの低音のトーンと影を帯びた眼差しが、他者からは見えない怪異と常に隣り合わせで生きてきたグチョンの孤立感とトラウマを鮮やかに表現している。

     

    一方、センガンは、学者顔負けの博学さと理知的な判断力を備えた極めて主体的な存在として描かれている。彼女は決して男性キャラクターに付属するだけの存在ではない。ノ・ユンソは初の時代劇出演でありながら、正然とした立ち振る舞いによって宮廷の闇に対峙する女性の強い気迫を溌剌と表現している。

     

    2人はこれまで「霊」と対峙する能力を持っていることから、周囲から疎外され続け、孤独に生きてきた。しかし、初めて、理解者を得たことで、次第に絆を深めていく。

    そうした2人の絆がアクションにも存分に生かされている。現実世界と霊界という二つの相異なる領域に分断されながらも同時並行で展開される2人の連動闘争は本作の最大のみどころのひとつだ。

     

    最初は打算と警戒心で結ばれていた2人が、危機を乗り越える中で互いの命を賭して護り合う関係へと変化していくさまは、まさにバディ映画としての真髄を極めている。

     

    漆黒の異界を切り拓く重厚なダークファンタジー・アクション

    グチョンの行う殺陣は、華やかで美しい剣術ではなく、泥臭く凄惨なものだ。異界に立ち入り、自らの生命力(陽の気)を削りながら物理的な刀で悪霊を斬り伏せるスタイルは、一撃一撃に圧倒的な重量感と悲壮感が漂っている。それは彼にとって「生きるための死闘」なのだ。

     

    最先端の特殊効果によって描かれる異形の怪異たちに対し、ナム・ジュヒョク自身が高度な殺陣を完璧にこなし、実在感のあるダイナミックなアクションを成立させている。第8話におけるクライマックスの殺陣シーンをはじめ、異界の濁流や呪われた井戸の底での戦闘は、K-ダークファンタジー・アクションの新たな到達点を示している。

     

    異界と現実をシームレスに結ぶ映像美と重厚なプロダクション

    チェ・ジョンギュ監督の演出は、特に現実世界から霊界への移行シーンで見事な手腕を発揮している。グチョンが蓮池の底へと身を沈めたり、呪われた井戸へ引きずり込まれる瞬間、画面はシームレスに現実から異界へと変化する。霊界での戦闘シーンでは、カメラは被写体の動きに合わせて時に俯瞰で、時に地べたを這いずり回るように自在に移動し、重力を無視したような縦横無尽なフレームワークによって、視聴者を異界の渦中へと没入させる。

     

    また、厳格で冷たい宮廷の色彩(現実)に対する暗鬱で歪んだ赤や橙(霊界)という色彩造形は、秩序ある現実世界の裏側に潜む怨念と歪みの領域を視覚的に見事に際立たせ、照明は、現実の宮殿が持つ左右対称の厳格な美しさと、霊界の光が届かない不気味な暗影とのコントラストを極限まで計算している。

     

    本作に登場するもののけ(鬼魅・悪霊)の造形は、韓国の古文献や民話伝承を深く研究した上で現代的に再構築されたものだ。

    特筆すべきは、視聴者の間で既に大きな話題を集めているコモクサリ(꺼먹살이)だろう。小動物のような愛くるしい外見を持ちながらも、人間の陽の気を無慈悲に吸い尽くして死に至らしめるというこの鬼魅は、怪異の持つ恐ろしさとどこか愛嬌のある伝承的キャラクター性をうまく同居させている。

    陽の気の少ないグチョンにとってはまさに天敵ともいえる存在なのだが、コモクサリは度々姿を現し、グチョンを困惑させる姿がユーモラスに描かれている。

     

    さらに、劇中に登場する葬送儀礼や王宮の儀式、王室の衣装や道具の装飾なども、時代考証に基づき徹底的に正確に再現されている。

    葬送儀礼のシーンでは、草原を駆け抜けるようにカメラが進み、一行の長い列を引きの映像で捉えてみせたかと思うと、突然、神の目ともいうべき空撮シーンを挟むなど、壮大なカメラワークで、その光景に潜む無情と深い哀しみを浮き彫りにする。

     

    これらに花を添えるのが、キム・ジュンソクおよびジョン・セリン音楽監督の手による重厚なサウンドトラックだ。伝統的な国楽の打楽器や管楽器の音色に重厚な弦楽オーケストレーションを融合させた楽曲群が、登場人物の葛藤や宮廷の陰謀を劇的に盛り上げている。

     

    王位継承の血闘と呪詛が交錯する多層的ミステリー

    回を重ねるに連れ明らかになっていくのは、本作が、単にもののけを退治するアクション・オカルトにとどまらず、世子たちの不審死を巡る緻密な宮廷政治ミステリーでもあることだ。

     

    物語は、東宮において王の息子である世子たちが次々と不可解な死を遂げるという衝撃的な展開から幕を開ける。クァク・ドンヨンが演じる第三世子が蓮池の前で死亡し、最後の生き残りである幼い英安君までもがもののけに取り憑かれて危篤に陥る。

     

    この怪異の背景には、側室の息子として王位に就いた現王(チョ・スンウ)と、先王の正妻として王室の血統を統制しようとする大妃(チャン・ヨンナム)との凄惨な権力闘争が存在する。大妃は王の直系男子を排除し、自らの影響力下にある益祥君(イクサングン)の息子を新世子に擁立しようと暗躍しており、オカルト的な呪いと泥沼の政治工作が緻密に絡み合っていく。

     

    本作のミステリーとしての秀逸さは、視聴者の推理を鮮やかに裏切り続ける多重構造にある。

    第四話で、グチョンとセンガンは過去に大妃によって無念の死を遂げさせられた承恩尚宮(スンウンサングン)の怨霊「蓮池のもののけ」を倒し、英安君の病気を快復させることに成功する。事件は解決したかに見えた。しかし、それは真の呪いの端緒に過ぎず、「蓮池のもののけ」とは別に真犯人(元凶となる存在)が存在することが中盤以降に明かされる。

    オカルト的な呪詛の裏に隠された「真の犯行」と「王室の闇」が明かされていく過程は、実にスリリングであり、上質なサスペンス劇としての面白さが堪能できる。

     

    権力と狂気の深淵を彫り出す演技の競演:チョ・スンウとチャン・ヨンナム

    主演の若手二人を支え、作品全体に重厚な格式と極限の緊迫感をもたらしているのが、王を演じたチョ・スンウと大妃を演じたチャン・ヨンナムの圧倒的な存在感だ。

     

    チョ・スンウが演じる王(イ・ヨン)は、単なる暴君でも、無力な被害者でもない。側室の子という出自のコンプレックスを抱えながら、血脈を守るためなら手段を選ばない冷徹さと、最後の子を救いたいと願う切実な父性、そして深遠な秘密を肚に括った多面的な人物として描かれている。

    チョ・スンウは静かな発声をベースにしながらも、眼光の鋭さと絶妙な間によって画面全体を支配している。グチョンやセンガンを容赦なく脅迫し利用しながらも、王座の重圧に苦悩する姿は、良くも悪くも人間味に溢れたキャラクターだ。

     

    対する大妃役のチャン・ヨンナムは、作中において「どんな恐ろしいもののけよりも恐ろしい人間」として存在感を放ち、これまでの韓国ドラマや映画における「大妃」のイメージを一変させている。

    彼女は30年前の承恩尚宮冤罪事件や女官13人の不当な殺害など、王宮を呪いで満たした元凶でありながら、自らの正当性と権力を一切疑わない。チョ・スンウとの一歩も引かない舌戦や政治的駆け引きのシーンは本作のハイライトでもあり、二人の名優による火花散る演技合戦が作品の品格を決定づけている。

     

    結論:K-オカルト史劇の歴史的到達点

    『トングン -呪いの宮-』は、単なる怪異退治のエンターテインメントにとどまらず、「最も恐ろしい呪いとは、人間の醜い権力欲と怨念である」という深遠なメッセージを提示している。

     

    ナム・ジュヒョクとノ・ユンソが見せた新鮮かつ強固なバディの化学反応、チェ・ジョンギュ監督による美しくも凄惨なプロダクションデザイン、そしてチョ・スンウとチャン・ヨンナム等、ベテラン俳優が築いた重厚な演技の礎石。

    これらが完璧な調和を奏でた本作は、韓国ドラマにおけるオカルト・史劇ジャンルを新たな高みへと引き上げることに成功している。

     

    付録:オカルト・民俗学用語解説

    ウォンギ(怨鬼 / 원귀)/冤罪や不当な暴力によって無念の死を遂げた者が、復讐心から変化した霊体。本作では大妃によって冤罪を着せられ殺害された13人の女官や承恩尚宮など、王宮を呪う直接的な怨霊。

     

    キメ(鬼魅 / 귀매)/個人の霊ではなく、暗黒の陰気や悪意が特定の場所に集積・凝縮して誕生した悪霊。邪悪なエネルギーが実体化した存在。能力者であっても退治に多大な生命力を消費する。

     

    モムジュシン(몸주신 / 守護霊)/シャーマン(巫堂/ムダン)の身体に宿り、霊的な力や予知能力を与える主神・守護霊。劇中のシャーマニズム的世界観の根底を成し、霊媒(ヨンメ)の能力の源泉となる概念。

     

    アッキ(悪鬼 / 악귀)/人間に危害を加え、精神や身体を侵食して破壊へと導く邪悪な幽鬼の総称。世子たちに取り憑き、自害や衰弱死を引き起こす直接的な脅威として描かれる。グチョンは死ねばアッキになることがわかっているので懸命に生きようとしている。

     

    コモクサリ(꺼먹살이)/人間の「陽の気」を狙う特殊な小鬼魅。小さく愛らしい外見を持つ。弱った人間に取り憑き陽の気を吸う。他の怪異以上にグチョンが警戒する寄生型の怪異。

     

    ヨンメ(霊媒 / 영매)/あの世(霊界)とこの世(現実)を繋ぎ、霊の声を聞いたり体に憑依させたりできる人物・能力。センガンの持つ特殊能力。霊の声を正確に聴き取り、隠された悲劇の真実を解き明かす鍵となる。

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