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    映画館でアニメ映画を見ると、受付時に入場特典(入場者プレゼント、来場者特典)が配られることが多い。この春に終映した「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」で配布された入場特典は4DやIMAX上映限定のものを含めると合計24種類にもなり、配布されない作品があると意外に思ってしまうぐらいアニメ映画では当たり前になった。週替わりで新規映像を流すなどの施策もあるが、ここでの入場特典はリアルな物が配布されるという意味で取りあげたい。
     アニメハックでは、2023年1月から「アニメ入場特典リスト」と題してアニメ映画を中心とした入場特典の情報を毎週記事化している(https://anime.eiga.com/news/column/tokuten_list/ )。日々の記事作りのなかで入場特典の記事にニーズがあるのが分かったことが定期記事化のきっかけで、最初は毎週更新するだけのネタがあるのかと心配していたが、今では載せきれないほどの情報がある。

    入場特典の歴史

    入場特典のはじめがどの作品かは分からないが、かなり昔からあるのは間違いない。かつては「ドラえもん」「プリキュア」などの児童向け映画で子ども限定に配られるものや(最近は大人にも配られるようになった)、話題になることを狙って単館系の実写映画で配布されるユニークな物など、あくまでオマケという位置づけだったと思う。
     近年の入場特典の歴史を振り返ると、2009年公開の「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」で配布された「ONE PIECE 巻零(ゼロ)」のインパクトは大きく、現在の流れをつくったひとつだろう。原作者の尾田栄一郎氏が描きおろした第0話を収録し、原作コミックスに体裁を似せた小冊子は通称「ゼロ巻」と呼ばれ、先着150万人限定配布の予定が100万部増刷するほどの人気を博した。その後、ジャンプ原作の劇場アニメで同様の小冊子をつけることが増え、他の作品でも力の入った入場特典をつける流れが加速したようだ。テレビアニメの終了後に総集編や続編をアニメ映画として上映したり、テレビアニメの一部を劇場で先行上映したりする現在も続く流れとも相まって、入場特典が単なるオマケから客を呼ぶ大きな訴求力のあるアイテムに変化していった。
     入場特典が配布される作品の多くはハイターゲット向けで、繰り返し見るファン向けのリピート対策としても機能する。各キャラクターが描かれた複数のアイテムのなかからひとつをランダム配布するのも定番で、その究極の方法として、かつては上映フィルムを数コマずつ切断したものが上映終盤に配られることもあった。フィルム上映がほぼなくなった今でも、配布するためにわざわざフィルムを準備することが稀にあるが、フィルム上映が行われていた頃はある種エコな取り組みでもあり、上映されたフィルムの現物がもらえるのはファンにはうれしいものだった。人気のキャラクターや場面が映っている“当たりのフィルム”はネットオークションで高値がつくこともあった。
     作品の熱心なファンにとって、原作者が描きおろしたものが入場特典としてつくのは嬉しいものだ。筆者が印象に残っているのは「劇場版 とある魔術の禁書目録 ―エンデュミオンの奇蹟―」(2013)で配布された原作者・鎌池和馬氏による描き下ろし小説で、原作レーベルの電撃文庫1冊分に相当する224ページものボリュームだった。筆が速いことで知られる鎌池氏だから実現できたことだろうが、それでも書店で新刊として売れるレベルのものを無料配布するとは凄いなと当時思った。
     2026年に公開されたアニメ映画「クスノキの番人」では、直木賞作家でもある原作者・東野圭吾氏による書き下ろし小説が入場特典として配布された。売れっ子作家の東野氏から原稿をとるとは、アニメ映画の入場特典もここまできたかと驚かされた。
     初週は一定の客が来ることが見込める人気作の場合、公開からしばらく経ってから気合いの入った入場特典を配布することがある。ただ、配りはじめたときには上映回数が激減していて、勿体ぶらずに最初からこれを配っておけばよかったのに……と思う作品もたまにある。
     「エヴァンゲリオン」シリーズの完結作「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(2021)は公開から約3カ月後、終映へのラストランに向けて36ページの冊子「EVA-EXTRA-EXTRA」が100万人限定で配布された。前作「Q」の前日譚を描いた漫画や制作陣によるイラストが収録された公式同人誌のようなものでファンには垂涎のアイテムだった。当時あと一息で興行収入100億円にいきそうで、庵野秀明監督も目指したいと公言していた目標を達成させるため急きょ凄い特典を出してきたなという印象だった。筆者は入場特典目当てでリピート鑑賞はしないほうだが、このときばかりは冊子目当てに3回目を見にいった。

    特典を配布しない作品

    興行の強力なカンフル剤になり得る入場特典を、おそらくあえて配布しないアニメ映画もある。スタジオジブリ作品は過去に一度も入場特典を配布したことがないはずで、毎年メガヒットしている映画「名探偵コナン」シリーズも、封切り時に大々的に入場特典を配布したことは筆者が調べた限りないようだ。様々な考えあっての判断だろうが、単純に特典制作には費用がかかり、映画館側にも配布の手間をかけることになる。これらのコストは表には見えないものの最終的には鑑賞者が負担しており、入場特典を配布しない作品はその選択をしていないと考えることもできる。また入場特典が存在すると、どうしてももらえる・もらえないなどの問題がおきがちで、作品とは直接関係のない過熱を避けたい意図もあるのだろう。入場特典の配布の有無に良い悪いはないが、国内の歴代興行収入ランキングを振り返った場合、今と昔は入場料金が違うことや昔はシネコンがなかったことに加えて、入場特典の施策をとったか否かは加味して考えても良いように思う。
     7月24日には「映画ちいかわ 人魚の島のひみつ」が公開される。キャラクターグッズや飲食店などとのコラボが絶大な人気を博している「ちいかわ」は、初長編アニメである作品への期待とは別に、どんな入場特典が配布されるのかを楽しみにしているファンも多いはずだ(編注)。そのこと自体が作品の強みでもあるが、昨年マクドナルドの「ハッピーセット」で転売目的による買い占めが問題になったことなどを考えると、子どもにも人気のある同作にとってマイナスなことになりかねないのではないかと勝手に心配になってしまう(もちろん製作側はそんなことは百も承知で適切なやり方をとってくれるだろうが)。
     好きなアニメ映画を見にいって、更に何かもらえるのはとてもうれしい。ただ何かをもらえるのが当たり前になるのもちょっとおかしく思えて、筆者自身、見るかどうか迷っている作品で、入場特典の配布が終わっているのを知って見にいくのをやめたことがある。入場特典の功罪の罪の部分をそろそろ考えだす頃にきているようにも思う。(「大阪保険医雑誌」26年4月号掲載/一部改稿)

    編注:「映画ちいかわ 人魚の島のひみつ」は公開初日の7月24日から、入場特典第1弾として「チャームミニフィギュア」(全8種)が数量限定で配布される
    https://anime.eiga.com/news/126906/

    五所 光太郎 編集Gのサブカル本棚

    [筆者紹介]
    五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

    映画ちいかわ 人魚の島のひみつ

    映画ちいかわ 人魚の島のひみつ 0

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