河田皓史(かわた・ひろし)/みずほ総合研究所調査部 チーフグローバルエコノミスト。1987年生まれ。岩手県出身。東京大学経済学部卒。デューク大学大学院経済学修士課程修了(経済学修士)。日本銀行を経て、2023年11月みずほリサーチ&テクノロジーズ(現・みずほ総合研究所<※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称>)入社。(撮影:写真映像部・新崎美菜子)
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エコノミストで、著書『働く人が減っていく国でこれから起きること』が話題の河田皓史さんが7月18日、ビジネス映像メディア「PIVOT」に出演。過去よく読まれた河田さんのインタビュー記事を再配信します(「AERA Books」に2026年4月27日に掲載された記事の再配信です。本文中の年齢、肩書等は当時のもの)。
【写真】著者・河田皓史さんのインタビュー記事はこちらから
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「FIRE(早期リタイア)」したい——そんな時代の空気を捉えた新書が、発売後たちまち重版し話題となっている。元日銀エコノミスト・河田皓史さんの初の著書『働く人が減っていく国でこれから起きること』(朝日新書)は、FIREブームの底流にある「会社嫌い」「仕事嫌い」のトレンドに正面から向き合い、加速する人手不足とインフレの可能性を指摘した一冊だ。本書で描かれるのは、「FIREは増える、非婚化も止まらない。ではどうするか?」という現実的な分析と提言。河田さんに、執筆の裏側を聞いた。
――この本の一行目は、「あなたは会社や仕事が好きですか?」という問いかけから始まっています。
書き出しをどうするかは、かなり考えました。日本で「FIREしたい」という声が増えているのは、もちろん「子どもと過ごす時間を増やしたい」といった表向きの理由もあると思うのですが、やはり根底には会社嫌い、仕事嫌いという理由もあるはず。FIREと経済の未来について本を書くのなら、そういった問いの形にするのがいいかな、と考えました。
――『働く人が減っていく国でこれから起きること』の元には、SNS等で話題になったレポート「単身世帯化の日本経済への影響」があります。どういう発想から書かれたんですか。
面白いことを書いてみたいという気持ちと、自分の実感とが合わさった感じです。「FIREする人が増えると経済はどうなるか」という分析や考察を、私は当時見たことがなくて。当時は「人手不足」がものすごく注目されていた時期だったので、それに関連する試算は色々ありました。各所の試算で言われていたのは、多くの場合、女性と高齢者の労働参加が今後もある程度は進むものの、それ以上のペースで人口が減少し、数百万人の人手不足が起きるというものでした。
それはそれで妥当な試算だと思いますが、「FIREする人が増えたら労働参加率はそれよりもっと下がるよね」という直感がありました。さらに、密かにFIREを志望している「隠れFIRE」の人は世の中にたくさんいるだろうという感覚もあった。それも織り込んだうえで20年、30年先を予測すると、大変なことになるんじゃないかと思い、分析をしてみました。
――「隠れFIRE」というのはありそうですね。
FIRE願望をSNSで発信しても叩かれそうだし、職場の上司や同僚と飲む席で「早期リタイアしたい」などと言ってしまうと「なんだこいつ」となりかねない。なかなか口にする機会がないから、隠している人も多いんじゃないかという気がしています。
河田皓史さん(撮影:写真映像部・新崎美菜子)
――河田さんご自身は「FIRE願望がある」と本に書かれています。
「FIRE願望をもつ単身者が書いている」というところが、この本のオリジナリティや価値につながるのではと考えました。真面目な論文やレポートではなく、書籍という媒体だからこそ、その視点を紛れ込ませる余地がたくさんあったと思います。日銀時代に、エコノミストとしての表現欲求を抑圧された反動もあるかもしれません(笑)。
――FIREしたいとおっしゃいますが、エコノミストとしてのお仕事には意欲的ですよね。
正直に言えば、会社という組織の中で何かをすることにストレスを感じるタイプなんだと思います。なんでここまでしなきゃいけないんだ、というような根回しとか。官僚機構的な組織の複雑さと、組織としてのリスクコントロール欲求の高さが相まってそうなっていると思うんですが……別に日銀がどうということではなく、一般的に会社とはそういうものだと思っています。やっぱり、「過剰な忖度」がかなり大きなコストを生み出しているような気がしますよね。
――さきほどの「表現欲求」を持ったのはいつ頃からですか?
日銀のリサーチ部署にいたときです。当時、調査統計局の経済調査課の中には、異なるアプローチでリサーチを行う部署が4つほどあり、それぞれのリサーチをお互いにチェックする文化がありました。そこで他の人のリサーチを読んでいくのですが、「おもしろいな」と思うこともあれば、「なんだこれ」と思うこともあるんです。
どこかで誰かが言っているようなことをなぞったリサーチを出してもおもしろくない。なので、これまで誰も注目していなかったようなデータを使ったり、あるいはいつも見ているデータをこれまでは違った切り口で分析したりして、「見たことのないもの」を見せようとする。みんな、オリジナルな視点のリサーチを作ろうと必死でした。
また、若いときにはあまりないのですが、年を重ねると自分なりの「経済観」のようなものができてくるので、それに沿ったことを言っていきたいという気持ちも出てくるのかもしれません。
――河田さんの経済観とは、どういうものですか。
たとえば、企業の従業員への還元は十分なのかという問題意識があります。本の中でも書いていますが、企業が株主へ分配する配当金の割合は増えている一方で、人件費の割合は下がっている。こんなに減らしていたら実質賃金も上がらないし、生活も苦しいし、働くモチベーションも上がらないよね、というのが私の見解です。
ただ、これは人によってかなり見方が異なります。「労働分配率は下がっていない、企業は十分やっている」とおっしゃる方もいる。確かに、データによっては、下がっていないものもあるんですよね。異なる世界観が併存したままみんながパラレルワールドを生きているような状態です。
経済データとは非常に不完全なもので、ほぼ全ての統計は、サンプルを抽出し、そのサンプルを膨らまして、かつ調査項目も回答者に配慮したりなど、いろいろな現実的な制約の中で生まれた一つの仮説にすぎません。そうした仮定をいくつも積み上げて作るのが経済分析なので、そこが本当に難しいところです。
河田皓史さん(撮影:写真映像部・新崎美菜子)
――本を書くうえで、大変だったのはどんなところでしたか。
「働く人が減っていく」というネガティブなテーマの中で、いかに前向きなニュアンスで締めるかが難しいところでした。「何もかもダメです、日本はおしまいです、さようなら」では終われないので。レポートなら「今後は厳しい見通しです」で終わってもいいのですが、本一冊読んで何も得るものがないとなると、読者の方に申し訳ない。
ですが、FIREを止める対策も、非婚化を止める対策も、考えた結果として「これをやればOK」というソリューションは正直思い浮かばなかった。なので、FIREは増える、非婚も止まらない、それを所与のものとして「ではどうするか」という発想で仕上げました。
――最終的に、「月10分の労働時間に相当する無駄の削減」を読者に提案しています。
「総理大臣じゃないとできない」とか「大企業の社長じゃないとできない」という提言では意味がないよなと考えていました。誰しもがやろうと思えばできて、なおかつ現実的なラインを求めた結果、あの形に仕上がりました。
――どういう人にこの本を読んでほしいですか。
組織の在り方に違和感を持っている人に読んでほしいです。若い人なら「なんで未だにうちの会社はJTC(Japanese Traditional Company)なんだ……」とか、中間管理職なら「上からはいろいろ言われるけど、下の人たちは価値観違うし……」とか、経営者なら「なんで最近のやつはこうなんだ、自分が若い頃は……」というように、立場によって感じることはまったく違うと思うのですが、三者三様に問題意識を持っている。どこに共感し、どこに違和感を覚えるかという「ばらけ」を浮き彫りにすることが、次の議論につながっていくんじゃないかと思っています。
(構成/書籍編集部・白石圭)
★大反響! 発売たちまち重版!★
加速する人手不足とインフレ。
その時、日本経済はどうなる?
「働きたくない」「結婚もそこまでしたくはない」……
会社への「エンゲージメント」が世界最低レベルの日本。しかし、生涯ひとり暮らしなら「人生の必要コスト」は大きく下がる。
だから「早期リタイア=FIRE」が視野に入る。
そのとき彼らは、労働市場からは消えるが、消費者ではあり続ける。
FIREによる人手不足をトリガーとしたインフレが始まる――
元日銀・気鋭のエコノミストによる、
大胆予測で反響を呼んだリポート、その衝撃分析と処方箋!
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・「生産性4倍」の必要条件
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