警察小説の歴史を変えたといわれる今野敏の小説を原作とした本格警察ミステリー「TOKAGE 警視庁特殊犯捜査係」。本作で反町隆史が主人公の上野数馬を演じている。上野はかつて警視庁内で、オートバイを駆使して犯人を追跡する特殊捜査官”トカゲ”として、数々の誘拐事件を解決してきた。
2025年にテレビ東京で放送された本作は、ひので銀行法人融資課の男が誘拐されたという一本の電話から始まる。犯人が要求するのは、身代金5億円と交渉用の専用回線。要求にはボイスチェンジャーを使用し、明らかに犯罪慣れした気配が漂う。警察上層部は手練れの犯行とにらみ、かつて”トカゲ”として名をはせた上野を呼び戻す。上野は経験豊富な捜査官だったが、10年前に特捜班の指示を無視したことから、現在は所轄の少年係に勤務している。
■バイクを駆使する異端の捜査官!”トカゲ”とエリート交渉人の凸凹バディ
鶴の一声で”トカゲ”として復活した上野は、栗山千明演じる、FBIで交渉術を学んだ特殊捜査交渉係・中原明日香の指揮下に入る。現場感覚と経験値で動く上野と、理論と交渉技術を重んじる中原は当然のように衝突。だが、徐々に息が合い、凸凹ながらも最高のバディへと成長していく。
本作の面白さは、誘拐事件をめぐる謎解きだけではない。”トカゲ”という存在そのものが、作品の大きな個性になっている。刑事ドラマの捜査といえば、聞き込み、取り調べ、鑑識、張り込みなどが定番だが、本作ではそこに”バイクで追う”という身体的アクションを加え、頭脳戦である誘拐捜査に”肉体の熱”を感じさせる装置となっているのだ。
■ワイルドな若者から深みのある大人へ。反町隆史の現在地
そして、この役どころが、反町隆史という俳優に実に似合う。反町といえば、90年代後半に「ビーチボーイズ」「GTO」(ともにフジテレビ系)で一世を風靡(ふうび)し、ワイルドでまっすぐで少し不器用な男の魅力を体現してきた。長身のシルエットに低く落ち着いた声、立っているだけで絵になるたたずまい。加えて、チャラい芝居もできる、レンジの広い王道イケメン俳優だった。
その後、年を重ねるにつれて、単なるかっこよさだけではない渋みも加わった。2015年からは「相棒」シリーズ(テレビ朝日系)で法務省キャリア官僚出身の刑事・冠城亘を演じるなど、知性や余裕、組織の中で立ち回る大人の含みを演出してきた。若い頃が直感と熱量で突破する男だったとするなら、いまの反町は背負ってきた時間を沈黙ににじませる男である。「TOKAGE 警視庁特殊犯捜査係」の上野にも、そんな今の彼の良さがよく表れている。
上野は経験豊富な捜査官でありながら、大事件にこだわる刑事ではない。行動が読めないところはあるが、手柄に躍起になる捜査員とは異なり、真摯(しんし)に事件を追う。それは誘拐事件が思わぬ方向に動き出し、中原が他の捜査官に交渉権を奪われてからも変わらない。バイクにまたがる姿も当然絵になるが、そのアクション以上に、事件の奥に潜む違和感を静かに見極めようとするまなざしが光る。
■組織の闇と向き合う重厚なストーリーと、豪華共演陣のアンサンブル
本作は、共演陣のバランスも良い。栗山演じる中原明日香は自分の経歴に自信を持つエリートタイプで上司と対立し、竜星涼演じる銀行員の西条順一は事件の鍵を握る存在として物語に緊張をもたらす。さらに捜査一課課長・田端守雄役の椎名桔平、捜査一課管理官・相馬徹郎役の吹越満ら実力派が脇を固めることで、組織捜査ものとしての厚みも生まれている。その中央で反町は静かに、しかし力強くたたずみ、作品の芯を支えている。
見どころはそれだけではない。誘拐事件を解決するだけでなく、警察内部の膿(うみ)を出す展開もあり、さすが今野敏原作とうならせる。そして「なるほど、だからこの配役だったのか」と納得させられる。誘拐事件でも警察内部調査でも一ひねりある展開が、実にユニークで面白い刑事ドラマだ。
■数々の刑事役を経て到達した、反町隆史の「風格」
本作は、反町隆史という俳優をじっくり味わえるドラマでもある。90年代は自由でワイルドな若者像を背負い、2000年代は「ホットマン」(TBS系)などで家族や責任を抱える男の温かさを見せた。そして2010年代以降は、組織の中で知性と余裕をにじませる大人の男へと変化。本作ではバイクを走らせるワイルドさ、若き中原を見守るまなざし、沈黙が語る説得力と、そのすべてを味わえる。
「TOKAGE 警視庁特殊犯捜査係」は誘拐事件を追う警察ミステリーであると同時に、反町隆史という俳優の現在形を楽しめる作品でもある。かつて視聴者を熱狂させたスター性はそのままに、現在は渋みと包容力、そして静かな説得力をまとう。
また、反町は刑事役の手練れでもある。「捜査一課・澤村慶司」「ダブルスコア」(ともにフジテレビ系)、「交渉人〜THE NEGOTIATOR〜」「迷宮捜査」「相棒」(ともにテレビ朝日系)、「オクラ〜迷宮入り事件捜査〜」(フジテレビ系)と、さまざまな刑事を演じてきた反町だからこそかもし出せる、刑事の風格がそこにある。
文/及川静
