『豊臣兄弟!』の余韻で観る『黒牢城』
公開中の時代劇映画『黒牢城』に出演する宮舘涼太があまりにも素晴らしい。でもそのことを述べる前に、ひとまず本作公開にまつわる前後関係を確認しておく。
1578年、織田信長の武将である荒木村重が反旗を翻した。日本史上有名な謀反の1つだ。村重は有岡城に籠城。信長軍の攻勢に対して徹底した守備の姿勢を示し、敵陣営から説得にやってきた知将・黒田官兵衛を城内の牢屋に投獄した。2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)第23回では、ちょうどその様子が描かれた。
同回放送日は6月14日。これを宣伝ギミックの1つにどう組み込んだのか(あるいは偶然の呼び水に過ぎないのか)、週明けの金曜日である6月19日に全国で封切りされた『黒牢城』もまた、官兵衛の説得場面から始まる。大河ドラマで直前に予備知識を得た観客たちは、大河ドラマ直近の放送回との既視感を抱いたはずだ。
しかも本作の官兵衛役は菅田将暉。菅田は『豊臣兄弟!』でも竹中半兵衛役として出演した。半兵衛は、倉悠貴演じる官兵衛が、村重の説得役を買ってでたことに猛反対。半兵衛と官兵衛の兵衛が何ともややこしい、ニアミス的なキャスティングが二重の既視感と錯覚を生み出している。
“世界のクロサワ”が時代劇に持ち込んだ異物感
まるで狐につままれたようだが、さらに輪をかけて本作の観客の中には、北野武監督が30年もの構想期間を経て映画化した『首』(2023)で、明智光秀と村重による濃厚極まりない男色描写を見て、心底たまげた者も少なからず含まれているだろう。『黒牢城』の監督は、「世界のキタノ」と並んで国際映画祭から喝采を浴び続ける黒沢清(「世界のクロサワ」)だ。公開後の結果論に過ぎないとはいえ、偶然の重なりさえ作品の一部に見えてしまうところが、いかにも黒沢清らしい。
いずれにしろ、ちょっとした(いや、空前の?)荒木村重ブームが作品への関心をブーストしつつ、黒沢監督が初の時代劇に取り組んだこと、そして興行収入10億円も視野に入ってきた歴史的意義に考えが及ぶ。
世界のクロサワは間違っても、世界の観客に日本らしい何かを訴求するような古臭い時代劇など作るはずもない。ミステリー小説の映画化だというのに、回想場面を一切使わない頑な演出もやはり黒沢監督らしい堅牢な選択だといえる。そして何より、黒沢作品にとっては何とも新鮮な顔ぶれとして映る、Snow Man・宮舘涼太がキャスティングされていることが意表を突く。
