
BTS・JUNG KOOKも踊った日本人クリエイターの話題曲 元K-POPアイドルが「やらない」と拒否したワケ
日本人クリエイターの楽曲が、K-POPアイドルたちの間で大きな広がりを見せている。
その曲は、M.Sasukeの『GG EZ』だ。
NCT WISHのシオンとリク、RIIZEのショウタロウ、TWSのギョンミン、ITZYのイェジ、ENHYPENのソヌ、&TEAMのニコラスら、多くのアイドルが同曲のダンスチャレンジに参加。
さらにBTSのJUNG KOOKまでが『GG EZ』で踊る動画を公開し、流行は一気に加速した。
JUNG KOOKは自身のSNSで、歌詞を口ずさみながら同曲に合わせてダンスを披露。余裕を感じさせるパフォーマンスに、ファンからは大きな反響が寄せられた。
M.SasukeもJUNG KOOKの投稿を自身のインスタグラムストーリーズでリポストし、王冠の絵文字と感涙の絵文字を添えて喜びを伝えている。
チャートでも存在感、話題の曲に
日本発の楽曲が、K-POP界のダンスチャレンジ文化を通じて拡散される。しかも、その流れにJUNG KOOKまで加わったのだから、話題にならないはずがない。
実際、『GG EZ』はチャート上でも存在感を示している。ビルボード・ジャパンが7月1日に公開した急上昇ソング・チャート「JAPAN Hot Shot Songs」で、同曲は7位にランクインした。
6月初旬に日本人ダンサーの振付動画が少しずつ拡散し、6月後半にJUNG KOOKが使用したことで、総合チャートでも初登場ながらトップ100入り。ストリーミングでも初登場48位に入り、動画プラットフォームから楽曲視聴へとリスナーを誘導する成功例として紹介されている。
『GG EZ』というタイトルは、オンラインゲームで相手をあおる際に使われるチャット用語から取られたものだ。
ゲーム文化とポップミュージックを結びつけたノリの良さ、短い動画に合う中毒性のあるリズム、踊りたくなる振付。それらがかみ合い、K-POPアイドルやダンスクリエイターの間で広がった。
だが、この曲にはもうひとつの顔がある。『GG EZ』は、AI技術を使って制作された楽曲でもあるのだ。
作ったM.Sasukeは、自らAIツールを活用してオリジナル曲を制作していることを明かしている。ただ、歌詞や全体のスタイリングは本人が担っているとされ、人が方向性を決め、AIを道具として使った“AI活用曲”という位置づけに近い。
その事実が知られるにつれ、SNS上では「この曲がAIの歌だとは知らなかった」という反応も広がった。多くの人にとって、『GG EZ』はまず「踊れる曲」「JUNG KOOKも踊った曲」として届いた。
少なくとも多くのリスナーにとって、AIを使った楽曲であることは後から知る情報だったようだ。
AI曲だから「やらない」とした元アイドル
そんななか、あえてこの流行に乗らなかった元K-POPアイドルがいる。ガールズグループWeeeklyの元メンバーで、現在はシンガーソングライターとして活動するシン・ジユンだ。
シン・ジユンは、ファンから『GG EZ』チャレンジを求められた際、同曲について「振付もいいし、すべていい」と前置きした。そのうえで、曲がAIによって作られたものだとして、チャレンジには応じなかった。
彼女は「聞いた瞬間、なんだかAIのようだと感じて、調べてみたらAIだった」と話し、「AIの歌はあまり好きではない」という趣旨の考えを示した。流行しているから踊る、人気があるから参加する、という選択をしなかったわけだ。
シン・ジユンの選択には、オンライン上で「クールだ」「彼女の音楽を聴いてみたい」「もっと多くのアイドルが彼女のようであるべき」といった支持の声もあった。
この反応が印象的なのは、シン・ジユン自身が“作る側”のアーティストだからだ。
彼女は2020年にWeeeklyのメンバーとしてデビューしたが、健康上の理由で2022年にグループ活動を終えた。もともと作詞・作曲ができたシン・ジユンは、2024年4月の『Yellow Light』を皮切りに、自作曲を発表しながらソロ歌手としてのキャリアを積み重ねている。
現在は所属事務所がなく、アルバムの企画、コンセプト、ディレクティング、作詞・作曲、編曲、マーケティングまで自分で行っているという。新曲発表のショーケースも自ら企画し、記者に直接メールを送ったこともあった。
あるインタビューでは、「会社がなく一人でやるので大変だが、見せたかったもの、意図したものを自由にアルバムに込められるのがいい」と語っている。
小さな拒否に感じる矜持
発表してきた曲も、自分の手で作ったものだ。『Yellow Light』『マダガスカル』『Did you love me?』などを通じて、ソロアーティストとしてのキャリアを積み重ねている。
彼女は自身の音楽について、「自分の曲で聞こえるすべてのサウンドまで、自分の手を経ていないものはない」と語ったこともある。
そうした背景を知ると、『GG EZ』チャレンジを断ったことは、単なる好き嫌いでは片づけられない。
もちろん、シン・ジユンがAIそのものを全面的に否定しているわけではない。ファンの投稿によれば、彼女は以前にもAIについて語っており、有用なツールになり得ることは否定しない一方で、人がそれに頼り切って何かを作ることには違和感を覚えているようだったという。
また、レストランなどで実在のアーティストの楽曲ではなく、無料で使えるAI楽曲が流れるようになっていることに、アーティストとして落ち込むような思いも口にしていた。
K-POPにおいて、ダンスチャレンジはもはや重要なプロモーション文化のひとつだ。流行の曲に踊ることは、楽曲にとってもアーティストにとっても拡散のきっかけになる。だが、その流れのなかで、シン・ジユンは一度立ち止まった。
彼女は、曲や振付の良さを認めたうえで、それでも「AIが作った曲」であることを理由に、チャレンジに参加しなかった。その小さな拒否には、自分の手で音を作ってきた人間だからこその抵抗感がにじんでいる。
『GG EZ』の流行は、AI活用曲がすでに大衆の耳を通過し、K-POPアイドルの身体を通じて拡散される時代に入ったことを示している。楽しむ側にとって、それがAIで作られたかどうかは必ずしも大きな問題ではないのかもしれない。
しかし、作る側に立つアーティストにとっては違う。
JUNG KOOKも踊った日本発の話題曲を、あえて踊らなかった元K-POPアイドル。その選択は目立たないようでいて、AI時代の音楽に対する作り手の矜持を映している。
