大学は「ダム」だったと指摘する声もある/写真は本文とは直接関係ありません(GettyImages)
    大学は「ダム」だったと指摘する声もある/写真は本文とは直接関係ありません(GettyImages)
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     大学がなくなると、街はどうなるのか。三重県松阪市には、その問いへの一つの答えがある。かつて学生たちでにぎわった大学が閉学し、住民は若者の姿を見なくなったという。少子化のなかで大学淘汰論が語られる一方、大学は地域に何をもたらしていたのか。朝日新書『崖っぷちの私立大学 偏差値で測れない価値をどう見抜くか』から一部抜粋してお届けする。

    【画像】「定員割れ大学」は本当に淘汰されるべきなのか…注目新書『崖っぷちの私立大学』表紙はこちら

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    大学が消えた街

     実際に大学が消えてしまった街がある。松阪牛で知られる三重県中部の松阪市だ。2013年に大学が撤退してから、街にはどんな影響が出ているのか。25年4月に現地を訪ねてみた。

     JRと近鉄が乗り入れる松阪駅からバスに乗って20分ほど。バス停のそばに、古びた周辺地図が残っていた。周辺の場所を確認すると、「三重中京大学」「三重中京大学短期大学」と書かれていた。

     三重中京大学が閉学したのは13年。隣接する同じ学校法人が経営する三重中京短期大学部も、その2年前に閉学していた。

     松阪大学という名称で1982年に開学した当初は入学定員300人。490人に増やして2年目だった99年度から「定員割れ」が始まった。2004年度には定員を200人まで減らした。

     だが09年に、翌10年度からの学生募集停止を発表した。同じ学校法人梅村学園が運営する中京大学(名古屋市)の広報担当者は、当時の三重中京大学の閉学決定について、「定員割れが続いている状況を鑑み、早めの経営判断で決断した」と答えた。

     三重中京大学の跡地近くには、今も不動産店「東洋ハウジング」がある。多い年で学生80人ほどの入居を仲介したという。

     大学ができてから周辺にはワンルームのアパートが並び、その家賃収入に頼る大家も多かったという。閉学後、学生向けの物件は空き家になったり、改装されて別の施設になったりした。

     西岡直人社長は「大学があった時はわからなかったが、実際になくなってみると若い人を本当に見ることがなくなり、みるみる活気がなくなった。でも今は、その痕跡すらなくなっている」と話す。

    大学は若者を食い止める「ダム」

     松阪市は、大学は「ダム」だった、とみる。市は県中部に位置するため、特に県南部から若者が県外に流出するのに歯止めをかけてきたと考えるからだ。

     市の18歳人口は約1400人(20年)。市外に転出する18〜19歳は、10年は59人だった。だが、大学閉学から6年経った19年には108人に増えた。24年も86人だった。

     そもそも少子化で減っている若者が流出するのを防ごうと、15年に就任した竹上真人市長が掲げたのが「大学誘致」だった。可能性を探るため、県内の高校生にアンケートを実施。回答した県内への進学希望者約1500人のうち、市内に大学ができれば「進学したい」「検討したい」の合計は74%に達した。

     松阪市の要望を受けた三重県は21年以降、有識者会議を2回設けて県立大学の新設を検討した。しかし、23年にまとまった報告書は「慎重に検討すべきだ」という後ろ向きな結論だった。理由は費用対効果の悪さ。大学を設置・運営する費用に対し、期待するほど若者を県内に定着させる効果は薄いとされた。

     22年に県内高校を卒業して大学に進学した人のうち、県内大学に進んだ割合は21・7%にとどまった。また、大学などへのアンケートによると、県内大学などを卒業して就職した人のうち、県内への就職者数は半数だけだった。

     こんな試算も示された。就職率を考慮し、大学の土地代や建設費などから算出すると、県立大学生1人を卒業後も県内に定着させるための費用は1000万円超とされた。県内企業のニーズが高い工学部出身者の場合は、約4000万〜7000万円に上るとされた。

     会議の報告を受け、県は今、大学新設ではなく、県内企業のPRやUターン促進に力を入れる。

    大学が身近にないと心配なこと

     一方、松阪市は、県外にある大学のフィールドワークやサテライトの拠点として市内施設を活用してもらうよう、誘致に動いている。大学が身近になければ、子どもの進学意欲がわかないのではないか。背景には、そんな心配がある。

     20年、市内の中学生にアンケートで大学進学への興味を尋ねると、「興味がある」「どちらかというと興味がある」の合計は約7割。身近に存在しないため、大学の学びをイメージできない子が少なくないと、市は分析する。

     そこで、中学生が近隣大学の教員らに学ぶ場を25年度につくった。中田雅喜教育長は「大学がない、という課題を突きつけられている。学びの選択肢を狭めないようにしなくては」と話す。

    (朝日新書『崖っぷちの私立大学 偏差値で測れない価値をどう見抜くか』から一部抜粋)

    【AERA Books MEMO】


    ■朝日新聞「ひらく 日本の大学」取材班『崖っぷちの私立大学 偏差値で測れない価値をどう見抜くか』


    少子化の崖が迫る2035年、あなたの大学観が覆される。「名前を聞いたことがない大学」に、いちばん丁寧な「学び」があった。諦めかけた若者たちが初めて学ぶ喜びを知り、消えゆく地方を支えている。10年・200校以上を歩いた記者が辿り着いた「真実」を記した一冊。

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