「原宿てれび。」というタイトルの番組が、この3ヶ月、CANDY TUNEのファンを中心に、ちょっとした注目を集めていたのをご存じでしょうか。

    この「原宿てれび。」は、CANDY TUNEが演技に初挑戦するデジタル番組として、日本テレビが企画をリードする形で4月3日から配信されていたコメディ番組です。

    ただ日本テレビが携わっているにもかかわらず、その番組は地上波で放送されるわけではなく、YouTubeで毎週金曜日18時に番組が更新されていたのが最大の特長と言えます。

    実際に番組を見て頂くと、テレビでお馴染みの錦鯉の渡辺さんと長谷川さんが出演していることもあり、テレビで放送されている番組と思ってしまうレベルの映像になっているのですが、実際にはこの番組はYouTubeでしか視聴できないという仕組みになっていたわけです。

    この番組は、デジタルシフトが進む日本のテレビ視聴環境の中で、テレビ局による一つの興味深い挑戦ということができますので、ご紹介したいと思います。

     

    日本でも着実に進み始めているテレビの地上波離れ

    これまで日本は世界的に見ても非常に地上波のテレビ局が強い国という構造を維持してきました。

    アメリカでは、Netflixの世帯普及率が50%〜60%といわれているように、すでに何かしら配信サービスを契約しているのが普通ですが、日本ではながらく有料動画サービスには500万の壁があると言われていたほどで、無料の地上波放送になれた日本国民は、有料の動画配信サービスにはシフトしないのではないかと言われていたほどです。

    しかし、今や時代は大きく変わりました。

    テレビの視聴率は下がり続けており、1990年代に70%以上あったゴールデンタイムの総世帯視聴率はついに47%台まで、20ポイント以上低下しているのです。

    (出典:不破雷蔵 主要テレビ局の視聴率推移グラフ)(出典:不破雷蔵 主要テレビ局の視聴率推移グラフ)

    参考:各局とも下落続くが…主要テレビ局の複数年にわたる視聴率推移(2026年5月公開版)

    逆に存在感を増しているのがネットの動画配信サービスです。

    2024年にはNetflixの日本国内の有料会員数が1000万を超え、オリジナルドラマ「地面師たち」の「もうええでしょう」が流行語大賞のトップ10入りを果たしたり、Netflixで独占配信されていた「タイプロ」こと「timelesz project」が大きな話題になるなど、地上波並みの存在感を果たしはじめています。

    また、コネクテッドテレビにおける利用時間で見ると、2024年にはYouTubeが日本テレビを抜いて1位を獲得。

    (出典:REVISIO)(出典:REVISIO)

    すでにYouTubeが、無料で視聴できるテレビチャンネルのリーダー的存在になりつつあるのです。

     

    テレビ局でも進み始めたYouTube活用

    当然こうした変化に対して、テレビ局も何もしていなかったわけではありません。

    番組の宣伝や一部のスピンアウト番組をYouTubeで流すケースも増えましたし、最近では日本でもメーテレの「ハピキャン」のように、地上波でも放送している番組をYouTubeにも流すケースが地方局を中心に徐々に増えてきているところなのです。

    参考:テレビ局がYouTubeに力を入れ始めた

    特に地方局においては、これまで自分達の番組を日本全国に視聴してもらうことが難しかったことを考えると、YouTubeで番組を配信することは自分達のエリア以外の視聴者にも番組を見てもらえるということでメリットが明確な取り組みとも言えます。

    一方、今回のCANDY TUNEと日本テレビによる「原宿てれび。」は、こうした地上波とYouTubeの併用の取り組みをさらに一歩進めて、地上波では放送しない番組作りという新境地に足を踏み入れたことになります。

    「原宿てれび。」はコントの舞台がテレビ局として設定され、1%以下の低空飛行の視聴率をいかにあげるかという戦いをテーマにしつつ、その番組自体はテレビの地上波ではなく、YouTubeで配信されるというメタ構造にもなっているわけです。

    視聴者の人数の多さよりも、熱量の高さを重視?

    現時点での「原宿てれび。」の番組の視聴数は多いもので26万を超える状況となっており、スタートして3ヶ月のYouTubeチャンネルの動画再生数としては、良い数値を叩き出していると言えます。

    一方で、テレビ局の番組であれば視聴率1%でも100万人近い人が視聴する可能性があることを考えると、この数値を多くないと考えることも出来るでしょう。

    ただ、興味深いのは「原宿てれび。」の様々な施策が、単純に視聴数を多くするのでは無く、ファンの熱量の高さを重視する方向に向かっている点です。

    象徴的なのは、7月1日に「原宿てれび。」が豊洲PITで開催したリアルイベントです。

    これは収録で使ったセットを豊洲PITに再現して実施された舞台で、CANDY TUNEが芝居やバラエティ、生歌を披露するという盛りだくさんの有料イベント。

    1万円前後のイベントのチケットは、平日開催にもかかわらず多くの来場者を集め、有料のオンライン配信も実施されていたのです。

    筆者も、日本テレビさんにご招待いただき関係者席で拝見させて頂きましたが、ファンの方々の熱量が凄まじく高いのにビックリしましたし、特に驚いたのはCANDY TUNEのファンの方々がメンバーだけでなく、錦鯉のお二人など出演者にも大きな声援を送っていたことでした。

    3ヶ月の間「原宿てれび。」を視聴してきたことで、CANDY TUNEのメンバーだけでなく、それ以外の出演者に対しても親近感が湧いていたことを象徴するシーンだったと感じています。

    ファンにとって「原宿てれび。」は、CANDY TUNEの新たな魅力を発見する場でもあり、CANDY TUNEを軸にさらに幅広い人達との出会いや繋がりを生む場所になっていたようにも感じます。

      

    スポンサーのついたタイアップ動画も公開

    当然、日本テレビ側としてはイベントを開催するためだけに「原宿てれび。」を制作しているわけではありません。

    興味深いのは、イベント翌日に早速サントリーがスポンサーとなったタイアップ動画も「原宿てれび。」のYouTubeチャンネルに公開された点です。

    当然、これは単純に表現するのであれば「広告動画」なのですが。

    「原宿てれび。」の出演者であるCANDY TUNEのメンバーが、これまでの番組の雰囲気そのままに、サントリーの商品「鏡月Green」を紹介しているのが特徴です。

    通常のYouTubeで表示されるような動画の視聴を「邪魔する広告」ではなく、CANDY TUNEとファンが一緒に楽しむことができる広告になっているわけです。

    動画のコメント欄を見て頂ければ、この広告がいかにファンの方々に歓迎されていることが分かると思います。

    こうしたアプローチができるのも、「原宿てれび。」がいたずらに過激なコメントなどでバズって視聴数を増やす番組ではなく、ファンの熱量の高さを重視しているからこそと言えるでしょう。

    日本テレビとしても新しいビジネスモデルの模索の一つになるはずです。

     

    テレビ局ならではの相乗効果も模索

    なお、こうしたYouTube専用の番組作りは既に多くの事業者が挑戦しており、今さらテレビ局が参入してきたからといって目新しくないと考える方もおられるかもしれません。

    ただ、今後注目すべきはこうしたテレビ局のYouTube番組と、地上波の番組の連携が進化していくことです。

    実は「原宿てれび。」でも、イベント当日の朝の情報番組「Oha!4」に、「原宿てれび。」でアナウンサーを演じる緋杏さんが出演し、その様子をまたYouTube番組にも配信するという模索がされています。

    実はこうしたYouTube番組と地上波の報道番組の連携というのは、これまでもNiziUやBE:FIRSTが誕生する際のオーディション番組などを中心に、様々に実施されてきた歴史があります。

    実はYouTube番組でも、十分に話題化できれば地上波なみに大きな話題にすることができるというのは、昨年YouTubeで配信された「No No Girls」から誕生したHANAが、チャートで新記録を連発するほどの大きな人気を博したことが象徴的と言えるでしょう。

    参考:「声と人生」を評価し続けた「No No Girls」は、オーディション番組の常識を変える

    実は振り返ってみると「No No Girls」も、本編はYouTubeで配信されつつも、日本テレビの深夜枠で公式応援番組「No No Girls Night」が放送されるなど、YouTube番組をメインにしつつ、地上波でYouTube番組を紹介する構造でした。

    「原宿てれび。」は、そうしたYouTube番組を地上波でブーストする取り組みを、オーディション番組ではなく、CANDY TUNEという現役アイドルグループのバラエティ番組でも再現しつつあると言えるのかもしれません。

     

    「テレビ離れ」ではなく「地上波離れ」

    今回の「原宿てれび。」の取り組みや、「No No Girls」などのオーディション番組の成功を振り返ると、実は現在日本で起きていることは、決して「テレビ離れ」ではなく、あくまで「地上波離れ」であることが見えてきます。

    最近はNetflixのランキングも、テレビ局の地上波のドラマが上位を占めることが珍しくないように、テレビ局が制作する面白い番組はNetflixやYouTubeでも間違いなく視聴されるわけです。

    もちろん、CANDY TUNEと日本テレビが挑戦した「原宿てれび。」は、まだまだ実験的な取り組みであり、この取り組みがテレビ局の未来を支える一つのビジネスモデルになり得るのかはまだ分かりません。

    (出典:原宿てれび。公式Xアカウント)(出典:原宿てれび。公式Xアカウント)

    ただ、豊洲PITイベントでのファンの熱狂的な盛り上がりや、タイアップ動画でのあたたかいコメントの数々を見る限り、この「原宿てれび。」のアプローチに間違いなくネット時代のテレビ番組の一つの可能性が詰まっていることは間違いありません。

    イベントの際のCANDY TUNEのメンバーの口ぶりを聞く限り、間違いなく「原宿てれび。」の挑戦は今後も続きそうですので、引き続き楽しみにウォッチしたいと思います。

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