
入り口すぐのメインの平台に平積みで展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。
今回は、定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。ビジネス書の売れゆきは好調が続いている。マネジメントや企業変革に関する本への関心が高いという。そんな中、書店員が注目するのは、大きな株価上昇で注目を集めるキオクシアホールディングスの企業価値向上を支えたPEファンド、ベインキャピタルが自身の手法とその強みを、事例を基に解き明かした一冊だった。
経営陣と共に企業価値を高める投資家
その本はベインキャピタル『ベインキャピタル 企業価値向上力の秘密』(日経BP)。著者となっているベインキャピタルは2006年に日本オフィスを開設し、キオクシアをはじめ、大企業から中小企業まで40を超える投資案件を国内で手掛けてきたPEファンドだ。
どのような考えで案件を決め、それぞれの企業の価値向上を進めてきたか。これを自ら明らかにしたのが本書だ。巻末には同社の日本代表・アジア太平洋代表を務める杉本勇次氏、日本プライベート・エクイティ共同責任者の末包昌司氏、西直史氏が名を連ねている。
PEファンドとは何か。「企業の株式を引き受け、経営陣と一緒に企業価値を高めることを目指す投資家です」。序章で杉本氏は自社のことをこのように伝えると書いている。「企業がもともと持っている優れた技術や製品・サービスの力を、客観的な外部の視点と資本の力を借りることによって、さらに引き出す。そのために経営陣と共に考え、現場まで入り込んで改革を進める」。これがあるべき姿とも語っており、伴走型の経営改革支援にこそ、PEファンドの本質的な役割があると強調されている。
ファンドと言えば、買いたたいて高く売り抜ける「ハゲタカファンド」のイメージがいまだ強く残っている。そうではなく、PEファンドは企業の価値向上のパートナーであることを具体的に伝えたいという思いが本書の随所から湧き上がってくる。そのことは、本書の大半を占める第1部で取り上げた9つの企業事例にとりわけ顕著だ。
3つのケース、9社の事例から浮かぶ強み
9つの事例は、企業が本来持っているポテンシャルを最大限引き出した「企業価値向上支援のケース」、投資時に大企業グループの非中核事業を切り離して再成長させた「カーブアウトのケース」、創業者の事業承継やアクティビストへの対策を講じた「創業家・アクティビスト対応のケース」の3つに分けて紹介している。
企業価値向上支援ではすかいらーくホールディングス、「雪国まいたけ」で著名な地域企業、ユキグニファクトリー、介護業界トップのニチイホールディングスと名の通った企業3社の企業変革が描かれる。
カーブアウトではキオクシア、プロテリアル、ヨーク・ホールディングスと現在進行形の案件が並ぶ。再成長の度合いや段階は様々だが、時価総額が日本企業のトップ3にまで高まったキオクシアをはじめ、ここで描かれた成果と退出後の成長までを視野に入れた支援策は、同社の施策の引き出しの多さと確かな分析力を分かりやすく伝えている。
資金力とコンサルティング出身という背景を生かした経営力、さらに世界展開とこれまでの経験を掛け合わせたネットワーク力――本書から伝わってくるベインキャピタルの強みは、日本の産業再生を前に進める大きな力になると読者は感じるだろう。
「周辺には金融関係の会社も多く、PEファンドへの関心が高いようだ。新宿や大阪・梅田といった大規模店舗に次ぐ売り上げになっている」と店長の瓜生春子さんは話す。
4位に『フィードバック経営』
それでは先週のランキングを見ていこう。
(1)年収を10倍にする 8つの実学青木龍著(マネジメント社)(2)奇跡のプロジェクト 図書館が街を変えた!高井昌史著(東洋経済新報社)(3)部下をもったらいちばん最初に読む本橋本拓也著(アチーブメント出版)(4)フィードバック経営三村真宗著(日経BP)(4)ベインキャピタル 企業価値向上力の秘密ベインキャピタル著(日経BP)
(紀伊国屋書店大手町ビル店、2026年6月22~28日)
1位は不動産売買のトップセールスから独立起業した著者が語る行動哲学の本。「本の力」を中心にした街づくりを提言する同書店会長の本が2位に入った。3位は、2万人への研修実績を誇るコンサルタントによるマネジメントメソッドの解説書。4位は、「働きがいのある会社」ランキングで7年連続1位になった経営者による、対話が生まれる組織づくりを説いた本だ。今回紹介した『ベインキャピタル 企業価値向上力の秘密』は5位だった。
(水柿武志)
