古くから雪国で語られてきた“白い存在”。
それが何なのか、確かなことは誰も知らないが、“それ”を感じた瞬間から、人の視線は狂い、行動は歪み、日常は静かに、しかし一気に壊れていく──。
『ミスミソウ』(18)、『許された子どもたち』(20)の内藤瑛亮監督最新作『氷血』(7月3日公開)は、雪に閉ざされた世界を舞台に、家族の平穏な日常が突如“白い怪異”に侵されていく《侵蝕感》ホラー。
北山宏光がホラー映画初主演を務め、元BiSHのセントチヒロ・チッチこと加藤千尋がヒロインを演じる。観る者の五感を恐怖で侵す本作のメインキャスト二人に話を聞いた。
撮影/久保田 司
スタイリスト/柴田 圭【北山】
石谷 衣(BOWWOW)【加藤】
ヘアメイク/大島智恵美【北山】
久慈 愛【加藤】
インタビュー・文/瀧田有子
衣裳/【北山】ネックレス¥94,600-、バングル¥198,000-、リング¥165,000-:すべてSHINGOKUZUNO(Sian PR 03-6662-5525)
その他スタイリスト私物
ホラーというジャンルのエンタメをみんなでちゃんと作っているってすごく感じました
──本作のオファーを受けて抱いた率直なお気持ちと、脚本を読まれた感想からお聞かせください。
北山「ホラー映画は、自分としては初挑戦だったということと、環境を変えて一発目の映画だというご縁も感じたので、“また新しいことに飛び込んでいくっていいことだな”と思い、ちょっとワクワクしました。脚本を読んだ時は、文章ベースのものと映像でホラーを演出するというのが、結びつくようで結びついてなかったんです。〈雪景色〉と書かれていても、“どれだけの雪なんだろう……”ってこともそうだし、想像がつかないこともあったので。稔の人物としての怖さを掘っていこう、人物としての怖さを深くしていくことにトライしようかなと思いました」
加藤「私はホラーが大好きで、内藤(瑛亮)監督の作品のファンでもあったので、お話をいただいた時は本当に嬉しかったし、絶対に成し遂げたいと思いました。“どんな作品なんだろう!”ってワクワクしながら脚本を読ませていただいたら、本当に〈怖い〉という形がいろんな形であって、叫び声みたいなワードが飛び交っていて。“これってどんな感じなんですか?”って監督に聞くと、やってくださるんです。それが結構可愛くて好きでした(笑)」
──出来上がった映像を観ての感想はいかがでしたか?
加藤「美しかったですね。雪景色をスクリーンで観た時にすごく綺麗だったし、音へのこだわりも感じて。五感で感じられる映画だなと思いましたし、佐野(史郎)さんが圧巻でした。“怖い〜、好き〜”って思いました(笑)」
北山「映像で温度感がちゃんと伝わるんだなっていうのが、僕としては驚きというか。ものすごく暑いところでロケして汗だくになってっていう映像を、家のクーラーが効いた部屋でビール飲みながらテレビで観る時に、そこにはボーダーラインが絶対的に存在しているんですけど、この作品を観た時、何かちょっと飛び越えてくる感覚があって。そういう作品を世に放てるということが、僕はとても嬉しかったし、加藤さんが“五感で”って言ってましたけど、たしかにそんな感覚だったなと思いました」

──映像もそうですが、音も結構怖いなって。
北山「そうですよね。そこって台本上では記されていない部分なので、そういうところにも監督のこだわりがあったのかなって。あと、やっぱり好きな人には勝てないっていうかね。それをこだわりとしてとても僕は感じました」
──ホラー好きにはたまらない感じでしたか?
加藤「たまらなかったです。アフレコをとる作業があったんです。そこで叫び声を私も入れさせてもらって、この作品の中でその声がたびたび聞こえるんですけど、叫び声を出すのがたまらなく楽しかったです。いろんな場面で自分が思い描いていた怖いっていう子たちを一緒に作れた気がして嬉しかったです」
──この作品って、ホラーではありますが、リアルに感じる部分が多い物語だなと思ったのですが。
加藤「そうなんです。人が一番怖いって私は思っているんですけど、その怖さをじわりじわりと押し込んでいく感じで表現しているのが内藤監督らしいと思います」
──北山さんが演じた稔、加藤さんが演じた悠希は、どちらも二面性というか、穏やかに見える時と怖く見える時がありましたが、演じる上で大事にしたこととか、難しかったところというのはどうでしょうか。
加藤「悠希は、基本的には弱さがあって、孤独がずっと見えている女性だと思うので、最後の最後に強さが湧き出てくる、耐え抜いた先に爆発したっていう感じが出せたらなって思っていました。ホラーは最終結末の時に、無双モードがあるんです。女の子とかが最後めちゃくちゃ無双で、全員を叩きまくって、颯爽と帰るみたいなのがあって、それが大好きなんです。(本作も)“これは……これだ!”って(笑)」
──いい顔をされていましたよね。ということは、好きなタイプのホラーを体現できたのでは?
加藤「悠希は本来そうではないんだけど、怖い側に回るシーンがあったので、そのシーンはすごく楽しかったです。あとは、自分の中でもこうしたいっていうものはあったんですけど、監督とも結構話して、首とか腕の角度とか角度とかをこだわったり、スピード感を研究したりしました」
──これまで培ってきたものが役立ったというか……。
加藤「大活躍でした(笑)」
──撮影に入る前に観返したホラー作品などはありましたか?
加藤「“これを観ておいで”って言ってくださった作品を観たりとか。『ババドック~暗闇の魔物~』なんですけど」
──それは北山さんも言われて?
北山「僕はホラーが苦手なので、薦められることはなかったです(笑)。『ミスミソウ』(内藤瑛亮監督作品)は観ましたけどね」
──『ミスミソウ』は大丈夫だった。
北山「ギリギリ。驚かされたりするのがあまり得意じゃないんです。でも、それこそ無双モードというか、最後のほうにあったじゃないですか。あのことを〈無双モード〉と言うんだって、今知ったんですけど」
加藤「私が勝手に呼んでるだけです(笑)」
──北山さんは、演じる上で意識されたことなどは?
北山「“何パーセント”っていう言い方を監督としてたんだよなぁ。“どれぐらいの割合ですか?”何パーセントぐらいを今出します”という微調整をずっとしていました。最初は“何かあるのかな……”というフックが、後半に行くにつれて“あれ……?”っていう違和感を与えていく時に、それを引き算する時もあるし、“じゃあ、ここで”っていう時もあって、そこで二面性というものを考えていました」
──基準があって、そこから繊細に。
北山「そうですね。ちょっとずつ揺らしていくというか」
──稔は演じがいのある役だったんじゃないですか?
北山「楽しかったですし、ホラーというジャンルのエンタメをみんなでちゃんと作っているってすごく感じました。だから観る方も、怖いっていうのはもちろんあるんだけど、これもエンタメであるっていうことを理解して観てもらえるといいなって思いました」
蝕まれるような感覚がある、内藤瑛亮監督ならではの作品がまた生まれたなと思っています
──北山さんと加藤さんは初共演となります。互いの印象を聞かせてください。
加藤「北山さんは本当に誰とも分け隔てなく接して、落ち着く空気を作ってくれる方なので、だからこそ現場では一致団結感が出たと思うし、役に入った時ガラッと空気が変わる感じはすごくドキッとして、私も奮い立たされる感じがしました。役柄的にはちょっと怖いんです。でも、そこからカットがかかった時に安心するんです。ちょっとおしゃべりをしてくださったりするので、それも楽しみながらみんなで撮影できたのではないかと思います」
北山「加藤さんは、音楽シーンでももちろん知っていたので“どんな方なのかな?”と思っていたら、猫のような……最初の頃、人見知りだから、そーっと(笑)。でも、“あまり映像をやったことがない”っていうところからやられていたので、なんでもできる方なんだなぁという印象を受けました。感性ってあるじゃないですか。感性とそれを肉体で体現するって、ここが結構難しいんですけど、それがとても上手くて、すごいなぁって。俺は1回目、2回目の映像の時なんか、そんなんでいられなかったから」
加藤「ありがとうございます」

──稔と悠希の幼い息子・晶を演じた山谷碧都さんも熱演されていました。撮影現場ではいかがでしたか?
加藤「天津爛漫、おてんば系でしたよね」
北山「そうだね。朝、“おはよう”って言うと、たまに(プイっというしぐさをして)振られる(笑)」
加藤「タタタタタって走って(笑)。プラレールが好きで、プラレールをあげるとちょっと喜んでくれる。誕生日が撮影期間中にあったんですよ」
北山「プラレールで機嫌をとりました(笑)」
加藤「お母さんが大好きな男の子。でも、プロだなと思いました。カメラが回ったら、しっかりお芝居をする」
北山「本当にそう。(銀世界の)湖の横を薄着で歩くんですけど、僕たちもガチガチなのに、“これ、子供に耐えられる寒さなのか!?”っていうところで、“寒い〜、寒い~”とは言ってるけど、逃げないんです。で、“よーい、スタート!”って言ったらお芝居をして、“カット!”って言ったら、ブワーって走って車の中に逃げ込む(笑)。でも、本番ではちゃんとやっていたから、“すごいな。僕があの年齢じゃ無理だったな”と思いました」
──あと、内藤監督の印象もお聞きしたいのですが。
加藤「監督、可愛いんです。奥さんが手縫いした手袋と帽子をいつも身につけて」
北山「「ゲゲゲの鬼太郎」のシリーズのTシャツ着てたよね」
加藤「着てたかも。ねずみ男か何かの」
北山「監督は好きなことがハッキリしている方だったかもしれない。が故に掘っていってる感じがある」
──やりたいことはコレというのがハッキリしていた上で演出されているんですかね。
北山「たぶんそうだと思います。編集まで、音まで頭にあったんじゃないかな」
──本作の公開を楽しみにされてる方へ、お二人からメッセージをお願いします。
加藤「『氷血』は〈侵触感ホラー〉というキャッチコピーが付いているんですけど、本当に蝕まれるような感覚がある、内藤監督ならではの作品がまた生まれたなと思っています。ホラーが好きな人にもちゃんと怖がってもらえる部分もあり、だけど家族とか愛情みたいなものにフォーカスを当ててみると、人間としてのドラマがある作品なので、最後には光が見えるのではないかと私は思っています。散りばめられた監督のホラーへのこだわりも注目して、発見がたくさんあると思うので観てほしいです」
北山「圧倒的な画の壮大さの中から霊気を体感できるような作品になったんじゃないかなって思っていますし、ホラーというジャンルの中でも、人対人の怖さっていうのが二軸として走っているので、ただ怖いだけじゃない作品になっていると思います。〈侵触感ホラー〉っていうのもありますけども、ちゃんとエンタメであるということが、この作品を観るにあたって心得ていてほしいというか。僕としても(役柄が)あんな感じになっていくので、エンタメとして観ていただけたらいいなと思っています」
──最後に作品にちなんだ質問を。『氷血』は、血も凍るような感覚に陥る〈侵触感ホラー〉作品ですが、ご自身の中で血も凍るようなゾワーっとした出来事があればお聞かせください。
加藤「これは現実じゃないんですけど、私、毎日夢を見るんです。その夢、絶対覚えてるんですよ。で、本当に覚えておきたい時はメモをするんですけど、最近よく見るのが飼ってる猫が逃げ出す夢で。逃げ出してもうどうしようってなってる時に目が覚めるから、いっつも震えながら起きるんです。夢は自分の心を教えてくれるというから、怖いと思っていることが夢の中で起きるんだと思っています」
北山「僕は最近、料理を始めようと思って、食材を買うようになったんです。なので、冷蔵庫を整理しなきゃダメだなと思ったんです。整理をしたら、3年ぐらい前の冷凍焼けしたステーキが出てきました……。たぶん、もったいないから冷凍したんだと思うんです。それが出てきた。“うわっ、俺はこんなに冷凍庫開けてない男なんだ!”って背筋が凍りました(笑)」
PROFILE
北山宏光 HIROMITSU KITAYAMA
1985年9月17日生まれ、神奈川県出身
2023年、TOBEと共に新しいエンターテイメントに挑戦していくことを発表し、1stシングル「乱心-RANSHIN-」でソロデビュー。ソロアーティストとしてはもちろん、俳優としても精力的に活動に取り組んでいる。本作は2本目の映画主演作品。
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加藤千尋 CHIHIRO KATO
5月8日生まれ、東京都出身
2015年より「BiSH」のメンバーとして活動。グループ解散後、女優としての活動も開始。2022年から音楽活動として「CENT」名義でソロプロジェクトを開始。2025年8月にはミニアルバム「らぶあるばむ」でメジャーデビュー。
作品紹介


『氷血』
幼い息子・晶を連れて、豪雪地帯にある夫の実家に移住した稔(北山宏光)と悠希(加藤千尋)。
穏やかな日常を願った二人だったが、認知症の父・茂(佐野史郎)は、なぜか悠希にだけ激しく怯え、亡き妻の名を叫ぶ。
ある朝、茂は異常な姿で怪死する――。
その瞬間を境に、家族は疑念と恐怖に苛まれる。やがて家の中には不気味な“白い女”が次々と現れ、日常を侵していく。
稔は気が触れたかのように、“白い女”の絵を描き続け、幼い晶の目には母の姿が次第に“別の何か”へと映りはじめ、家族は一人、また一人と壊れていく――。
雪の結晶に魅入られ、理性を失った稔、侵蝕される悠希、そして危険にさらされる晶.。これは、呪いか、幻想か、それとも現実なのか。
雪原が鮮血に染まる時、未知の“白い恐怖”が姿を現し、残虐に暴走する――。
出演:北山宏光 加藤千尋
山谷碧都/佐津川愛美 福島リラ 渡辺 哲
佐野史郎
監督:内藤瑛亮
脚本:片桐絵里子 内藤瑛亮
配給:ショウゲート
7月3日(金)全国公開
Ⓒ2026映画「氷血」製作委員会
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