【著者に聞く】『おつむの良い子は長居しない』の髙嶋政伸が語る、狂気が許された時代と本物の俳優の条件
料理番組「ごちそうさま」に出演する往時の高島忠夫さん(左)と寿美花代さん(写真:共同通信社)
芸歴40年を迎えた俳優の髙嶋政伸氏は、子どもが生まれてから次々と頭の中に文章が浮かぶようになり、詩や短編小説などを書き始めた。その文才を評価した小説家の川上未映子氏の後押しもあり、政伸氏はこのたび、生活や仕事、家族との日々をつづったエッセイ集を刊行した。そこからは芸能一家に生まれたサラブレッドからは想像できない愚直なまでに一途な役者魂が垣間見られる。『おつむの良い子は長居しない』(新潮社)を上梓した髙嶋政伸氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──最初に目指したのは役者ではなく映画監督だったと書かれています。どのようにして役者を目指すようになったのですか?
髙嶋政伸氏(以下、髙嶋):監督2作目の作品で280万円の借金を抱えました。当時の僕はまだ19歳か20歳でしたから、この金額は途方もなく、今の僕の感覚だと億単位ぐらいの重たさに感じられました。そのほとんどが編集代でしたね。請求書をいただいたときにガビーンという感じでした。
ジャズクラブのボーイやカラオケパブの店員など、さまざまなアルバイトをしながら映画を撮っていましたが、そうした仕事ではこの借金はとても返せそうにない。当時の僕としては、親からお金を借りずに自分でやりくりしたいという気持ちもありました。そこで友達から紹介されたのが死体洗いのバイトでした。
医療施設の薬品の入ったプールに複数の遺体が沈んでいて、水面まで浮上してくるとモップのようなもので押し沈める。それを一晩中繰り返して、1回1万5000円ほど稼げる仕事でした。しかも、かなり臭いがキツく、1回やると死臭が取れなくなる。これはちょっとと思い、断念しました。
次に友達が紹介してくれたバイトが、医療研究のために意図的に腕の骨を折って、骨折の瞬間を連続写真で撮るというものでした。1本折ると40万円だそうです。麻酔で痛みを感じないようにして、機械に腕を入れると、バキバキバキっと骨を折られる。
もちろん、その後の医療的な手当ては受けられますが、右腕40、左腕40、右足40、左足40、両腕両足全部折っても160万円ですからまだ足りません。少なくともそれなりの期間は体が動かなくなるし、どう考えても無理だと思いました。
友人はさらっと「まぁ、本当にやる人は、やらなかったら一家心中ぐらい追い詰められている人だから」と言い、初めて本当の世間と出会った気がしました。
次に知り合いから紹介された仕事はあまりにも怪しげな運び屋の仕事でした。「横浜埠頭まであるバッグを運んだら20万円」で、それが上手くできたら、今度は「人間サイズのバッグを横浜埠頭まで運ぶと100万円の仕事もある」と言われました。どう考えてもバッグの中身は人間です。
──現在で言うところの、闇バイトの運び屋みたいな内容ですね。
髙嶋:1985年頃の話です。もちろん辞退いたしました。結局バッグの中身が何だったのかは分かりません。
