ディズニープラスで配信中の『ラブストーリー ジョン&キャロリン』と『一流シェフのファミリーレストラン』から海外ドラマの“いま”を読み解く。
懐かしいはずなのに、どこか新しい。近年、ファッションや音楽、映像作品などの領域で、1990年代後半から2000年代前半の空気感が改めて注目を集めている。日本で続く「平成リバイバルブーム」はその象徴ですが、同様の動きはアメリカのエンターテイメント業界にも広がっている。こうした作品に共通するのは、「大人世代には懐かしく、Z世代には新しい」という感覚だ。
過去のカルチャーが単なる回顧ではなく、あたらしい価値として再発見されていることこそが、いまのトレンドを読み解く鍵となっている。当時を知る世代にはノスタルジーを、若い世代には活気に満ちていた時代への憧れを抱かせる。
ファッションも社会現象に—ドラマから生まれるトレンド

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その代表例が、今年2月にディズニープラスで配信されたジョン・F・ケネディ・ジュニアとキャロリン・ベセットの世紀の愛と悲劇的な顛末を描いた実話に基づくドラマ『ラブストーリージョン&キャロリン』。
90年代カルチャー満載の本作のヒットをきっかけとして、独身男性セレブとして人気を博したJFKジュニアの人気が再燃。ニューヨークではそっくりさん大会が開かれたほか、テレビ局で特集番組などが組まれた。またキャロリンが勤めていたアパレルブランド、カルバン・クラインのミニマルなスタイルや、彼女が好んで着用していたヘッドバンドを用いたヘアスタイルなどが、SNSを中心に若者の間で大流行。カルバン・クラインの親会社PVHCorp.は本作の影響で売り上げを伸ばしたことを認め、経済誌にも取り上げられた。
輝いていた時代を懐かしむミレニアム世代と、キラキラしていたであろうニューヨークのエネルギーに夢を抱くZ世代の双方から、熱い支持を得ているシリーズだ。
こうした傾向は、2006年公開の第1作で描かれた雑誌文化の黄金時代を思わせる続編『プラダを着た悪魔2』や、2001年のヒット映画『キューティ・ブロンド』の前日譚ドラマとして1995年を舞台に描かれる『エル』などにも共通している。いずれも当時のカルチャーが満載でトレンドを象徴する作品と言える。
今見るべき海外ドラマはこれ

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もっとも、これらの作品が支持される理由は、単なる懐古趣味だけではありません。時代の空気やカルチャーを入り口にしながらも、どの時代を舞台にしていても、人間の普遍的なドラマにフォーカスして「今の時代に語るべき物語」に真正面から向き合っているからこそ、多くの人の心を動かしている。その意味で、6月26日からディズニープラスで最終章となるシーズン5の配信が始まる『一流シェフのファミリーレストラン』は、濃密な人間ドラマを“どこか懐かしくもスタイリッシュ”な映像で描いた、2020年代のアメリカドラマを代表する一本と言える。
本作は、世界的なレストランで活躍していた若きシェフ、カーミーことカルメン・”カーミー”・ベルツァットが、兄の遺したサンドイッチ店を立て直すため故郷シカゴへ戻るところから始まる。クセの強い仲間たちとの衝突や協力を経て、店を「ザ・ベア」として再出発させるべく奮闘する。
料理シーンは美しく、映像はスタイリッシュ。厨房の緊張感は圧倒的なリアリティに満ちている。しかし、本作の真価は料理そのものではなく人間を描くことにある。レストランの再建を軸にしながら、家族や仕事仲間との確執、自己実現への葛藤といった重い題材が独特のユーモアとともに描かれる。特にカーミーと母親を中心としたベルツァット家の物語は本作の重要な柱だ。
今見るべき海外ドラマはこれ

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シカゴ都市圏で育ったクリエイターのクリストファー・ストーラーは、幼なじみの家族が経営する実在の人気店「Mr.Beef」をモデルに本作を構想した。90年代に青春時代を過ごした彼の感覚は、劇中で使用される当時のヒット曲や作品全体の空気感にも色濃く反映されている。
ストーラーは本作について、「家族とコミュニティの物語を描きたかった」と語っている。フランチャイズ化が進む以前の家族経営の店への郷愁や、地域コミュニティの結びつきへの愛着。それらを土台にしながら、主人公たちはミシュランの星を目指して前進していく。その過程で、カーミーは実の家族との関係を見つめ直す一方で、職場の仕事仲間とも家族のような絆を築いていく。
最終章となるシーズン5について製作陣は「彼らは最終的に、レストランを完璧にするのは料理ではなく、人なのかもしれないと気づいていく」と語っている。シーズン1から続く「完璧なレストランとは何か」という問いは、シーズンが進むにつれて「家族とは何か」「人生で本当に大切なものは何か」というテーマへと広がっていきます。経営危機に陥った「ザ・ベア」はどうなるのか。そして、その店に集う人々の関係はどこへ向かうのか。彼らの人生を見守ってきた視聴者は、最終章で登場人物たちとのお別れに胸が痛くなるほどの瞬間を見届けることになるだろう。
(監修・今祥枝)
