
連続テレビ小説「風、薫る」第65回で解雇を告げられた三浦ツヤ(東野絢香)=中央=(C)NHK
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【牧 元一の孤人焦点】NHK連続テレビ小説「風、薫る」で看病婦・三浦ツヤを演じる俳優の東野絢香(28)がインタビューに応じ、ツヤの解雇に至る第65回(6月27日放送)の芝居などについて語った。
「解雇されるシーンで、どの選択肢を取るか、ぎりぎりまで悩みました。衝撃に反応するまでどのくらい時間がかかるのか…。自分のために頑張ってくれたりんさんの前で崩れるのか…。結局、答えが見つからないまま本番を迎えました」
6月22日からの第13週で、ツヤは看護婦を志し、りん(見上愛)の支援を受け、働きながら勉強を始める。ところが、疲弊し、患者への投薬を忘れ、患者の容体を悪化させてしまう。
院長の多田重太郎(筒井道隆)が下した結論は解雇だったが、放送されたシーンでは、ツヤはりんの隣で解雇を告げられた時、濃い反応を示していない。
「あの場で感じた気持ちにうそがないように演じました。ツヤは自分が解雇されるなんて思っていなかった。でも、まさか私が解雇されるなんて!という気持ちより、やはり私はダメなんだ…という気持ちが勝っていた。虚無感、空っぽの感じがありました」
りんを残して院長室を後にしたツヤは廊下で直美(上坂樹里)と出くわす。そこで初めて表情を崩し、「解雇となりました」と涙ぐむ。
「あの時、ふいに崩れました。自分のために最も頑張ってくれたりんさんの前で悲しめば、りんさんを傷つけることになる。見守ってくれていた直美さんに出くわして感情があふれ出たのだと思います」
その後、ツヤはりんと対面する。りんがツヤに対して謝罪すると、ツヤは「私、あきらめませんから。勉強を続けて、どうにかして、看護婦になります」と話す。すると、りんは恩師・バーンズ(エマ・ハワード)が残した大切な書物をツヤに手渡す。ツヤはページをめくって目を通し、「全部英語!?」と尋ねる。りんが「はい」と即答すると、ツヤはかすかに笑みを浮かべた後、涙ぐみ「頑張ります。ありがとうございます」と頭を下げる。屈指の名場面だ。
「いろんなものが詰まったシーンです。ツヤはお世話になったりんさんに謝らせたくなかった。元気づけたくて『看護婦になります』と言う。でも、自分ではなれると思っていない。けれど、りんさんはなれると思って、大切な本をツヤに手渡す。ツヤは本を開いた時、りんさんに本当に期待してもらっていることを実感する。『全部英語!?』と尋ね、りんさんが『はい』と答えた瞬間、本当に二人の心が通じ合ったと思います。私自身も気持ちがすっきりしました」
東野が連続テレビ小説に出演するのは2回目。「おちょやん」(2020年11月~21年5月)で主人公・千代(杉咲花)の友人・みつえ役を好演して以来だ。今回、「風、薫る」の主人公オーディションを受けたが落選。ところが、後日、ツヤ役での出演依頼を受けた。
「私は普段、その人物がどんな人生を歩み、どんな時にどんなことを感じるかということを緻密に考えてから撮影に入ります。でも、今回は看病婦という職業の情報がなく、当初の役柄の設定が『まだ自分が見つかっていない感じの人』ということだったので、定めずに臨もうと考えました。これまで以上に周りのお芝居を受ける中で芽生えて来るものを大切にして作っていきました」
最初の撮影は、りんや直美ら看護婦見習いの女性たちと初対面するシーンだった。
「いつもと違うやり方で現場に入ったので自分が浮ついているような感じがしました。でも、周りの皆さんがどっしりとそこに存在している感じで、安心感があったので、すぐに不安は払拭できました。いつもは体のどこかに緊張感が走っているような感じで、それが良い方向に働くこともあるし、悪い方向に働くこともあるのですが、今回はいつもよりフラットにできる感覚があって、やりやすかったです」
ツヤは当初、目立たない人物として描かれていたが、第13週で物語の中心に躍り出る。
「撮影中に台本を頂いて、帰宅したら読もうと思っていましたが、先に読んだ人たちから『凄いですよ、13週』と言われ、見上さんからも『大活躍、13週』と言われました。どういうことだろう?と思いながら読んだら、なるほど、ツヤの人生の激動の時が描かれていて、これはさらに頑張らないといけないと思い、覚悟を決めて撮影に臨みました」
第63回(6月24日放送)に、看護婦の勉強を始めたツヤが授業中、筆で文字を書くのに苦労するシーンがある。
「書道の先生に途中まで書いて頂いて、それをまねして書く予定だったのですが、難しくて『最初から書かしてください』とお願いしました。どんな字を書くかは先生に相談して決めました。普段の字より崩して書いていますが、わざと下手に書いているように見えないように家でも練習しました。先生に『味わい深い字ですね』と言われ、自信がわきました」
ツヤは働きながら勉強を続けるが、やがて疲弊し、仕事に影響を及ぼしていく。
「勉強している姿を意識しました。私は集中している時、口が少しとがって『子供みたい』と言われることがあります。大人も必死な時、無邪気に見えることがあるので、ツヤも無邪気でかわいらしく見えたらいいなと思いました」
そして迎えた第65回。自身が撮影現場で感じたことに忠実な芝居をし、それが制作陣に受け入れられ、放送されるに至った。そこに東野の役者としての力量を感じる。
「リハーサルの時、演出の方に自分から話しかけるようにして方向性を定めていきました。一緒に作っていった感じです。撮影がストレートに進んだので逆に心配になって『大丈夫でしたか?』と聞きに行ったのですが『いいシーンでした』と言って頂いて安心しました」
第65回の完成度の高さは東野の芝居を受けた見上の貢献も大きい。
「見上さんは、ただ目を見るだけで、こちらの感情が引き出されます。見上さんはご自身で感情を爆発させることができる方ですが、今回は役柄として周りのお芝居を引き出している。周りを引き立たせることで自身が輝いている。器の大きさが素敵です。年齢は私の方が上ですが、とても頼りになる方です」
さて、ツヤは本当に看護婦になれるのか?再び東野が出演する日が訪れるのか?今後の大きな楽しみだ。
◇東野 絢香(ひがしの・あやか)1997年(平9)11月9日生まれ、大阪府出身の28歳。女優を志して18歳で上京。2018年、VIPO主催アクターズセミナー賞優秀賞受賞。19年の舞台「掬う」などで注目され、20年のオーディションで「おちょやん」に出演。映画「正欲」(23年)や映画「ミーツ・ザ・ワールド」(25年)など、多彩な芝居で幅広い役柄を演じている。趣味は編み物。
◆牧 元一(まき・もとかず) スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。
