創業111年の歴史を持ち、上質なレザーと職人技で語りかける“メイド・イン・ミラノ”のバッグブランドがある。ファッション業界に大きな影響をもたらしたイタリア版「ヴォーグ(VOGUE)」元編集長のフランカ・ソッツァーニ(Franca Sozzani)や、伝説的なファッションデザイナーのカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)も虜にしたイタリア・ミラノ発の「フォンタナ ミラノ 1915(Fontana Milano 1915、以下フォンタナ)」だ。

ブランドは、ミラノの中心地で職人の手作業でバッグを作り続ける希少なブランドの一つ。今年、グルッポタナカが日本代理店となり、日本市場に本格再上陸を果たした。来日した三代目オーナーのミケーレ・マッサ(Michele Massa)とパオロ・マッサ(Paolo Massa)兄弟が、世代を超えて受け継がれてきたブランドの哲学や日本市場への期待について語った。

左から、四代目のニコラ・マッサ、三代目オーナーのミケーレ・マッサとパオロ・マッサ
Image by: FASHIONSNAP
ブランド名に込められた”幸運をもたらす”という想い
フォンタナの歴史は1915年、フィレンツェに遡る。芸術家や画家、ジャーナリストとしても活動した創業者のグイド・ピエラッチ(Guido Pieracci)が、工房と店舗と住まいを一体にしたカーサ・エ・ボッテガ(Casa e bottega)を立ち上げた。ブランド名のフォンタナはイタリア語で「泉」を意味し、”幸運をもたらすもの”として古くから親しまれてきた言葉だという。工房の庭には泉があり、その水面に浮かぶ葉をイメージしたモチーフが誕生した。今もバッグの内ポケットにひっそりと刻まれている。

バッグの内ポケットを縁取る“水面に浮かぶ葉”のモチーフ
1945年にミラノへ拠点を移し、中心部のポルタ・ロマーナ地区に工房を構え、ブランドとしての本格的な成長を遂げた。1981年には芸術家で彫刻家のジョ・ポモドーロ(Giò Pomodoro)がデザインした「F」ロゴがブランドのアイコンとして認知されるようになった。

フォンタナのものづくりを語る上で欠かせないのが、「職人的工業(artisan industrial)」という独自の哲学だ。ミラノ本店は工房と一体となっており、日々職人たちがバッグを制作している。「職人が育つ最高の環境は、若い世代とベテランが共に働くこと。かつてはどの店に行っても、その裏で職人が作っていて、お客さまはそれを目の前で見ることができました。今、それができる場所はほとんどありません」とパオロ。

ミラノのアトリエの様子
Image by: Fontana Milano 1915

バッグは価格帯38万〜130万円台

バッグは全て受注生産。レザーと金具の色のカスタマイズやイニシャルの刻印にも対応している。
ミラノを拠点にしながらも、ミラノ・ファッションウィークに合わせたコレクション発表は行わない。「私たちはしっかりとスタイルを持っているので、トレンドを追うことはありません。ファッションは時代によって変わりますが、スタイルは永遠に残ります」。
その言葉通り、フォンタナのバッグはシーズンによって大きく変化することがない。アイコンバッグ「A」はアルファベットの最初の文字であり、フォンタナを代表するモデルだ。「Atypical(型にはまらない)」「Authentic(本物)」「Attractive(魅力的)」の意味も込められており、大きなフロントポケットと馬具由来のブライドルストラップが特徴。男女問わず持てる都会的なブリーフケースのような佇まいで、世界中の顧客から長年愛され続けている。
スタイルが変わらないということは、ずっと使い続けられるということでもある。普遍的なデザインと高い耐久性は、次の世代へと受け継ぐことができるサステナブルな形。それもまた、長年ブランドが支持されてきた理由のひとつだろう。

アイコンの「A」バッグ
ファッションの玄人たちが
フォンタナを選ぶ理由
セレブリティをはじめ、ファッション業界のプロたちにも長年選ばれてきたブランドでもある。特に印象深いのが、イタリア版「ヴォーグ(VOGUE Italia)」元編集長のフランカ・ソッツァーニ(Franca Sozzani)の逸話だ。普段ハンドバッグをほとんど持たない人物として知られていた彼女が、愛用し続けたのがフォンタナの「Mini A」バッグだったという。色や素材違いで所有し、あらゆるイベントにこのバッグを携えて来場する姿が多くの写真に残っている。

フォンタナの「Mini A」を愛用していたフランカ・ソッツァーニ Photo by Venturelli/WireImage, Ernesto Ruscio,Stefania D’Alessandro/WireImage (Getty Images)
「Mini A」はスマートフォンやカード、お金、鍵、口紅など必要最低限のものが収まるサイズ感で、ストラップを付けてクロスボディに、外せばクラッチとしても使用できるミニバッグ。シンプルに見えるが、内側もすべてレザーで仕上げている。「小さいバッグほど難しく、より高い技術が求められます。熟練した職人たちが細部まで丁寧に仕上げています」とミケーレは話す。

長年「シャネル(CHANEL)」や「フェンディ(FENDI)」を手掛けてきたファッションデザイナーのカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)も愛用者の一人だったという。「本当のクオリティを理解している人たちが選んでくれていることが、何より誇らしい」とミケーレ。

「Mini A」バッグ
円安や物価高の逆境でも
再上陸に向ける期待
フォンタナと日本の縁は深い。まだヨーロッパのブランドがほとんど日本に進出していなかった1960年代に、父・カルロ・マッサがいち早く日本市場に参入した。「日本人はクオリティに対して非常に敏感です。イタリアと日本の美意識には、共通するものが多いと感じます」とパオロ。その後一度退くも、バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)などのセレクトショップでも扱われてきた。

フォンタナは現在、ミラノに構える自社ブティックでの販売を中心とした限定的な販路に留めているが、日本だけは例外だという。円安や物価高といった逆風の中で再上陸を決めた理由を問うと、「大手ブランドでさえ、今は戦略に迷っています。だからこそ、私たちは今がチャンスだと思っています。日本はクオリティーの高いものを見極める人がたくさんいる国。私たちはそうした方々に、本物のラグジュアリーバッグを届けたいと思っています」とパオロは語った。モノの価格が上がり続ける今、安さではなく、価値のあるものに投資したいと考える消費者も増えている。ブランドの知名度やロゴではなく、上質でタイムレスなバッグの価値はさらに見直されていくだろう。



文・大杉真心
Mami Osugi
ファッションジャーナリスト
文化女子大学(現文化学園大学)でファッションジャーナリズムを専攻、ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でファッションデザインを学ぶ。「WWD JAPAN」記者として海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズの取材を担当。2019年、フェムテック分野を開拓し、ブランドや起業家を取材。2021年8月に独立後、ファッションとフェムテックを軸に執筆、編集、企画に携わる。2022年4月より文化学園大学非常勤講師。
