【著者に聞く】電子書籍に置き換わらない紙の本、『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』の林望が語る本の価値

    「紙の本は電子書籍に置き換わらない」と林氏は語る(写真:years/イメージマート)

     電子書籍が普及し、スマートフォンやタブレットでコミックを楽しむ人も増えた。一方で、紙の本の人気も根強い。作家で書誌学者のリンボウ先生こと林望氏は「電子書籍が紙の本にとって代わる可能性は極めて低い」と語る。デジタル化が急速に進む現代において、なぜ紙の本は変わらぬ魅力を持ち続けるのか。『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』(朝日新聞出版)を上梓した林氏に、話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

    ※本記事では、「本」は「書物(=紙の本)」を意味しています。

    ──本書の冒頭で、電子書籍と紙の本を比較し、圧倒的に後者を支持していました。

    林望氏(以下、林):紙の上に書かれた文字を読むことと、電子的に表示された文字を読むことは全く別物です。

     編集者の方からは「パソコンのディスプレイ上で校正しているときには見落としていたことに、プリントアウトした紙で見ると気付くことがある」という話をよく聞きます。

     紙の上に固定された文字は、目から脳へとじっくりと染み込んでくるのです。一方、電子的に表示された文字では、なぜだか視線が素早く移動して流し読みになってしまう。脳の奥深くまで届いているとは到底言えません。

     電子書籍はテンポよく読めることがメリットかもしれませんが、長編の傑作をじっくり味わうにはそぐわない。

     私は、電子書籍が書物としての本にとって代わることはないと常々思っています。現在、電子で売られている書籍の約9割が、コミックです。書籍・雑誌が占める割合は1割程度。読者のニーズがないということでしょう。

     新刊書が書店にある、インターネットでも買える、そして電子版も同時に出ている場合、やはり紙の本で読もうと思う人が多いのが日本の現状なのです。

    ──文字が並んでいるという点は同じにもかかわらず、電子書籍では内容が頭に入ってこないのは不思議ですね。

    林:紙の上に書かれた文字を読むという経験を、私たち日本人は奈良時代から約1300年にわたりやってきました。読書文化に関しては、西洋とは異なる長い歴史を持っているのです。

     そのため、紙に固定された文字への愛着が、日本人には非常に強くなっている可能性は否定できません。昨日今日始まった電子書籍で、1300年という歴史に培われた文化を覆すのは難しいのではないでしょうか。

     多くの言語は、1種類の文字体系で文章が書かれています。英語であればアルファベット、中国語では漢字、韓国語ではハングル。

     一方、日本語は世界でも類のない文字体系を持っています。漢字、ひらがな、カタカナ、そしてアルファベット。この4種類の文字を当たり前に使い分けています。同じことをひらがなで書くのか、漢字で書くのか、カタカナで書くのかによって、全くニュアンスが違ってくる。紙の本という形態は、そうした言語文化にマッチしています。

    ──日本語は、文字の種類によって意味だけでなく感情やニュアンスまで表現していて、紙の本はその微妙なニュアンスを伝えやすいということですね。

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